(2)学園に入っても関係性は相変わらず
「だってだって! アウレリウスさまが全然相手にしてくれないのぉぉぉっ!」
「第二王子がぽっと出の伯爵令嬢をまともに相手にするわけないでしょ。身の程をわきまえなさいっての」
「びぇぇぇっ! だってゲームはこんなんじゃなかったもんっ!」
自称『ヒロイン』、リリアはいっつもこんな調子。
そしてリリア曰く『悪役令嬢』カトリーヌは、毎度毎度突撃されて、付き合いよく説教してやっている。
当然、公衆の面前で飽きもせず繰り返されるこのやり取りを見れば、二人が腐れ縁の関係にあることを疑う者はほぼいない。クスクスと、嘲笑というには好意的な笑い声や視線が通り過ぎていくのにも、とっくに慣れてしまったカトリーヌである。
「……カトちゃんがいぢめてくれたらもっと話が早いのにぃぃぃ……」
「おばか。なんで私が自分の立場を危うくするようなことをしなきゃならないの」
ピシャリと言ってリリアの額を小突き、甘えてすり寄ってくる身体を辛辣に突き放す。
「あんたがやるって決めたんでしょ。私は否定はしないけど応援もしない。自力でなんとかしなさい」
「うううぅぅぅぅ……カトちゃんのわからずやぁぁぁぁーーーーっ!!」
びぇぇぇぇん、と泣きながら走り去っていくリリア。これもまたいつものこと。
はぁー……っ、と肺の中身を一切合切ため息にして吐き出すカトリーヌの肩を、ぽん、と労るように叩く手があった。
振り返れば、同じ目線に馴染みの同級生。
「おつかれ、カドレッド」
「……ほんとにね」
「しっかし相変わらず強烈だね、ノトシュって。あれで玉の輿願望でもないんだろ?」
「いやーなくもないんじゃない? 末永くいい暮らしし続けたいのがダダ漏れだし。こういうこと言うと「推しへの純粋な思いを汚さないでっ」とか言うけど、その「推し」に惹かれた魅力の項目に絶対家柄と経済力は入ってるわよ」
「あはは、実に女性らしい現実的な天秤だ」
カラカラと笑う黒髪の男子生徒と、カトリーヌは自然と歩調を合わせて歩き出す。
ソキウス・ベルモー。同じクラスの一般生徒だ。
すなわち庶民……と言っても、貴族と同じ学園に入れているのだから当然、実家が金か名誉かコネのいずれかを備えていることになり、事実、新進気鋭の豪商たるベルモー家はそれら全てを有している。
庶民らしく気取ったところもなく、無駄な嘘もつかない朗らかな人柄がカトリーヌにとってはありがたくて、なにかとつるむようになって久しい。
上流貴族が異性に対してこうして気さくな付き合い方をするのは比較的めずらしい例に類するが、自主自立を重んじる学風においては不純でない異性交友は推奨されている。加えてソキウスの、カトリーヌとそう変わらぬ身長に、少女にも見えてしまう童顔も手伝って、傍から見ていても男女の仲には見えないらしい。
「でも実際問題、貴族の令嬢にとってはパートナー探しって現実的な話なんだろ? 在学中にいい男引っ掛けようって目の色変えてる女子も多いし」
「……まぁね。親に決められた相手に嫁ぐよりか、自分でそれなりの相手を見繕って、できれば既成事実も作っておきたいって子もそりゃいるでしょ。リリアみたいに高嶺の花ばっかり狙い撃ちしてるのは論外だけどね」
「カドレッドは?」
カトリーヌは黙り込んだ。正直あまり、考えたくない話題だ。
「私にそんな自由なんて……」
ぽつりと零れた呟きは、ソキウスの耳に届いたかどうか。
「──失礼。カドレッド」
視界の外から声をかけられ、振り返る。
背後から話しかけてきたのは、明るいブラウンの髪を清潔に整えた、異様に顔立ちの良い男子生徒だった。
……学園の有名人、学年主席候補、将来有望な高嶺の花。
リリア曰くの「イケメン」の一人。
「二人だけで話がしたい。ベルモーは外してくれないか」
現宰相の子息、ルペルト・ガルバスが、ひどく難しい顔をしてカトリーヌを見据えていた。




