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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

林檎が実る頃

作者: 白川明
掲載日:2023/07/01

 地下はいつも晴れている。


 ナオトが碧空を見上げると、白い鳥が群れを成して飛んでいった。空には乱雑に千切ったような雲が幾つか浮かんでいる。大きな雲は草原に影を落としていた。草原はなだらかな丘陵の上に広がっており、牧場と畑も点在する。

 地面にあるもの以外、無論全て偽りだ。



 かつて人類は皆、地上で生活していた。

 しかし、一つの大きな戦争を経て、人類は地上と地下に別れて生きるようになった。

 地上には、人を機械化して不変の存在としようとする一派が住み、地下には機械化に反対する一派が住んでいた。二つの派閥は人を機械化するか否かで、戦争をした。機械化戦争と称するそれは、結局勝者は存在せず、地上と地下ーー当時おおよそ完成していた地下都市(ジオフロント)に分かれることで決着した。自らの主義ゆえに反機械化推進派は戦力が劣っていたが、機械化推進派の中枢システムへの一時的な乗っ取りが成功し、大打撃を与えられた。結果として、以後両者不干渉を決め、戦争は終わった。


 機械化戦争が終って、数百年が経っていた。

 ナオトは地上に出たことはない。

 本物の空も、光も、彼が見上げる偽りの空よりも遥か上、さらに続く厚い壁の向こうにある。


 

 ナオトは視線を戻す。

 目の前にはまだ青いりんごが木になっている。

 ナオトは木製の脚立の上で、りんごに袋かけの作業をしていた。

 この作業は必ずしないといけないものではないが、袋をかけるとりんごは鮮やかな赤色になりやすい。虫除けにもなる。

 地下には、かつての地上とほぼ同じ環境が造られていた。害虫を除去するのは簡単だが、地上の再現のために、彼らはそのまま存在した。よって、昔ながらのやり方で害虫対策をしないといけない。


『ナオト、手が止まっているよ』


 ナオトは声のした方を見る。脚立に立ったナオトの視線と同じ高さに、一台のドローンが浮かんでいた。ドローンの上にカゴが乗っており、その中に袋掛け用の袋があった。

 声はそのドローンに搭載されたスピーカーから聞こえてきた。

 相方のフミヤだった。

 彼の身体はナオトと違って、自由に動かせない。脳以外全て機械だった。そのため、ドローンやロボットなどに接続して、肉体の代わりとしている。彼の本体は、別の場所にある。


 反機械推進派が地下に潜ったのち、人間は種としての生命力が衰えていった。皮肉なことに、存続するために身体を部分的に機械と置き換えることをせざるえなかった。

 それでも、機械推進派と異なり、脳だけは絶対に機械化しなかった。


「悪い、ぼうっとしていた」


 ナオトは作業を再開する。カゴから新しい袋を取り、りんごにそっと触れていく。かける対象を選んだのち、袋をかける。


 ナオトは、フミヤや他の人間と違って、肉体を一切機械化していなかった。

 この時代には珍しい頑健な肉体を持っていた。大抵の人間は出生後、機械で補わなければいけないほど弱っている器官があるものだった。フミヤは成長するにつれ、機械化する臓器が増え、最終的には脳以外全て諦めなければならなかった。


 ナオトとフミヤがペアを組まされているのは、ナオトは通信機器を肉体に埋め込んでいないからであり、フミヤは肉体をまともに動かせないからだった。お互いがお互いの欠点を補うため、である。

 ナオトとフミヤの仕事は農園の管理だった。彼らはりんごを始めとする果樹を栽培していた。

 地下の人類は、地下に地上を再現することに注力している。地上を奪還することはとっくに諦めている。



『今年は収穫できそうだね』

「ああ」


 ナオトたちがこの木を植えてから今年で五年経った。昨年は実が出来たものの、虫にやられたり、病気になったりして収穫出来なかった。

 今年はこのまま何事もなければ、数個くらいは食べられるものが取れるだろう。


 ナオトは作業の手を止める。この木についての袋掛けはこのくらいでいいだろう。次の木に取り掛かろうとして、ふと空を見上げた。

 白い鳥が一羽飛んでいった。


「珍しいな」

『どうかした?』

「鳥型ドローンが一機で飛んでいる。ほら、あそこ」


 ナオトが指差すと、フミヤはカメラをその方向に移動させた。


『見間違いじゃないの? そっちの区域に巡回している機体は一つもないけど』


 フミヤはリアルタイムの地図情報も見ているのだろう。ドローンやロボットだけでなく、人間もマーカーが埋め込まれ、何があるいは誰がどこにいるか、という情報は共有される。


