ゴブリンと称された者共
「まずは挨拶をさせていただこう、私はゴブリン=ダークエルフ連合軍総大将であり、総統のアドルフ・ヴラドだ。短い間だが、同じ集落で過ごす者だ」
ジークやルースラ、シズといった面々は実質的な種族の国際会議の場には出さず、あくまでも私が両種族をまとめ上げただけのように相手に印象づけている。彼らは目をつけられるには早すぎるからというのもあるが、まだありもしない私の権威を仮想敵に強くイメージが残るように、他の長を出さない。
「私は人間族代表のハンク・ハーバート。ハーバート伯爵家の三男でヨークランド連盟王国国教騎士軍第一六三中隊中隊長です。他の中隊長や大隊の副隊長含め先の戦いで死亡いたしましたので繰り上がりで私が現存する部隊の代表でございます」
この男、見たところ最高でも二十代前半、十代にも見えなくはないがその歳で中隊長とは伯爵家というだけあってそれほどのコネクションがあるのかはたまた…いや、勘ぐっていては気づかれるな。
「次はボクが自己紹介をするよ、ボクは獣人族代表のアイーシャ。豹の獣人で所属はキャティレオ傭兵団。ヨークランド連盟王国からの依頼を受けて第一〇七中隊に所属していたけどボクらの傭兵団以外は全滅。依頼内容はあくまでもただのゴブリン集落の破壊のみ、ダークエルフと協力し、悪名高きヴラドの一族がそれを統治しているならそれはゴブリン集落ではなく、恐ろしき軍集団に他ならない。契約と違う以上、ボクらはあなた方に危害を加える意味がない」
このアイーシャという女の獣人。昼行燈のような立ち居振る舞いをしているが恐らくは相当頭の切れる人物とみた。それに奴の言う通り、獣人のほとんどは戦死しておらず、生存率は98%といったところか、中々に精鋭揃いと言えよう。
「コホン、最後はワシだな。ワシの名はガング。所属はシュタイン地下王国であり、ゲオルグ・プライド。傭兵団じゃ。このナリなんでな、鍛冶師としての商業的成功は不可能。シュタイン地下王国公認の先天的醜形症のみによって構成されるゲオルグ・プライドに所属しておる。ワシはそこの団長じゃ。小さな小さな傭兵団じゃから数万人を有するキャティレオ傭兵団のアイーシャやハーバート中隊長殿よりも相対的な地位は低い。お二人とその部下は他の者たちとは違い、ワシらを見下すことがないのが救いじゃな」
この男、やはり所属はシュタイン地下王国か。ジークやルースラと出会ったときに尋問した兵士から名前を聞いた後、このゴブリンの集落で調査はしていた。
調査の結果、ヒューマン大協商連盟の中では鬼人族の単一民族国家、【東真神国】に次いで二番目に差別のない国家であり、唯一ある差別は彼らのような先天的醜形症に対するもの。それも現在のアイゼンバッハ国王即位後に表立った排斥が禁じられている。
しかし、表立った排斥が消えたとしても、奇異の目が消えるわけではない。法律であったとしても悪習はそう簡単になくならない。そのため、先天的醜形症が打った武器は全く売れず、鍛冶職人という彼らにとっての本能を差別という形で無理やり押さえつけられている。
彼らの本能を我らが開放してやれば、シュタイン地下王国が我らにとっての唯一の取り付く島となるだろう。
「まず、あなた方を賓客としてこれからは丁重にもてなすことを誓おう。時が来たらあなた方を元居た場所まで我々が護衛して送り届けることを約束しよう」
代表者三人はそこで大きな期待と、この後待ち受ける要求に対する小さな不安が胸中に駆け巡る。
「次に、こちらの要求だ。まず一つは、我らの存在を感知している組織名とその理念や資金源などの知っている情報の提供だ」
その時、代表三人が息を呑む。その反応も当然だろう、理念と資金源を押さえれば大まかな推測ができる。
「仕方がない、わしらは敗残兵の身。部下の命が最優先じゃ。戦争ではなく駆除目的の侵攻であるためにこの方に従うほかないじゃろう」
ガングの言葉に他二人の代表が頷く。
