祖国に残るもの
同時刻、ヨークランド連盟王国、謁見の間
「ヨークランド連盟王国国教騎士軍第一六三中隊ハーバート卿、前へ」
ハンク・ハーバートは肥え太った国王の下へと参る。
「はっ、ここに」
「国教…騎士軍として、小鬼族と…吸魔族の大量……駆除!…とその証明となる耳の回収。及びに負傷者を保護…しながらの、帰還。誠に大儀である。そなたの功績を…えー…表して?そなたに、第二級…リリィ勲章を…授与する!また…そなた個人に子爵の爵位を授けよう。えー…帝国のために、以後も励み給え…」
これは私とアドルフ殿の密約の一つ、それによって偽造された功績だ。小鬼族と吸魔族の右耳、恐らくは死体から切り取ったものを功績とする代わりに、生き残った部下全員にアドルフ殿の血を一滴生存者の中に入れ、アドルフ殿の存在を仄めかした瞬間にその者は死ぬ。
恐ろしいが、あそこで全滅する何倍もマシだった。
第87代、現ヨークランド国王オズワルド一世は無能な暗愚、民衆にまで筒抜けた真実である。
「で良いのか?大臣よ」
「はい、流石は国王陛下にございます、彼らの忠義もこれで厚いものになりましょうぞ」
オズワルド一世は紙に書かれた文字を読み上げるだけ、政治は周囲の世襲貴族が執り行い、
「…ありがたき幸せ、我らが王国に騎士として絶対の忠誠を捧げます」
現王太子オズワルド二世はそれを超える才覚なき暴君として、ヨークランドの暗黒時代とも目される。
その一方で、第二王子ハインリヒ殿下は文武両道、民を想い、二十歳にして民衆や部下から非常に厚い信頼を置かれ、その才覚は「天からの使者」と評されるほどの美男子だった。
しかし、ハインリヒ殿下とその母、ブリュンヒルデはヨークランド連盟王国に吸収されたリッターヘルム帝国皇帝の一人娘。王位継承には程遠く、リッターヘルム皇室の血族はブリュンヒルデとハインリヒ殿下を除いて、その才覚と隠し切れぬ野心、外様の出自はいつか自分を殺すことになると恐れたオズワルド一世は数年前に政務の自由を与える代わりに二人を本国から遠く、他国から奪い取ったばかりのとても小さな植民地へと追いやった。
そしてもう一人、才覚のあるものがいた。
それが第三王女ベアトリス様。彼女は女性でありながら王位継承権は4位、初陣から騎士としての才覚と実績を残し、彼女が指揮をする【王国近衛隊ハイ・ローズ】は王国最強の精鋭まで上り詰めていた。彼女自身も前線でいくつもの武功を上げ、戦術家としての側面も持ち合わせる正に女傑。
中央の本国では「王国騎士ベアトリス様在り」と現体制で重要なポストに入れなかった貴族たちがその野心を身に纏い、ベアトリス様を奉じる構えを見せている。
中には彼らへの忠義心で動く者もいるようだが、現在は少数派であることは言うまでもないだろう。
ハインリヒ殿下についてはいまいちよくわかっていないというのがすべてだ。
このハンク・ハーバート、仕えるならばせめて、ベアトリス様のように才覚あるものに仕えたいが…このまま行けば更なる暗愚に我が忠誠を誓ってしまうのは想像に難くない。
私は私のやるべきことを成さねば、吸血鬼と言えどアドルフ殿の軍勢は多くて数千。大協商連盟が健在のうちは何ら問題にはならないが、もはや大協商内ですら確執ができ始めている…。あの底知れぬアドルフ殿はそれをどこかで嗅ぎまわって、崩壊と同時に各個撃破…ということもあり得る。
「…ハンク、数週間ぶりだな」
「…ち、父上にございますか。お久しゅうございます。此度もハーバート家の三男として戦い抜いて参りました」
父上のロック・ハーバート伯爵は男爵であったハーバート家をその功績によって伯爵まで上り詰めた男。あまり父上は自分の半生について話さず、資料も少ないが、周辺国で最も優秀な謀略家として初陣から50年敗北を知らない真の名将と呼ばれている。その証拠に第一級リリィ勲章やロイヤル・スカーレット勲章、騎士ならば誰もが憧れるとされるロイヤルナイツ金十字章を授与されている。
ただ何よりも、父上は人の心を読むのがとても上手い、正直言って今一番会いたくない相手だ…。
「あの大隊長指揮であることを考えれば素晴らしい戦果だった聞いている。しかし、お前ならばもう少し、損害を減らせただろう。私に劣ると言えどその知略は今のヨークランドを考えれば五本の指に入り、武勇も中々素晴らしいものだ。そのうち、私の戦術についてお前の兄弟と共に更に教えてやろう。つい最近も新しい戦い方を思いついてな、いずれ実戦にて効果を確かめてみようと思う」
どうやらバレてはいない…か。父上の戦術はどれも素晴らしい戦果を挙げている。正直この中央ではベアトリス様と同様に敵に回したくはない男だ…。
「いずれご教授いただける日を待ち望んでおります父上。私はこれからしばし休息をいただく予定ですのでこれで…」
「…ハンクよ、私に何か隠し事をしていないか?」
気がつかれたのか…?
「…父上に隠し事など通用すると思っておりません、そんなことをするくらいならと私はいつも正直に話してきたでしょう」
「嘘も秘め事も謀略の元素だ、私に通用する謀であればこの世のどこに行っても通用する。たまには父上と騙し合いでもするか?」
雰囲気が変わった…謀略を考えているときの不敵な立ち姿、このままでは…。
「今日はよい、いずれだいずれ。疲れた頭のハンクと騙し合いでは何回やっても暴いてしまうからな!ただ今日のお前には大きな一つの隠し事の他に僅かながら野心が見え隠れする。貴族として、騎士として野心があることは大いに結構。しかし、もしもその先、王を討ち、次の王となろうというのならお前の相手は私になるだろう」
「は、はい!父上の仰せのままに励んでまいります!」
何とかこの場は問題なく切り抜けられそうだ…しかしこれは早急にどうにかしなければ…ただ、父上相手に謀略を企てたとしても…
「…ふむ、詳しいことはわからないが、あの功績は嘘やもしれんな。我が息子と言えど三男坊主、我が念願の為、その秘め事使わせてもらうぞ」