「いや、確かに見えている」


 ナオトの視力は2.0で、脳も視神経も何も弄ってはいない。


『おかしいね。君に限って幻覚見てることはないだろうけど…… まだいる?』

「いや、もうほぼ見えなくなった」

『中央に報告しとくよ。方角と距離正確に教えて』

「わかった」


 ナオトが告げた情報をフミヤが復唱して確認したのち、彼は地下を統制する中央評議会に報告をした。

 ナオトは作業を再開した。

 もしこれが地上なら、鳥が一羽で飛んでいるのなど、ごくごく普通のことだったのだろう。



 本日分の作業を終えたナオトは、道具を作業用の納屋にしまったのち、農業区を出た。地下は用途ごとに分けられ、別の区域を行き来するには許可が必要だった。ナオトとフミヤは職業上、農業区から住まいのある区域までは自由に行き来できた。

 農業区の隣は居住区で、農業区と違い、建物が密集していた。緑はほとんどなく、灰色の建物ばかりが並ぶ。

 ナオトたちが住んでいるのは居住区を抜けた先の研究区だった。研究区はその名前の通り、研究機関や大学が集約されたエリアだ。

 フミヤの本体があるのは、とある研究施設だった。ナオトはそこの仮眠室で寝起きしていた。一応、居住区にもナオトの住まいがあるが、今は倉庫と化していた。

 フミヤ自身は研究室の一室にいる。

 ナオトはいつも通りノックもせずにその部屋に入った。フミヤ自身が、自分で誰が来るか察知しているので気付かせる必要はなかった。


『お疲れ様』


 室内にあるスピーカーからそれは聞こえた。

 様々な機器が所狭しと並んだ部屋の中央に大きな水槽があった。水槽の中には灰色の脳味噌が浮かんでいる。その脳には数えきれない細い線が刺さっていた。

 フミヤの、唯一残った生身の器官だ。



 ナオトがフミヤに初めて会ったのは、二人ともまだほんの子供の頃である十数年前だ。その当時、フミヤにはまだ脳以外の器官があった。


 当時、ナオトは周囲から浮いた子供だった。肉体に何の欠損も疾患もないために、大人たちからは特別な存在として扱われた。子供たちは、大人に依怙贔屓される子供を好むはずはない。同世代の子供たちは、ナオトを苛めると、大人たちから折檻されるとわかっていたため、彼を遠巻きにした。決して仲間にはしないが、攻撃もしない。いないものとして扱われた。ならば大人たちに大切にされたかというと、微妙なところだった。大人たちにとって、ナオトは異質で妬ましい存在でもあった。貴重なサンプルであることに偽りはないが。

 もし機械化戦争以前なら、彼を守るはずの親というものが存在しただろう。しかし、人類の生殖能力は男女ともに著しく衰えた。自然妊娠と自然出産はもはや成立せず、子供たちは試験管の中で発生し、人工子宮の中で育まれた。遺伝子上の親は存在するが、家族というシステムは解体された。子供の出生、育成は中央が一元管理している。

 つまり、ナオトには居場所はなかった。

 だとしても、命も生活も保証される。それが地下の子供たちの有り様だった。

 ナオトたち子供は学校で勉強や運動を決まったカリキュラムに沿って実施し、それが終わると自由時間になった。その時間がナオトは好きではなかった。子供たちと一緒にいたくないし、大人たちとも離れたかった。だから、ナオトはほとんど毎日人がいない場所を探して、自分が移動できる区域をさ迷って時間を潰していた。


