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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
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一石三鳥

トロイ殿下との交渉の数週間後、蜥蜴族(リザードマン)の集落までジーク、トロイ殿下、そして私の三人を筆頭としたゴブリンと数名のダークエルフ、小人族(ハーフリング)による100人程度で赴いていた。


シズとルースラはそれぞれ自種族の警備体制の改善を命じてある。ただでさえ命取りが多い土地だからな。


「我々はゴブリン=ダークエルフ連合軍である!此度は小人族との河川の領有権争いの仲介に参った!」


ジークの大きな声にリザードマンの民衆たちは隣り合う者たちと小さな声で会話を始める。


聞いていた通り、服飾は腰布一枚で、石器しか使わず、居住地も藁でできている。文明レベルは狩猟民族である豚鬼族(オーク)と同じ程度に低いらしい。


奥から一人、小さな鉱石の装飾品で着飾ったリザードマンが二人ほど側近を連れてこちらへとやってきた。


「オ…ごほん。お待ちしておりました。私は酋長のブーリャ。私の横におりますのは我が息子の次代酋長ムドレーツとその弟、狩猟班長のヴォークでございます。しかし申し訳ない。この通り、文明があまり発達していないのが我々リザードマン。閣下をお招きするには少し、貧相な村でございますがお許しくだされ」


このブーリャという男、他のリザードマンとは雰囲気が違うな。その息子二人も含めて上に立つ者としての精神が備わっている。何としても手に入れたいものだが、どう動くべきか…。


「その心遣い、痛み入る。しかしその心配は無用だ。私が目覚めてから見た最も発達した建築物はゴブリンの砦くらいのものだ。それに此度は客人として参ったわけではない。ただの仲介役でしかない」


私は少し後方に控えていたトロイ殿下に合図を送り、それに応じた殿下は前に出る。


「使節に持たせた書類のとおり、此度の争いは我々としても本意ではない、対話にて決着をつけたく参った」


「この公衆の面前では腹の探り合いもできぬというもの、部屋を用意しております。ぜひそちらでお話をお伺いしましょう」


ブーリャ一人が私を含む使節の対面に座っている。


「次代酋長ムドレーツ殿は同席なさらないのですか?酋長殿」


私の問いかけに少し間を置いてブーリャが口を開く


「我が愚息はまだ経験不足故に閣下の御前に出すのは些か無礼というもの。それに此度は中立的な使者として、こちら側の仲介者を在席させたいのですが、よろしいですかな?」


ほう、まずはここで酋長とその息子が死んでもリザードマンの管理運営が滞らないように次代酋長を安全な場所へ置き、更にもう一手。明らかに無礼な行いではあるが何の連絡もなしにあちらの協力者を同席か。ここで拒否すればリザードマンはこちらの言うことを聞かないだろう…。


それに、気配を隠してはいるがこの部屋を囲むように幾人かの兵士が配置されている。


「そ、それはこちらの仲介者に不満があるということですか?それならばこの話はなかったことに…」


トロイ殿下は私の静止するように手で促すと、その血気を止める。


武人としての才覚はあるが、現在のままでは王としての経験はまだ足りないように感じるな。先の死の行軍(スタンピード)から優柔不断と熟慮が目立つルースラとは真逆で即断即決で短慮の傾向がある。


お互いを高め合う良きライバルになるとは思うが、今は私が統治者としての手本を見せてやろう。


「良いでしょう。互いに利がある仲介が最も望まれる形、ぜひお招きくだされ」


ブーリャは部下に指示を出すとそれなりの大きさをした二足歩行の猪…いや、豚鬼族(オーク)が入ってきた。


「まずは自己紹介を。私はオーク族頭領ダズベッヒ。我が一族はかつて魔王軍六大魔将軍が一人であったオークロードの子孫でございます」


それそれ自己紹介を済ませ、会談が始まる。ダークエルフには代表がいないが、蟲人族を除けば現在すべてのこの大森林の人型の種族が一堂に会している。


「まずは小人族としての要求を伝えましょう。小人族と蜥蜴族それぞれの生活圏の境にある河川において漁を行う時は小人族の承認を必要とすること、また…」


ここでダズベッヒが口を挟み始める。


「お待ちくだされ、蜥蜴族は既に数百年前にはこの地で狩猟を始めていました。それが外様の小人族に許可を得なければそれすら許されないというのは不平等に他なりません。話が違うではありませぬか?」


「小人族としてもこの地は唯一貴重な食肉を安全に獲得できる河川、蜥蜴族の繁殖はゴブリンほどではないが非常に速いペースで増えていく。いくら肥沃な地と言えども増え続ける蜥蜴族と小人族の食肉を賄いきれるほどではございません。代案もございますが、そもそもの今回は小人族が河川の水を生活用水として利用していたところを蜥蜴族に襲われて死者が発生したことが発端、ここでは金銭があまり価値を持たぬ故、多少こちらも安心して河川を利用できる保証が欲しいのです」


