独裁者の死、そして
20XX年日ノ本第二帝国、帝都ヤマト
たった一人の男による独裁によって建国されたこの国は今日で30回目の建国記念日を迎えた。
本来ならば祝福されるべき日だ。しかし、この帝国は建国に数多くの謀略と人の血を要し、新たなる帝国に希望を持ち、官僚となった者が老いて腐敗するには十分な時間だ。
「諸君、今日はよく集まってくれた。本来は祝福すべき日なのだが、どうやらこの国には最近反乱を企てる不届き者が力をつけている。数十年前、自由を自ら捨てた彼奴らが今頃になって自由を求めるという笑えん喜劇を終わらせなければならん」
すると、一際若い大臣が発言の許可を求める。
彼は建国の英雄、その息子だった。実に好い目を持った青年である。
「総統、思想というのは根絶やしにすることはできません。それに世界は再びグローバリズム、そして自由主義を求めています。ヨーロッパ第四帝国が自由主義者を弾圧したことを皮切りに武装蜂起が起こり、結果崩壊に至ったニュースも記憶に新しい、ここは共存を考えるべきかと」
彼は勢いのあまり立ち上がる。その行動すべてが実に若い、理想論を掲げ、良い未来ばかりに目を向ける姿は実に青い。
「お前は若い、この国の建国したときを知らないお前には自由の腐敗がわからないのだろう。それに今更だ。すでに我々はこの生き方を、国を変えるべきではない場所まで来ている。私が問いたいのは弾圧の方法であってそのような机上の空論などではないのだよ」
すると彼は何かを言いかけるが、すぐにやめ、座り込む。
「他に何か案のあるものは」
私のセリフに数人の大臣が挙手を行う。
すると先ほどの青年がブツブツと小声で呟いているのが聞こえた。
「貴様、発言の許可はしていないぞ」
彼は何かを思い詰めた顔で再び立ち上がる。
その手に大きな鞄を抱えて
「自由万歳!!!!!!」
____________それが私の最後の記憶だ。
「それで、私は死んだのか。百年ほど前に私の先祖の暗殺に使われた手法で。今度は成功してしまったのだな」
私の目の前には白い世界が広がっている。そこには私とたった一人、私と同程度老いている男が立っているだけだ。
「そうだ、お前が作り出した国は少数民族を、そして少数派の思想家達を弾圧した。本来であれば地獄送りであろう。しかし我はお前の魂の救済に用いる手法には苦痛ではなく信仰、愛だと考えている。お前の生い立ちに足りなかったのは愛と信仰だ。お前の魂の救済に適した世界への転生を行おう」
この老人のいう魂の救済というのが何かはわからないが、愛と信仰というのは実にくだらない。
「………なに?」
老人が私の考えていることがわかるようだ。
「くだらないというのだ、私に救済は必要ない。老いぼれ、貴様がだれかは知らないが私はすべてを自分で管理してきた。貴様は自由主義者共のように醜く愚かだ。理想論ばかりを掲げる貴様は実に愚かだ」
「我は主、あるいは神、あるいは超常。我は直々にお前の救済を行うと言っているのだ、なぜ受け入れん?それと老いぼれはお前だけだ、私にとって姿形というのは意味をなさん」
すると老いぼれは少年、女性、鹿というように様々な姿に自らを変えてみせた
「貴様のような神がいるものか。死んだ人間の言葉に腹を立て、次から次と姿を変える貴様はまるで子供のようだったぞ。それに私は信仰などというものに頼るほど愚かではない。いい加減に理解しろ、私に救済など必要ないのだ」
「死人のくせによく回る口だ、お前が分からずやなことは理解した。しかし、お前にも愛や信仰というのがあるはずだ。お前の深層の意識にな。その愛や信仰の対象を我が再現してやろう、それでお前もただの人の子であるということを教えてやろう」
すると私の目の前に現れたのは驚愕を顔に浮かべる私だった。
「何故だ!?お前は誰も愛さず、その小さな信仰心すら自分を対象にしているなど………」
この愚かなる自称神は無駄だということを理解できないのだろうか
「悪魔…お前はまるで悪魔のようだ、お前には愛と信仰も、地獄すらも生ぬるい。文明の発達していない世界でお前が忌み嫌った少数種族として家族もおらず、陽を浴びることすら許されず、死ねない体で永久に苦痛を与え続けられるの存在として転生するのだ!!」
「ふざけるな、貴様のヒステリックに付き合わされるのはごめんだ。私には世界を我が手中に収める野望が………」
私の視界は暗転した。
しかしこれでもう一つ目標ができた。
「あのヒステリックな自称神に目にもの見せてやる。そうだな、例えば私がやつのセカイを手中に収めて見せれば少しは気が晴れるか」
どうも作者です、ポリコレに配慮して少数民族が主要キャラを務めるラノベを作る予定です。