 ある日、ナオトは研究区のとある施設に迷い込んだ。子供は研究区と居住区の一部なら行き来が許されていた。

 そこはガラス張りの温室だった。植物の研究用なのだろう、様々な植物が育てられていた。大輪の花が咲いていたり、南国の背の高い木があったりした。温室の天井は高く、上から人工太陽の光が降り注いでいた。

 ナオトは木々や花に気を取られ、そこに人間がいることに気付かなかった。


「ここになにか用?」


 しわがれた、けれど舌っ足らずなトーンの声がした。

 ナオトはぎょっとして、声がした方を見た。

 そこには一人車椅子に座り、顔を包帯で全て包まれた小さな人間がいた。

 多分、子供だ。

 よく見ると、子供は病衣を着ていて、肌が出ているところは全て包帯が巻かれていた。


「いや……別に……」


 ナオトがしどろもどろに答えると、子供はじっと彼を見た。二つの大きな目だけは、包帯に覆われていなかった。その目のまわりの、赤黒く爛れた皮膚が見えた。


「迷子?」


 子供は首をかしげて尋ねた。


「いや、迷ってはいない」

「迷子の自覚のない迷子?」

「違うんだが……」


 子供はナオトを迷子と決めつけているようだった。


「ここは……入ったら駄目なところなのか?」

「さあ? 僕も知らない」


 変な奴、とナオトは思った。

 普段なら、ナオトは他人に攻撃的な言葉は掛けない。だが、少し腹が立ったので、つっけんどんにこう言った。


「お前も迷子か?」

「そうだね、そんなところ」


 相手の肩透かしのような回答に、ナオトは何と言えばいいかわからなくなった。


 ナオトも子供も何も言わず、しばらく沈黙が続いた。

 沈黙を破ったのは包帯の子供だった。


「きみ、何も機械入れてないってほんと?」

「ああ」


 ナオトはその子供にそもそも見覚えがなかったが、向こうはこちらのことを知っているようだった。


「それってどんな感じ?」


 ナオトはその質問に戸惑い、黙り込んだ。

 子供はナオトをじっと見て、何も言わず、答えを待っていた。


「わからない」


 かなり時間が経ってから、ナオトはそう言った。

 ナオトとしては懸命に考えたが、答えは出てこなかった。


「自分のことなのにわからないの?」

「……機械入れるのがどういう感じかわからない」

「ふうん、そうなんだ」


 思っていた答えに少し落胆したような声音だった。


「……そっちは機械入れているのか?」

「うん、勿論」

「どんな、感じなんだ?」


 子供は少しだけ考え込むように、黙ってから言った。


「安心する、かな?」

「え?」


 子供はこちらをじっと見ながら、続けた。


「もうこの臓器が壊れるかどうか心配しなくて済むから」



 それがフミヤとの出会いだった。

 正反対の二人だったが、それ以後二人は何となく一緒にいるようになった。ナオトが気付かないだけで、フミヤも学校では同じクラスだった。休みがちでほとんど授業には参加できていなかったが。