私の口から唱えられる明らかに不平等な条約にダズベッヒの歯ぎしりが部屋中に響き渡る。


「…なれば、代案をお教えくだされ。そのあとにこちらの案と擦り合わせて双方納得できる形に致しましょう」


私が合図を送るとトロイ殿下が口を開き始める。


そうだ、そもそも最初の条約は通るはずもない要求。こちらが小人族としての本命ではあるが、私が最も利益を得る方法は小人族の要求を通すことではない…。さて、どこで動くべきか。


「…代案としては、まずは小人族が河川を生活用水として利用することを承諾すること。次に河川で取れる食肉を公平に分け合うことです」


すると、相手方は…いや、ダズベッヒは拍子抜けしたように「これなら…」と賛同の眼差しをブーリャへと向ける。


「非常に魅力的ではございますが、魚は全て一律ではない、栄養状況や時期によっても違いが出る。そもそも様々な種類の魚が生息する河川だ。完璧な公平性を保つことは不可能、いずれほころびが生じますぞ。それに、先ほどダズベッヒ殿が申した通り、そもそもここは我々リザードマンの領地。そこに小人族が間借りしていただけの話。平等を申されるなら即座に退去なされ、それが先住種族に対する敬意と平等というもの」


「ブ、ブーリャ殿!ここは我々オークの顔も立ててもらわねば困りますぞ!そのような姿勢では平和的決着など…」


「そもそもリザードマン酋長ブーリャ殿は平和的な決着を望んではおられないのでしょう?ここで我々を一網打尽とし、リーダーを失った種族を呑みこみ、大森林において版図を拡大することが主目的。その証拠として外に控えていた暗殺者数名を捕らえさせていただきました」


ようやく酋長ブーリャの顔に焦りが見える。


「貴様…いつから気がついていた」


「はて…いつからでしたかな。少なくともこの作戦を妨害できるように兵士に指示を出していた時には気がついていたでしょうな」


ここからは小人族と蜥蜴族の利権争いではなく、ゴブリン=ダークエルフ総統の私アドルフと、リザードマン酋長ブーリャとが、どちらが大森林において覇者としてお互いを食らい尽くせるかの戦いだ。


「はっきり言って、我々と友好関係にあるのは豚鬼族のみ、ゴブリンもダークエルフも、まして小人族は友好とはいいがたい。もはや形骸化した友好条約はあったが、外から来る敵対勢力より現在ではお互いが目の上のたん瘤のような存在へと変貌している。お互いがしのぎを削り合っている間に魔物に対抗する術も兵力も持てずに全滅など笑えん。それならば我が種族が支配して、魔物や魔族、人間族に対抗する勢力を作り上げるべきだと思ったまで。我が覇業のためにはあの河川は最重要、血を流さず、はいそうですかと譲れるものではないわ」


「…ならば、血が流れたら認めると。戦争でも始めますかな?酋長殿」


「アドルフと申されたな。部下からヴラド姓を名乗っていることも聞いた。我が軍勢は現在4000千近くを有している。あなたをここで足止めすれば我が軍勢が死に物狂いであなたの連合軍に襲い掛かり、壊滅的な被害を与えることでしょう。あなたの最終目的は私の目から見たら人間族と魔族に対する復讐と考えられる。ならばその軍勢が半減するだけで相当な痛手のはず。それに現魔王は先祖返りと呼ばれるほどの実力を持ち、人間も国家として強大なだけではなく、最近では勇者召喚の儀式を行っていると聞く。それに対抗するため我が軍勢の協力は喉から手が出るほどに欲している。違いますかな?」


一部勘違いはあれど、大筋は当たっている。やはり侮れないな、酋長ブーリャ。


「お互い、やるべきことは決まっていると存じますな。どちらが支配するか、リーダー一人の血で決着をつけるべきと」


「…一騎打ち。私は智謀ではなく、力で酋長に上り詰めた。小人族と豚鬼族の首領お二方に見届け人をお願いしたい。一騎打ちにて、勝った方が負けた方を支配する。だが、魔法を使われては困る。槍にて勝負を着けましょう」


