第28階層攻略開始
少しグロい表現があります。
苦手な方はご注意お願いします。
俺は第2職業を暗殺者に設定した。
「カトウシュンの第2職業「暗殺者」の設定を確認。これより「盗賊」および「隠密者」の習得スキルの取得を開始。スキル<恐喝>……取得。<剛腕>……取得。<投擲>……取得。<逃走>……取得。<解錠>……取得。<短剣術>……取得。<隠密>……取得。<強化聴力>……取得。<強化視力>……取得。<高速移動>……失敗。再度<高速移動>の取得……失敗。……失敗。……失敗。……失敗。…………。……成功。これ以上の取得は不可能と判断。残スキルを「ショップ」に移動…………完了。第2職業の設定……完了。」
待つこと数分。第2職業の設定が終わったそうだ。
ということで
「ステータスオープン」
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カトウ シュン 16歳
レベル1
<種族> 魔を喰らいし奇跡の勇者
<職業> 無職
第2職業 暗殺者
体力 3700
魔力 4500
攻撃 3900
防御 3200
俊敏 6000
魔功 4200
魔防 4200
スキルポイント 50
ジョブポイント 1
所持金 59500
装備 銅の剣 鉄の胸当て
<スキル>
言語理解 アイテムボックス スマートフォン 暴食(レベル1) 恐喝(レベル1) 剛腕(レベル1) 投擲(レベル1) 逃走(レベル3) 解錠(レベル2) 短剣術(レベル1) 隠密(レベル5) 強化聴力(レベル1)(パッシブ) 強化視力(レベル1)(パッシブ) 高速移動(レベル18)
<称号>
奇跡を起こした勇者
魔を喰らいし人間
副業をする無職……副業を得た無職に送られる称号。職業「無職」の間副業の成長率が上がる。
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おお!
職業欄に第2職業がある!
それでもまだ無職はやめられないらしい。しかも「無職」補正なんて付いてるし……
てかスキルもツッコみたい。「高速移動(レベル18)」って何!?
まあ、<高速移動>の取得には苦労してたけど……
スマホさん無理やり取得したんだ。
しかもそのせいか、ステータスの俊敏が大きく変わってるんだけど。いやありがたい。
「攻撃、俊敏の情報は職業補正です。確かに俊敏が大幅に上昇したのは<高速移動>を無理やり取得したことが8割くらい影響してますが……。」
8割くらいはそうらしい。
まあプラスの方向に強くなっているのでいいとしよう。
ちなみにパッシブという表記はパッシブスキルを表しており、パッシブスキルとはそのスキルを所持しているだけで常に効果を得られるスキルのことだ。
それにしてもこのスキルたち、相当に物騒なものばかりだ。これは人には見せられないな……
さて次はどうしようか。
色々考えたがこの階層に出てくるモンスターのことを調べることにした。
<検索結果>
第28階層確認モンスター
オリハルコンタートル(レア) レベル750
亀型のモンスター。全身がオリハルコンで覆われており特に甲羅に関しては純度が高い。<魔法攻撃無効>のスキル持ちであるため物理攻撃が必須。しかし防御力も非常に高く個体差はあれど少なくとも攻撃力4500はなければ攻撃は通らないと思われる。その上<物理反射>のスキルを持つため一定以下の攻撃は反射されて逆にダメージを負うことになるだろう。攻撃手段について、最大火力を誇るのは口から放たれるレーザー攻撃でこの攻撃を喰らえば終わりだと思うほうが良いだろう。ただ攻撃手段は乏しく危険度は低くなるため、高い防御力、<物理反射>、レーザーの3点にさえ気をつければそこまで危険度は高くないだろう。
デュルテゴーレム レベル560
体力、防御、魔防が非常に高い典型的な防御特化型ゴーレムモンスター。防御力が高い反面攻撃力、俊敏は低く攻撃を受けることはあまりないと思われる。また攻撃を受けても被害は少ない。しかし<自動修復>を持つため苦労して攻撃を入れてもすぐに回復されるため厄介。デュルテゴーレムから得られる素材はレア故に市場に出回ることは殆どないためあまり使われているものは見られないがとても硬く加工には高い技術が必要とはいえ高品質の武器になる。
モートドッグ レベル580
高い俊敏と一撃の破壊力の高さが特徴の犬型モンスター。その中でも固有スキルの<デストラクト・スクラッチ>はノーモーションで打てるにも関わらず瞬間推定攻撃威力は20000という驚異的なものである。高い俊敏を活かした高速移動からのノーモーション<デストラクト・スクラッチ>のコンボは簡単に防げない上に非常に大きなダメージを受けることになる。しかし防御の面ではやや低めで、特に魔防が低い。そのため察知される前に先制攻撃を仕掛けて倒す、もしくは足を断ち素早い動きを封じる戦法や、魔法によるデバフなどで俊敏を下げる戦法などが勝率としては高いだろう。
