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第2話 出会い

 女騎士がそう決意してから、十日と十夜後のことである。


 いよいよ迫ってきたドラゴンの来襲に備える王城に、ドラゴンの手下の魔物たちの首印を、幾十もかついだ女騎士がやってきた。

 紅い鎧の女騎士は、堅く閉ざされた王城の門の前で、背に負った魔物たちの首を投げ出すと、門を守る衛兵に言った。


「この国の王に謁見したい」


 衛兵はこの十日と十夜の間に、「(あか)の騎士」と噂されるようになった者こそが、この女騎士であると目した。

 衛兵は騎士にここでしばし待つように言い、自分は衛兵長のところへ走った。


「衛兵長。十日と十夜で、竜の奴めの手下どもを数え切れぬほど狩った、紅の騎士と思われる者が、国王陛下への謁見を申し出ております」


 門番の衛兵の報告を聞き、他の衛兵たちは歓喜に沸いた。

 ドラゴンとの決戦を前に、心強い味方が来てくれたと思ったからである。

 だがしかし、衛兵長は警戒した。

 ドラゴンは冷酷でありかつ狡猾(こうかつ)である。

 自分の手下たちを犠牲にし、王城へ手の者を忍び込ませようと考えて、この紅の騎士の噂を作ったのかもしれない。


 衛兵長は自ら城門へ出向き、待っていた紅の騎士に問うた。


「国王陛下はご病気である。それは国中の皆が知っていることだ。なのに国王陛下に謁見したいとは、いかにも怪しい。

 己の素性と名を言え。そして、陛下に謁見して何をするつもりかもだ」


 紅の騎士は静かに答えた。


「私は私の過去を知りませぬ。ゆえに素性も名も語ることは出来ないのです。しかし、私が成すべき事なら知っております」

「言え」

「憎きドラゴンを、この世から跡形もなく(ほふ)ること」


 衛兵長は、そう言った紅の騎士から、身が震えるような闘志と憎悪、そしてどんな困難をも跳ね返す堅い意志を感じ取った。


「……よかろう。では国王陛下の代理としてこの国を治められている、王女陛下にお前のことをお伝えしよう。

 城門の外でしばし待て。

 ただし、無法を致さぬよう、貴君の剣はこちらで預からせてもらいたい」

「構いませぬ」


 紅の騎士から剣を受け取った衛兵長は、しかしその(つか)を一目見て驚いた。


「……これは、お主の物か? どこで手に入れた?」

「私は過去を知りません。この剣は、私が気が付いたときにはこの鎧とともにこの手にあったのです」


 衛兵長はしかしそれ以上何も言わず、急ぎ城門の小口を開け、王城内へと駆けて行った。そして王城の最上階にある王女の間の扉の前にたどり着くと、侍女に王女に報告があることを伝えた。



 衛兵長は王女の間で、ひざまずきながら紅の騎士が持っていた剣を、王女に捧げ持った。

 王女の金色の輝くような髪は、窓から入ってくる風になびき、純白の絹のドレスは陽光に光り輝いていた。


 王女はその透き通るような白い肌と、純白の衣装を好むことから、白の王女と呼ばれていた。


 しかし白の王女は、一目剣を見るや、その美しい眉をひそめ、碧い瞳に憂いをたたえた。


「この紋章と紅玉(ルビー)は……」

「はい、行方知れずの騎士団長の首飾りと同じ紋章であり、そして埋め込まれた宝石は、姫君が彼に贈られたものではないでしょうか」


 王女の白く美しい指は震えていたが、しかし息を整え、まるで小鳥を抱え持つかのように、衛兵長が捧げ持った剣を手に取った。


「たしかに、衛兵長の言う通りです。

 これはわたくしが彼への感謝のしるしに贈ったものに相違ありません。

 いかなる者がこれを?」


 衛兵長がこの十日十夜の間に名を上げた、紅の騎士と申す者だと答えた。


「では、彼をここへ」

「承知いたしました。剣は私が預かりましょう」

「それには及びません。私がこれを証拠として、彼を尋問します」


 白の王女も衛兵長も、紅の騎士が竜の味方をして騎士団長を殺し、首飾りとルビーを奪って剣を作ったのではないかと疑ったのだ。



 やがて王女の間に、両手を鉄の錠で(いまし)められた、紅の騎士がやってきた。

 錠は、衛兵長が騎士が王女に狼藉(ろうぜき)を働くことを恐れ、つけたものである。

 さらに紅の兜も、王女の御前であるということで、侍女によって外された。

 紅の騎士を一目見た白の王女は、内心驚いた。

 男のような短髪ではあるものの、確かに紅の騎士は女性だったからである。


 しかし王女は動揺を表に出すことはなく、平然と椅子から立ち上がり、騎士に両ひざをつくように命じた。

 紅の騎士は素直にひざまづいた。


「なぜそなたは、女だてらに騎士装束などに身を包んでいるのですか?」


 すると紅の騎士は怪訝な顔をして問い返した。


「女とは、私のことでしょうか?」


 白の王女はまなじりを上げたが、しかしそれ以上怒りを露わにすることはなく、静かに問うた。


「……私を愚弄するつもりなのですか?」


 すると紅の騎士は(こうべ)を垂れて言った。


「いえ、そのようなことは決してありませぬ。

 ただ私は十日十夜前、この姿で牧草地に立っていた前の記憶がまったくないのです。

 ですから私は私が何者かも、何をしてきた者かもわかりません」


 王女はますます紅の騎士を疑った。

 この女はこの調子で、騎士団長を暗殺したことについても、空とぼけるつもりなのではないかと思ったのだ。

 白の王女は紅の騎士が持っていた剣の(さや)の部分を持ち、彼女の目の前に突き付けながら問うた。


「……それではあなたは、自分がなぜこの剣を持っているかも知らない、と言いたいのですね?」


 しかし紅の騎士は首を横に振った。


「いえ、それならば知っております」

「答えなさい」


 すると、それまで大人しく両ひざをついていた紅の騎士が、片膝立ちになり、燃えるような瞳で王女を見上げた。


「暴虐なるドラゴンを、その剣で(ほふ)るため。私はそのこと以外を知りませぬ」



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