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異・セカイ生存圏  作者: オール・マッド
序章「吸血鬼アドルフ」
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亡国の小さき王子

_____まずは先日の調略の結果について簡単にまとめよう。


一つ、最も限りない成功を収めたのが土人族(ドワーフ)への調略。ジークはゲオルグ・プライドの団員をすべて我が勢力下に置けたのは大きい。既に倉庫内に余っていた鉄鉱石の製錬が始まり、非常に品質の高い武器が生産されつつある。


鉱脈に関する資料を色々と見漁ったが、魔鉱石…ルースラから聞いた話では普通の金属鉱石が周囲の潤沢な魔力を吸い込み、発生するといわれる代物の鉱脈、その他中世でも非常に有用な鉱石、その多種多様な鉱脈の存在が確認されている。


いくら危険な土地であっても喉から手が出るほど欲しい土地だろう。


さて、話を戻そう。


次に、獣人族(ビースト)の調略。ルースラに私の血液を忍ばせ、意思疎通を取りながら行ってみたが、彼らは金でしか動かない。いや、正確に言えば彼女は金でしか動かない。その部下の目的は闘争、そして獅子王レオ(ロード・レオ)の再来…恐らくはライオン系の種族のカリスマが誕生することだろう。ここら辺の資料は全て宗教色が強かったり、自己解釈によって訳が分からないものがほとんどだった。


例えば、獅子王レオは不死身で、次の身体に乗り移るために休息期間を設けて再来するといったようなものだ。この世界でもそのような記述はここ以外では神話の一幕くらいにしかなかった。恐らくはただの嘘だろう。


最後に人間、いやその生き残りのハンクという男。彼は既に自分の身の置き方について疑念を感じていた。それは己に眠る野心からか、自国の体制に対する不満からか、故に底知れない。彼の国は後ろ盾になるとも踏んでいなかったし、現在ヨークランド連盟王国は先代の国王の活躍により、周辺国を呑み込み大国として名を連ねている。いくら現在が暗愚だとしてもこちらに乗っかるバカはいないだろう。


なのであえて、脅迫のみに絞って、話を進めた。調べてみると奴の軍勢はかなりの寄せ集めで数も数百程度の少数。勝てて当然だが、奴らの損害は他の人間部隊に比べて極端に少なかった。もし、ヨークランド連盟王国と本格的な戦いになり、ハンクに戦闘慣れした大軍の指揮権が与えられたと考えたら…面倒だと言えるだろう。戦術レベルでは一部負けてしまうかもしれないと思うと、面白いな。


「しかし、ゲオルグ・プライドという即戦力が手に入ったのは大きいな。連合軍に負傷兵が多い現状、この魔境で生き延びるためには使える者はすべて使わなければ…」


私が書類で資料に目を通し続けていると、突然ノックが鳴る。


「ルースラでございます、閣下。「連合軍の采配見事、ぜひ一度私とこの大森林内部の情勢を鑑みて、意見を交わさないか?」という知らせが参りました」


「いったい誰だ?まさかヨークランドの連中が宣戦布告の書状でも送ってきたか?」


「いえ、亡国の小さき王子、我ら魔物と認定された種族の中で、唯一元人族の括りに入っていた小人族(ハーフリング)の王室の末裔がここに来ると」


私のジョークをルースラはなかったかのようにスルーした。いや、まあいい…。


「小さい分手先が器用で、動きも機敏で斥候として非常に優秀といっていたな。他にも弓の名手であるとか、その小人族(ハーフリング)の王子か。いずれは取り込む予定だった種族だ。そちらからきてくれるならありがたい。準備をしよう、今領土は小さくとも人間に殴り込みに行く正当性を確保できる」


数日間、小人族一行を迎え入れる準備を整え、約束通りの日時に彼らは到着した。


平均身長が120センチ程度、その中でもひときわ小さいが、赤く豪華なマントと小さく美しい王冠を身に着けた子供…恐らく彼が王子か。


「この度は多忙な最中に会談を取り付けていただき感謝する。貴殿の功績については、お噂は予予承っていました。アドルフ閣下」


100センチもないだろう体躯からは想像もできぬほど上品で美しく、何よりも勇ましい。ルースラとは違った器量の持ち主だろう。


「亡国の小さき王子、トロイ殿下。此度のご訪問を歓迎いたします。本来であれば今日一日くらいは休まれていただきたいものだが、用件は火急とお伺いした。早速お話をお伺いしましょう」