エンペラースライム レベル600
スライム系統の魔物でキングスライムが進化した個体。レベルは600とされているが<分裂>、<吸収>、<放出>、<変性>などスライム系特有の種族スキルや自然回復系統のスキルを多数持つことからレベル以上の強力さを誇る。第25〜30階層ではボス、ヌシ及びレアモンスターを除けば最強のモンスターであることは間違いないだろう。またエンペラースライムは<吸収>を持っているため他モンスターのスキルなどを使える可能性もあるので注意。この階層ではできる限り戦闘は避けるべきモンスター。
モヴェーズミミック(ヌシ) レベル10000
第25〜30階層のヌシモンスター。見た目はただの宝箱にしか見えないが触れてしまえば邪悪な気配が一気に漏れ出てくる。レベルの通り相当に強く、戦闘を仕掛けることは絶対にするべきでない。ただし、普通のミミックとは違い、宝箱だと思って触ってしまっても戦闘をさせられるわけではなく、課題を課せられる。その課題をクリアするもしくは戦闘によって倒すことで開放される。ただし、どちらかの条件を満たさずに逃げることをしようとすると即時殺されるため注意。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
通常モンスターについては大部分が予想通りだな。ただやはりこのレベルの階層ならヌシもいるのか。
因みにヌシモンスターとはいくつかの階層をまたいでモンスターのバランスを整えていると言われるモンスターである。ただ実際はどのような役割かはわかっていないらしい。高難易度のダンジョンでよく発生を確認されておりその強さはデタラメだそうだ。まだ勇者をやっていたときの座学でもそれっぽいのを見つけても絶対に挑むなと言っていたはずだ。
まあこれは挑めばまともに死ぬな。まだ放してくれる可能性があるだけ親切か……
さて、俺の強化、情報収集が終わったということで、ついに始めますか、
第28階層攻略開始!
ということで「マップ」
「現在地情報取得……失敗。現在地情報の存在の確認……情報がないことを確認。これよりマッピングモードに移行……マッピングモード起動。」
なんと!マップには載ってないらしい。
正直マップに頼ってらくらく攻略をしようと思ってたから残念だ。仕方ないじゃあマッピングから始めるうとしよう。
そんなこんなで歩き始めてからおよそ3時間。
ここ広すぎる。ここまでなんの変哲もない一本道だ。モンスターどころか部屋や他の道にすら出会えていない。
この調子だとこの階層だけであと何日も掛かりそうだな。本当に俺が知るダンジョンとはぜんぜん違う。
正直いつになればこの階層を攻略できるのかわからない。
そこから更に1週間ほど直線的な道を歩いたときそれは突然現れた。
「っっ!」
耳に反応があったのだ。おそらく魔物が歩いている音と少量だが息か何かの音も捉えられる。ダンジョン内が薄暗いこともあり<強化視力>があっても視認はできない。移動音が軽く、四足歩行だと思われることからモートドッグであると思われる。音を聞く限りまだこっちには気づいてないみたいだ。俺と同じ方向に移動していたことに感謝だ。
てなわけで、俺は先制攻撃を仕掛けるべく<隠密>を発動した。そして銅の剣を右手に握った。この階層に落とされてから意識のある状態では初めてのモンスターとの相対だ。少し手が震えている。心臓の音もとてもうるさい。とても緊張してどうしても踏み出せず、モートドッグが<強化聴力>での集音可能範囲から出ないように気をつけつつ歩いてしまっていた。
そうして10分くらい歩いた。最初は時間があれば緊張は収まると思っていたが、全然収まってはくれないようだ。正直緊張で張り裂けそうだ。それには地上にいた時代からモンスターとの相対で大きなダメージを食らうことがあったことも原因にあっただろう。
それでも、地上に帰るって決めた。その目標を達成するために覚悟を決めた。
そしてモートドッグに向けて一直線に道を走り始めた。
走る、走る、走る。
ついに視界にもモートドッグが見えてきた。
真っ黒の大型犬のような見た目だ。だが後ろから見てもそれが犬何かとは違うような禍々しいものだとわかる。今まで見てきたモンスターなんかとは全く別物だ。こいつはモンスターだと本能が理解する。
怖い。
それでも止まらずに走った。
モートドッグが歩くのをやめ、こっちを振り返った。やはり犬型の魔物なだけあり、鼻が効くのかもしれない。だがこちらに向かってきたいないところを見ると<隠密>のおかげかまだ存在は認識できていないようだ。しかし何者かが近づいてきていることはわかっているのだろう。
それでも走った。走って、走った。
そして距離があと少しになったときに
<剛腕>発動!
