第28階層
目が覚めるとそこは何もない暗闇の中だった。
おそらくここは「魔王の墓場」第28回層だと思われる。それにしても俺をいじめるためだけにあんな仕掛けをして、わざわざレアなアイテムまで使うなんて、ほんとにどうかしてると思う。第一せっかくいじめていた俺を下層に送ればいじめる相手がいなくなるだろうに……
まあ、あいつらのことだどうせ他の誰かをいじめるんだろう。
誰か他の人があのいじめの餌食になるなんて、可哀想だ。まあ、せいぜいたくましく生きてほしいと思う。
それにしてもまさかほんとに花咲の「嫌な予感」が当たるなんて思ってもみなかった。最後も花咲だけが助けようとしてくれていたため、花咲にはこの件を伝えられていなかったことが明白だ。最後まで俺を助けようとしてくれた花咲には感謝しないとな……
もしもまた生きて会うことができるならば感謝の言葉を伝えたい。あと謝りたいものだ。あんなことを言われておいてまんまと罠にはめられたのだからな……
花咲のことを考えていたら悲しくなってきた。申し訳ないし、こんな自分が情けない。せめて生きて帰ろう、そう俺は心に誓った。
よし、いつまでも寝ていられない。そろそろ動こう。
そう思い、立ち上がろうとしたところで違和感を感じた。何故か立ち上がれない。
下を見てみる。そこで違和感の正体に気付いた。
右足がない……
……は?どうゆうことだ?
正直起きていきなり足がないなんてマジで理解できない。本気で笑えない。
そして片足がないのに無理に立ち上がろうとした隼はバランスを崩して倒れた。そこで隼はなにか柔らかいものに触れる。
「何だこれ」
そう思って手に取ったものを見て隼は
「っっ!」
そう、隼が手に取ったものそれは明らかに自分の足だったからだろう。それも明らかに何者かによって食われており肉がえぐられていた。それを見るとさすがに隼も状況を理解した。
俺は右足を失ったのか……
正直認めたくないことだし、とても衝撃的だ。だが隼は落ち着いてなんとか今の状況を分析し始めた。
まず俺は勇者に第28階層に落とされた。その後の記憶はないがおそらく転移の衝撃で意識が飛んだのだろう。そして俺が気を失っている間に魔物が右足を食べたのだろう。だがまずかったのだろうか吐き出したってところか。そうだとするとおれが死んでいない理由、右足が千切られていて不自然に欠陥しているのに足自体は残っている理由はともに説明できる。ステータスを確認してみると体力が減っている。だが片足を失っても、止血はされているようだ。ステータスすごい。
さて、これからどうしようかを考えなければならない。足が食べられていないことから俺が餌とされることはないだろう。では自分の力で這い上がるか、されも絶望的だ。食べられることはないにしてもダンジョンの魔物は攻撃的だ。戦闘なんてやってられない。じゃあこのままここで一生を過ごすというのか、冗談じゃない。そんなわけにはいかない。なんとか生きて帰りたいものだ。幸い水はアイテムボックスに入っている。食料は非常食が少量しか入っていないが……。
だが、たとえ上がろうとするにしてもいまの俺には足がないこれでは動こうにも自由に動きまわれはしない。どうしたものか。
それから数分考えてみたが、結局良い案も浮かばなかったので上へと帰るために歩くことにした。正直すごく動きにくい上に疲れる。片足がない状態で杖になりそうなものも持ってなかったので、壁にもたれかかりながら、けんけんで移動しているわけだ。両足があった頃に比べて進める距離も大幅に減ったものだ。
2時間半くらい歩いた。正確にはけんけんなのだが。上の階層に帰るための魔法陣は見つからなかった。正直全然進めていないためまだまだ時間がかかりそうだ。ちなみにダンジョンの階層をつなぐ魔法陣は他のトラップ等の魔法陣とは大きく異なり、常に出現しており、上への魔法陣が青色で下への魔法陣が赤色である。上への魔法陣と上の階層の下への魔法陣は直接繋がっておらず、階層の行き来は正直しにくい。