トロイ四世、それが小人族(ハーフリング)王室唯一の生き残りである彼の名前だ。武勇に優れ、弓だけでなくレイピアも使い、糸を縫うような細かな剣戟でいくつもの戦功をあげたと聞く。もちろん、統治者としても優秀で、革新的な政策をいくつも取り入れているとか…。


「それで、火急の用件というのは?」


「あぁ、現在我々小人族(ハーフリング)は密接した蜥蜴族(リザードマン)と河川の利権争いが激化し、対立が深まっているんだ。元々我々が近年まで人間族として地位を築いていたこともあり、他種族との関係は芳しくない。この度は我々がアドルフ閣下の傘下に入る代わりにこの争いの仲裁を願いたいのだ」


「少し、気になることが」


「どうした?我々はゴブリンほど誇りに生きているわけでもダークエルフほど忠義に生きているわけでもない。我々について疑問があることならなんでも答えよう」


「殿下は近年まで人間族であったと申された。そもそも少数種族が迫害されたのは数百年は前、ハーフリングに関しても資料では少なくとも300年は前に吸血鬼信仰が蔓延していたことがあり、迫害が始まったと…」


トロイ殿下は小さく線の細い拳を握り込み、下唇を血が滲むほど強く噛む。


「すべてはヨークランド連盟王国と事実上、その傀儡である宗教国家【西方ガーデン教皇領】の策謀によって作り変えられた歴史だ…!!我々はヨークランドの領土的野心を埋めるために真っ先に狙われたんだ。西方ガーテン教会、奴らは人間族(ヒューマン)を最上の種族として、次にそれ以外の亜人、その下に魔族や魔物、吸血鬼というように種族そのものの価値を決めつけている。西方ガーデン教会はここ百年は最も過激な宗派に染まり続け、ヨークランドはそれを利用し、小国であった我が国クライン王国に対して【聖戦】と称して蹂躙の限りを尽くした」


トロイ殿下の呼吸は気がつけば荒くなり、眼に溜まった涙に光が反射する。


「民は串刺しにされ、部下たちは首を刎ねられ、家族は凄まじい拷問の末に、内臓が腹からずり落ちて絶命したものまでいた、小さな子供も含めて…だ。逃げれたのは…いや、逃げたのは私だけだった。英雄とまで言われた私は本来は最前線で戦って果てるべきだった。しかし、父上は私だけを少数の供回りと共に逃がし、自分たちの最期を受け入れていた。再三援軍の要請を行ったが、同盟国は皆、我々と同じように殺戮の限りを尽くされることを恐れて助けてはくれなかった。これがほんの三十年前の出来事だ。ただあまりに残虐の限りを尽くした結果、周辺国の批判が寄せられた。西方ガーデン教会は数千万人も信者がいる、その影響力は絶大で彼らが()()()()()()()()に周辺国家は半ば強引に納得し、ハーフリングを全力で迫害した。悪魔崇拝者としてな」



腐敗した正義の犠牲者、それがハーフリングの正体か。しかしヨークランドの先代王であったか、随分と酷い手を考えるものだ。たしかにそれほどの影響力を持つ宗教が自分の行いを正当化するならば私も同じ手を使っていたかもしれんな。少し、詰めは甘いところは否めないが…。


「だが、我々は今憎しみに生きることすら許されないほどの弱小種族だ。元々体が丈夫な方ではないし、今生きることに手一杯。アドルフ閣下、我々を救ってはいただけないか」


その憎しみ、いずれ使わせてもらうぞ。世界を搔きまわすには十分な憎しみだろう。


「…良いでしょう。元々あなた方とは手を結びたかった。あなたから申し出てくれるならこちらとしてもありがたい。リザードマンとの河川の利権の仲介に関して詳しく話を進めましょうか…」


このままただの公平な仲介も良いが…リザードマンについての資料を集めよう。もしかすると一石二鳥の…いや、うまくいけば三鳥まで落とせるやもしれんな。仲介の期日は少し遅く伝達するとしよう。


我が策略はどれほど通ずるか、試してみるとしよう。

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