俺のステータスではおそらく一撃では倒せない。だから狙うのは脚だ。この位置からならば右脚が良いだろう。そうして右脚に狙いを定める。
それと同時にモートドッグが吠えた。
体がゾワリとした。そして大きな恐怖が襲う。いつの間にか緊張などよりも恐怖が勝っていることに気づく。
これが命をかけた戦いなのだと嫌でもわからせられる。
それでも恐怖に負けずに右腕を振った。
それと同時に減速し、
ゴギュギュリュジュ!
エグい音が耳に届く。
右手には確かに肉を穿つ感覚が感じられた。
そして俺は更に強い力を加えた。
ヒュン!
ついに俺の右腕は空を切った。
それと同時に体が宙に放たれた。
バンッ!
地面に体を打ち付けた。痛い。
そこで異変に気づく。「何か」が高速でこちらに近づいてきている!
その音を耳が捉えたことを感じてすぐに体を回転させて避ける。
その直後、
ズドガンッ!
強烈な音がすぐ横から聞こえた。ついさっきまで俺がいた場所を見ると地面がえぐられていた。
まだモートドッグが生きていることはいまので確定したためそいつの位置を確認しようとする。そうして後ろに視線を動かしたとき目を疑った。まさかのそいつは天井を蹴って俺の方へ飛んでくる。ものすごいスピードだ。迫りくる左脚には黒い魔力の塊のようなものが纏われている。一目見て理解した。これが<デストラクト・スクラッチ>なんだと。
死ぬ。そう思った。
短い人生だった。16年とちょっと。
いろんなことがあった。
嬉しかったこと、悲しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、苦しかったこと。他にも色々。
せめて故郷に、日本に、家に帰りたかった。
最後まで優しくしてくれた人に「ありがとう」って伝えたかった。
まだ死にたくない。
そう思ったとき俺は叫んでいた。
「<暴食>!!!」
その直後、なんの衝撃もなかった。
なんていう都合のいいことは起こっていなかった。
ものすごい熱さが体を襲った。
強烈な痛みが体を蝕んだ。
全身が焼けるように痛い。
……全身が?
全身が痛いことに違和感を覚えた俺は自分の体を見た。そして驚いた。
そう俺の体は痛みこそあるものの傷一つついていなかったのだ!
思わず、ステータスの体力欄も見た。そこには、
3700
そう記してあった。ダメージを受ければ「○○/3700」と表記されるはずなのである。これはノーダメージ、助かったということなのか。
そして<暴食>の説明を思い出す。
まさかこの<暴食>は<デストラクト・スクラッチ>やそのダメージすらも喰らうってことかよ。
その仮説が正しければ俺が戦闘で受けるダメージは大きく減るだろう。ただし痛みまで吸収してしまうっぽいが。
そんなことを考えているとモートドッグの着地によって巻き起こっていた砂埃が薄くなってきた。そこでダメ元で<隠密>をもう一度発動させた。一度認識されていれば解除されるものなのでこれは通用しないかもしれないが発動させてみた。
そして視界が開ける前に距離を取った。
視界が開けるとモートドッグは明らかに警戒した様子であたりを見回す。おそらく生きていることには気づいているのだろうが、ダメ元で使ってみた<隠密>は効果があったようだ。
そんなことを考えていると今度は口を大きく開けた。すると口に膨大な魔力が集まり闇の属性を纏いだした。数秒後には広範囲闇属性魔法が放たれるとわかっていたが俺は落ち着いていた。
「それじゃあ、逆に死にに来てるようなもんだよ。」
ボトッ
その時、俺の第28階層初めての戦闘は終わった。