また、少し歩いて気づいたことだが、この階層には全然魔物が存在しない。見ることどころか、音も気配も感じなかった。足がやられていたことから魔物も存在自体はしていると思われるが数は上層ほどいないのではないかと思われる。
魔物の気配も感じられないので今日はここで休息を取りそのまま寝ることにしよう。今日は色々あったため疲れた。帰還のための28階層攻略はまた明日からにしよう。
******************************
あれから9日ほど歩いた。まだ魔法陣は見つかっていない。食料は2日前に底をつきた。ここのところはアイテムボクッスで保管しておいた自分の足を食べている。人肉を食べると病気にかからなどと噂で聞いたこともあるが全然そんなことはなかった。……とは言い切れない。確かに身体的に全然影響はないのだが昨日から体力の減りが大きくなり回復もあまりしなくなった。実はステータスが優秀なだけ、だという気がする。だがそんな自分の足もついさっき完食してしまった。完全に食料が尽きてしまった。これからどうなるのだろうか。
******************************
8日がたった。まだ魔法陣は見つからない。いつになったら見つかるのやら。もう今は水しか飲んでいない。ああ、もう死にそうだ。実際8日間も何も食べていないのだ、死んでもおかしくない。今、生きているのはステータスが優秀すぎるとしか言いようがない。だがそんなステータスが表す体力の数値も今や32まで下がってしまった。また状態異常「飢餓」「栄養失調」がステータス欄にいつの間にか書かれていた。もうそんなに長くなさそうだ。
だが、判断能力も狂ってきている隼は限界まで進んでいく。1步、1歩と確実に。
そうしてそれから数十分進んだ隼の前に衝撃的なものが現れた。
それはなんと……
犬の魔物の死体だった!
隼はなんの迷いもなく飛び込んだ。
正直魔物の死体はあまり良い状態とは言えなかった。おそらく食べられたあとなのだろう、肉はえぐられ、頭は半分くらい失われており、足も数本見当たらなかった。また周りは血で汚れており、死んでから時間が立っているのか、少々異臭までしていた。
そんな状態の犬の魔物に隼は一切の迷いも見せずに飛び込んだのだ。
ガブリ!
クチャックチャッ グジュリグジュッ グジョッグジョッ!
ゴックン!
味なんて感じなかった。だがその今飲み込んだ見た目の悪い魔物の肉が俺には世界で一番の食べ物に感じ、無我夢中で噛んで、噛んで、噛んで、飲み込んだ。
「ッッ!アアぁ、%”$%&#%!#$$”#%$&#"%&$"$"」
飲み込んだ瞬間に今までに感じたことのない激烈な痛みに襲われた。
痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい、痛い、苦しい!
そんなことを思い、意味のわからない叫び声を上げながらのたうち回っていた。そして意識を失いかけたときだった。唐突に頭の中で声が響いた。
「<称号>「異世界の勇者」確認、所持者カトウシュンに数奇な運命を確認、これより「奇跡」の実行を申請。……成功。これより対象カトウシュンに「奇跡」の実行を開始。
種族の進化……失敗。…………種族の変更を確認。種族の変化によりステータスの変更を確認。職業の変更「勇者」……失敗。「賢者」……失敗。「聖者」……失敗。「剣聖」……失敗。……………………………失敗、失敗、失敗。職業の変更、失敗。職業「無職」確認。<称号>の変更、確認。固有スキル<携帯電話>の進化……成功、固有スキル<ガラケー>の取得……失敗。原因の模索……成功。<携帯電話>の貯蓄スキルポイント、確認。是を考慮。固有スキル<携帯電話>の進化……成功。特別固有スキル<スマートフォン>の取得……成功。スキル<言語理解>の持続、成功。スキル<アイテムボックス>の持続、成功。これより「奇跡」を実行。…………失敗。原因の模索。大罪スキルの乱入を確認。大罪スキル<暴食>の取得……成功。これより「奇跡」を実行……成功。」