一騎打ちはその夜すぐに始まった。


ルールとしてはどちらかが戦闘不能に陥るまで終わらないこと。始まりはトロイ殿下の合図で行われる。


実にシンプルだ。


「しかし、少しこれでは動きずらいな、血液の帝王の正装(スーツ)をタイプ4へ移行。戦闘態勢へと入る」


「_____種族装備《血液の帝王の正装(スーツ)》を事前設定のタイプ4へと形態変化申請が確認されました、タイプ4へと形態を移行します」


裏でこの種族装備スーツについて研究していた結果にできたことだが、毎度この脳内アナウンスは煩くて敵わんな。


種族装備血液の帝王の正装(スーツ)は私の全身を覆う赤黒い液体状の物体がやがて漆黒の軍服へと変化する。


「随分と珍しい服装だな、てっきり甲冑でも身に纏うものかと思ったが」


「甲冑を着用した経験が少なくてな。それにこれでもそこらへんの甲冑よりは中々に破ることはできないぞ。ただ、服装の珍しさで言えば酋長、お前も大概だぞ」


酋長ブーリャは動物の骨を兜のように装着し、枯草の衣服を身に纏っている。


「自然信仰が未だ根強い我が種族の戦闘服だ。それに、次で最後の質問とさせてもらうが、お前の武器はどこだ?槍を持っていないなら貸してやらんこともないが」


「必要ない、始まればわかる」


それに石器の槍では固い鱗を持つリザードマンに致命打を与える前に壊れてしまいそうだ。


そのような問答が終わると、トロイ殿下は右手を天高く掲げる。


「両者、構え!!」


その場に緊張が走り、一切の喧騒が止む。


「…はじめ!!」


トロイ殿下は右手を振り下ろし、戦いが始まった。


先に仕掛けたのは酋長ブーリャ、力強い一閃で私の頬を掠める。


「殺ったァ!!!」


私の頬を掠めた穂はブーリャの剛力で私の首を切り落とすように薙ぎ払われる。


相手が私でなければ今の一瞬で首が地面に落ちていただろう。


帝王の鮮血槍(パルチザン)。これが私の武器だ。あまりに遅い攻撃なので避けても良かったのだが、せっかくの攻撃を避けてやるのも忍びないと思ったのでな」


私が作り出した帝王の鮮血槍(パルチザン)は十文字槍。デザインに関してはなんとなく思いついたのでこの形にしてみたが、意外と扱いやすい。恐らくは血液玉から作り出した装備だからというのもあるだろう。


「さて、攻撃は終わりか?」


ブーリャは怒り…いや闘気を顔に表し、息もつけぬほどの連撃を繰り出してくる。


たしかに強い。しかし、そもそもの土台が違うのか、全くもって負ける気がしないな。武器の差ももちろんあるだろう。ブーリャの石の槍にはひびが入り、いつ壊れてもおかしくないが…。


「死ねぇい!!」


ブーリャの槍はその剛力に耐え切れず、欠片を飛ばしながら崩壊した。


だが、瞬き程度の時間で私の喉元数センチの場所には()()()()()が向けられていた。





____もし、私が人間としてこの地に赴いていたのなら負けていたのは私だった。


私の帝王の鮮血槍(パルチザン)はブーリャの右腕ごと鉄製の穂を木っ端のように切り刻み、ブーリャの上半身に大きな十字傷を作る。そのままブーリャは力無く地に付した。


そもそもこの集落にあるものはすべてブラフだったということだろう。鉄器を扱う文化がないと、ただ物量で戦う未開の部族でしかない弱小種族だと印象付けるための嘘。


「殺った」という発言も同じく嘘、あれがなければ奥の手を隠し持っていると相手が警戒すると考えての発言だったのだろう。私も少し油断したのは事実だ。


それを考えるとブーリャやはり、貴様は侮れない男だ。


「さて、私は言ったな。リーダー一人の血で決着をつけると。リザードマンは我が軍門へと下ってもらう。だが、その代わりと言っては何だが、酋長ブーリャの命、私が助けてやろう」


元々ブーリャを殺す予定はなかった。ある程度動けないようにする予定ではあったが、致命傷を与えることになるのは想定外だったな。リザードマンに恩を売るためでもあるが、私はこれほどの男をそう易々と死なせるほどの愚者ではない。


まあ最も、あれほどの傷を受けたシズがケロッとしていたのだ。実験として眷属化の瞬間的な再生能力について私の中である程度のデータを集めたいからな。


私は自分の指を切り、その血をブーリャの口の中へ入れる。あとは私の血液操作で腹まで入れて、私がブーリャの血を呑む。


「____個体名【ブーリャ】への略式儀礼を確認。眷属化を…回答が確認されました。個体名【ブーリャ】の個体名【アドルフ・ヴラド】の眷属化が完了しました」


ブーリャにつけた傷の周囲の筋組織がそれぞれ動物に流動し、傷を覆い、眼が覚める。


「…私は負け、そして生かされたのですな。生殺与奪を支配されたというのなら、もはや何も言うことはない。アドルフ閣下、あなたに絶対の忠誠をリザードマン代表としてここにお誓いいたします」


ただ今の一騎打ちの圧倒的能力差を目にした面々は私に抗う気力を失ったのか、一切反対の声があがることはなかった。


「リザードマン酋長ブーリャ、大儀である。小人族の要求は先ほど提示した代案を通させてもらうぞ、異論は許さない。また、オーク族頭領ダズベッヒ。ここにオーク族も我が軍門に下ることを命ずる。拒否するというのなら殲滅するのみ。如何する?」


「…これほどの実力差を見せつけられては反抗する気も起きぬというもの。閣下の覇業を我がオーク族がお支えいたしたく存ずる」


「閣下、此度は我が小人族に協力いただき感謝いたします。我が小人族も閣下の軍門に下ることをお約束いたします。閣下の覇業を小人族は全力で支持いたします」


ダズベッヒとトロイ殿下の眷属化は全てが落ち着いてからで良いだろう。


こうも上手くいくとは思わなかったが、実力差を見せつけるという一石を投じ、これにて三鳥は我が手中に収まった。


次は蟲人族(デミインセクト)を我が手中に収めるか?…どう動くべきか、迷うところだな。

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