 一ヶ月ほど経った頃、りんごが収穫の時期を迎えた。

 その日もナオトはフミヤが操るロボットと共に、収穫作業を行っていた。

 収穫はただ、木の枝からただりんごをもげばいい、というものではない。乱暴に外せば、りんご自体を傷つけ、木にも影響を与える。

 ナオトは慎重に真っ赤に色づいたりんごを採る。

 フミヤも、収穫用に調整したアーム付きのロボットで収穫作業をしている。

 ナオトが枝の隙間から空を見上げたとき、何かが凄まじい速度で過ぎ去った。

 一呼吸分置いて、大きな爆発音がして、地面が揺れた。

 ナオトは立っていられず、しゃがみこんだ。フミヤのロボットが横倒しになったのを目の端で捉えた。


「なんだ……?」

『ナオト、地上から攻撃されている!』


 ナオトが腕に付けた通信端末からフミヤの声がした。ロボットの方の制御は捨てたらしい。


 ナオトは立ち上がり、急いで高台に向かった。そこはナオトたちのりんご畑も含めて、農業区が見渡せる場所だった。

 息が上がるが、ナオトは無視して、走る。


 高台は展望台になっていて、ベンチがあった。

 ナオトはそこから、農業区を見下ろし、呆然とした。


 燃えていた。

 畑や牧場から、火の手が何本も上がっている。

 ここまで、煙と微かに肉が焼ける臭いがした。

 空には無数の白い攻撃用ドローンが飛んでいた。遠くに、ドローンではなく大きな輸送機が飛んでいるのも見える。

 一台のドローンが近付いてきて、すぐ近くに爆撃を行った。

 さっきまで、ナオトたちがいたところだ。

 木々が吹き飛ばされ、残った木々には火が付き、黒い煙をたなびかせる。ナオトたちが育てたりんご畑が燃えていた。


『ナオト!!』


 通信機から聞こえたフミヤの切羽詰まった声で、はっとナオトは我に返る。

 別のドローンが、こちらに向かって近付いてきた。

 ナオトは慌てて、展望台から、半ば斜面を転がるようにして、逃げた。

 展望台の真上に爆弾が落とされ、ナオトの上に土や小石が飛んできた。ナオトは反射的に頭を庇った。

 静かになったところで、恐る恐る見上げると、展望台は吹き飛んでいた。


『ナオト、シェルターに行くんだ。研究区はまだ攻撃を受けていない』

「……わかった」


 研究区には、緊急時に避難するシェルターがあった。ある程度の攻撃にも耐えられるはずだ。



 ナオトはフミヤのナビを受け、農業区を抜け、研究区を目指した。

 農業区はどこも攻撃を受けていた。

 真っ黒になっているか、バラバラになった家畜や人の骸が幾つもあった。

 それは居住区に入っても同じだった。建物は崩れ、人々は逃げ惑い、道には死体や怪我人が転がっていた。

 居住区を抜け、研究区に入る。ここは他の区域ほど攻撃を受けていないようだった。

 ナオトは、自分たちが住んでいる建物を目指し進んでいた。


『ナオト、シェルターはそっちじゃない』

「お前の本体取ってくる」

『はあ? 僕は他の奴にもう移動して貰っているよ』


 ナオトはその言葉を無視した。

 二人が住む施設は爆撃を免れていた。ナオトは真っ直ぐ、フミヤの本体がある部屋を目指す。途中、すれ違う人間はいなかった。皆、シェルターに行ったのだろう。

 部屋に入ると、そこはいつもと何も変わりなかった。水槽にフミヤの脳が浮かんでいる。


「やっぱり」


 この施設には、研究員や職員がおり、フミヤのメンテナンスや、ナオトの身体能力の計測をしていた。しかし、非常時にフミヤを助けようとする人間はいない。ナオトも含め、彼らにとって二人はただの実験サンプルに過ぎない。

 ナオトは手早くフミヤの本体を移動用のケースに移し替えを始めた。これまでも何度かフミヤの移動を行ったことがあった。


『別に僕のことなんていいだろ』


 フミヤは不貞腐れたような声をスピーカーから流した。


「見捨てられるか!」


 そう怒鳴り返すとフミヤは押し黙った。

 手袋を付けて、線が繋がったままのフミヤの脳をそっと持ち上げる。いつもぞっとする瞬間だ。傷を付ければ、彼は失われてしまう。

 慎重に、既に液体が入った移動用ケースに彼の脳を入れる。蓋を締めて、ケースの電源を入れたすぐあと、轟音がして、建物が揺れた。ナオトはケースが割れないよう、それに覆いかぶさった。

 それからこちらに向かってくる足音がした。人間にしてはあまりに重量感のある足音が。それが複数名分。


『ナオト、地上の奴らだ、それを捨てて早く逃げろ!』


 ナオトはケースを両手で持って、入り口に向かった。

 しかし、ナオトが辿り着く前に、扉が開いた。

 部屋の外に、全身真っ白な人型ロボットと、下半身だけのロボットたちが立っていた。人型以外は全て武装していた。彼らは銃口を真っ直ぐナオトに向けた。

 ナオトも、フミヤも、戦闘員ではない。勝ち目がないのは明らかだった。

 ナオトは死が目の前に佇んでいるのを理解した。もしかしたら、フミヤを見捨てれば助かったのかもしれないが、最初からその選択肢はなかった。だから、死すべくして、死ぬのだ。


