プロローグ
その日東京都立照山高校1年生120人は修学旅行に行っていた。
行き先は沖縄だ。空港までのバスの中でこれからの活動に対しての希望を胸に抱きそれぞれが談笑したり、トランプなどのカードゲームを楽しんだり、その後の活動に備えて睡眠を取ったりと過ごしていた。
それは1年2組40名も例外ではなかった。
「勇輝ぃー、次お前の番だぞ早く引いてくれよ」
そういったのは金髪でガタイのいいヤンキー風の男、矢崎裕二だ。
「悪い裕二、じゃあこいつだな」
そういってトランプのカードを引いたのは天空勇輝。学年1のイケメンと呼ばれている男で、頭脳明晰、運動神経抜群、いつも周りに大勢の女子を侍らせているリア充だ。同級生のみならず休み時間には上級生の女子までもが天空目当てにやってきていて、入学1ヶ月でファンクラブまでできるくらいだ。
「よし、じゃあ次はわたしね。んー、これっ! っああ!ババだ〜〜」
そういってジョーカーを引いてしまったのは花咲茜。明るい性格で誰にでも優しい。そのため校内での人気も高く、週1くらいのペースで告白されているがいまだに誰かと付き合ったなどという噂が出回ったことはない。校内では花咲を誰が落とすのか、果たして落とせる男が現れるのか、というようなことを誰もが考えたことがあるのではないかと思う。
「えーマジでぇ?ツッキーの爪超カワイイんだけどぉー」
「え、そうかな、ありがとう。希ちゃんも今日も可愛いよ」
そういったのは明るい髪色に派手なメイク、アレンジされた制服といわゆるギャルのような格好をした女子楽雅希だ。天空率いる集団とは別のグループで女子の中でイケイケでうぇーいな感じの子たちが多い。
そしてそこのグループのリーダー的存在である希に褒められたのはツッキーこと華宮月桂である。月桂はのぞみグループの中ではいや、クラス全体で見てもおとなしい方である。なぜこのような大人しい子が希のグループに所属できているか、それはいくつか理由を挙げられるが、その理由の一つは希が好んで受け入れているからだろう。そのように言うととても美しく聞こえるだろう。しかし現実は・・・・
「ほんと地味子ちゃんとはちがって私達はぁ、かわいいよねー」
「っっ!」
「ほら、なんかいいなよ地ー味ー子っ」
バンッ
「きゃっ、か、可愛いと思います・・・・」
そう希はこういうような胸糞悪い趣味を持っているのだ。地味な子をグループに引き入れていじめて楽しむのだ。それも堂々と。だが誰も助けることはない、天空も他のクラスメイトもましてや先生まで。理由は単純で誰も希には逆らえなかった。学園長の娘で多くの取り巻きを抱えているだけでなく希自身も悪い方向に頭がキレて、容赦ないのだ。
そんな希に逆らうものはいなかった。そのため希は暴虐の限りを尽くしていた。
・・・・・・と、そんなふうにいつものように人間観察をしているのは、加藤隼だ。成績優秀、運動神経バツグン、顔が良くて、おまけに性格までいい。
ということは全然なく、成績は中の下、運動神経は皆無、顔は特徴がなく覚えにくい、地味で、根暗で、教室の隅でいつも一人で本を読んでいる絵に書いたような陰キャだ。よく希たちのグループにパシリにされたり、ばかにされたりしている。それ以外では学校で人との関わりはない。そんな環境で会得した趣味は人間観察だった。・・・・・・自分の自己紹介なのにわれながら言っていて悲しくなってきた・・・・・・
とそんなふうに隼がひとり悲しくなっていると、いきなりクラスメートたちがざわついた。はて、なにがおこったんだか?