「部隊代表として私ハンク・ハーバートから言わせていただこう。元々簡単と言われた任務を失敗した身だ、今更立身出世は望めないだろう。祖国に帰っても生かしてもらえるかもわからん、その要求において私が知ることすべてを話そう」
それからハンクは様々なことを話してくれた。正直ここまで簡単に話してくれるとは思わなんだ。
簡潔にまとめる。 まず、彼らの目的はダークエルフとゴブリンの棲み処の調査、そして殲滅だった。単純で分かりやすいといえばわかりやすい。
まずは彼らが派遣されたヨークランド連盟王国、人間族によるほぼ単一国家。本土が島国で、海外植民地を幅広く保有しており、大協商最大の領土面積を誇っているそうだ。彼らの目的は大陸領土の確保と千年王国の樹立。つまりは恒久に続く栄華というわけだ。資金源は巨大な植民地で生産される綿花や穀物、鉱石資源が主な収入源。
次に、ヨークランドに協力した国家がもう一つ、ゲオルグ・プライドの本拠地、シュタイン地下王国だ。こちらはドワーフを主要民族とした多種族国家だ。少数民族に対する差別はないが、先天的醜形症に対する差別や偏見は根強く、未だに彼ら専用の稼ぎ口が必要とされているほど。彼らの目的は腐敗無き平等な権利の確立だそうだ。また、品質の高い兵器や防具の輸出が彼らの主な収入源だそうだ。
そしてゲオルグ・プライドの収入源は国家規模の依頼。組織としての目的は戦争孤児や、先天的醜形症等社会的弱者の救済。
最後に、キャティレオ傭兵団。彼らは国家に所属していない。獣人族の生まれは基本的にレオル議会連邦という連邦国家ではあるが、自由主義の蔓延によってこうして国に所属しない獣人族が多いという。キャティレオ傭兵団の目的はただひたすらに闘争である。
彼らの思想はこうだ。優等種族たる獣人である我々は他種族を殺戮し、その血によって眠れる本能を呼び起こし、獅子帝王レオの再来のため、躍進するというもの。しかし、国際犯罪組織の思想を上手く利用し、彼らの経典に自己解釈を加え、魔族と魔物の血によって本能が目覚めるとして、方向転換を図ったのがアイーシャだそうだ。
彼女の活動によって国際的な凶悪テロ組織は強大な傭兵団へと変貌し、組織運営の資金を得ているそうだ。
他にも様々な情報を入手したが、ここでは省略しよう。
「さてそれでは各代表には専用の個室を用意させていただいた。明日には帰路についてもらうため、そちらでお休みいただきたい」
三人の代表はそれぞれ挨拶をして個室へ案内され、各々で休息を取ることとなった。
「ここからは調略の時間だ」
その数時間後、ガングの個室に客人が現れる。
「…誰じゃ、刺客というのなら容赦はせんぞ」
「私の名前はジークフリート。アドルフからゲオルグ・プライド代表である貴殿に提案がございます」
ガングは武器を下ろすが、場は変わらず緊張が走っている。
「…入れ、扉越しでは何を考えているかもわからんからのう」
「これはありがたい、お言葉に甘えさせていただきましょう」
ジークがガングの部屋へと入る。
「ゴブリンか。本来であれば切り捨てなければならんが、ワシもゴブリンと呼ばれ、蔑まれた。何を今更といった感じだな。ワシは外相のやつらや人間族の貴族のような回りくどい話は嫌いじゃ。単刀直入に用件を申してくだされ」
ジークは小さく頷くと背中に背負っていた羊皮紙を広げる。
「ゲオルグ・プライドに所属するすべての先天的醜形症患者に対して、他種族と同様の平等な権利、差別なき世界の確立へ向けての協力を要請したい」
ガングは一瞬驚いたような表情を見せて、大きく口を開けて笑い出す。
「何を言い出すかと思えば差別なき世界だと?ワシも数奇者と自称してはおるが、お前さんたちはその何倍も傾いておるわ!」
「詳しく話してみなされ。もしそんな世界ができたのならワシらも念願の鍛冶職人としての道が開けるかもしれんでな、聞くだけ聞いてやろうじゃないか。酒もあると嬉しいのう!!」
___我々の目的の為だ、長い間利用させてもらうぞ。
ゲオルグ・プライドの戦士たち。