「識別番号、4B307010。個体名、ナオトだね」


 辛うじて目と鼻と口が判別できる簡素化された顔の、白い男は、穏やかな声でそう言った。

 男が言った識別番号はナオトを示すもので間違いなかった。


「私の個体名はパロマ。識別番号は君たちの体系とは異なるので省略させて貰おう」


 突然自己紹介してきた男に、ナオトは虚を突かれた。


「惑星移住計画の代表を務めている」


 ナオトは男が何を言っているかわからなかった。これから殺す相手に何を言う必要があるのだろうか。


『お前らの勝手な計画が、僕たちに何の関係がある』


 怒りを孕んだ声でフミヤが言った。


「いや、君たちにも大いに関係がある。君たちはこの星がまもなく生命の住めなくなることは知らされているかい?」


 そう言って男ーーパロマはナオトたちに地球が、地上も地下も等しく生命を維持できなくなることと、移住可能な惑星を発見したことを説明した。

 ナオトもフミヤも全く聞いたことのない話だった。

 フミヤがどう思っているかはわからないが、ナオトはパロマが本当のことを言っているように思った。


「機械化した私たちならば、遠い星への旅は問題ない。けれど、私たちは人類という種の存続のために、君たちも必要だと結論付けた。機械化されていない君たち生身の人類が」

『自ら進んで機械化したんだろう、あんたたちは』


 吐き捨てるようにフミヤが言った。


「そう、かつて我々はこの星で存続するためには完全機械化した道がないと判断した。しかし、未知の世界に適応できるかは不確実だ。ならば取れる選択は増やすべきだ。そのため、君が必要だ、ナオトくん」


 パロマはそう言って、ナオトを見た。


『ふざけるな。お前らもナオトを実験動物扱いする気か』

「勿論違う。我々はかつて道を違えたが、同胞だ。そんなことはしない」

「なら、なんで地下に侵攻したんだ……」


 ナオトは声を絞り出して、そう言った。


「……これは私たちも本意ではない。そちらの代表とずっと交渉し続けたのだ。だが、彼らは我々の計画に賛同せず、刻限は迫っていた。致し方なくこのような形を取った」

『僕たちを舐めるのもいい加減にしろ。問答無用で攻撃しておいて何を言っている』


 フミヤはパロマに容赦なく噛み付いた。パロマは決して声を荒げることなく淡々と答えていた。


「質問がある」


 ナオトの発言を聞き、フミヤとパロマは言い合いをやめた。


「何でも言ってくれたまえ」

「あんたたちが必要なのは俺みたいな機械化していない奴だけで、それ以外は不要なのか?」

「いや、出来る限り多くの者を連れていきたいと思う。勿論全員は無理だが」


「……フミヤを、この脳だけの奴も連れていくなら、俺はあんたたちに付いていく。実験に使われても構わない」


 パロマにフミヤの脳が入ったケースを見せて、ナオトは言った。


『お前、正気か!?』


 フミヤは焦った声で叫んだ。


「当たり前だ」

「ふむ、一人増えるのは全く問題ない。君も君の友人も歓迎しよう」

『おい、ナオト!!』


 フミヤは必死にナオトの決心を翻らせようとした。しかし、ナオトの意思は固かった。


『なんでお前はこいつらのこと信じるんだ』

「信じていいのかは正直あまり自信がない」

『なら、なんで……』

「俺、本当の空の下でりんご、育ててみたいんだ。いや、りんごじゃなくてもいいけど。お前と一緒に」


 賭けてみたいんだ。

 そうナオトが言うと、フミヤは黙り込んだ。それから、こう言った。


『賭けに負けたら、許さないからな』

「わかった」




 それから長い長い時が過ぎた。


 とある惑星に、地球原産の植物を育てている者たちがいた。惑星の中枢管理システムは地球人の脳をベースにしたもので、人間の管理者は代々世襲制で、先祖は同じく地球人であるという。

 鮮やかな赤色の皮を持つその果実は、その惑星の特産品だった。


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