第7話 イーシャに到着
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中継都市ブリストルは、王都クロスターとダンジョンの町イーシャを繋ぐ大都市であり、門の前には長い行列が続いていた。
さすがは大都市、行列には人間種の他にも、獣人族、ドワーフなど様々な人種が並ぶ。
俺はファンタジー世界の定番であり、まだ見ぬ「エルフ」の姿を探したが、耳の尖った「エルフ」の姿を確認することはできなかった。
そんな感じで並んでいると、俺の順番が来て身分証を提示し、ブリストンへはすんなりと入ることができた。
入口を抜けた先の広場で、4日間お世話になったローガンさんとヘンリーさん、御者のおじさん、獣人親子に若い夫婦と別れのあいさつをかわした。
ローガンさんとは盗賊退治の事もあり、旅の間かなり親しくなり、これからイーシャに向かうことを告げ、握手を交して別れた。
俺はその日の宿を決めて、ローガンさんに教えてもらった馬車駅で、明日のイーシャ行きの馬車を予約した。
本来ならば、しばらく大都市ブリストンに滞在して、異世界ライフと美味しいものを食べ歩きしたいところだが、この体、魔素のない食べ物は何のうま味も感じないし、食事用に準備した魔力草、魔素キノコ、魔石の在庫を考えるとゆっくりもしていられない。
ダンジョンの町イーシャも大都市らしいので、異世界観光はイーシャについて堪能するつもりだ。
今日も宿の部屋で、一人寂しく俺用の夕食を食べて就寝した。
翌朝は、いよいよイーシャに向けて出発。
イーシャには4日目の夕方到着予定とのことで、野宿も無く夜は宿に泊まれるらしい。
馬車も盗賊退治で懐も温かいので、幌付ではないクッションの利いた扉付の馬車を予約した。
運賃は宿代込みで金貨2枚とかなり高いが、4頭引きの馬車は速度があるので、野営することもなく、幌付よりも2日も早く目的地に到着するそうなので、割高でも速度を優先した。
馬車に乗り込むと、同乗者は20代後半と思われる美しい女性冒険者3人組と神父と思われる年配の男性と15歳ぐらいのかわいらしいシスターであった。
前世で49歳のオッサンだった俺から見ると、20代後半?もしくは30代前半の女性冒険者はドンピシャ、幼いシスターは娘より年下で可愛らしい。
それだけで金貨2枚の価値があった。
イーシャへの馬車の旅は、揺れも少なく、窓からの景色も窓の中の眺めも最高だった。
お互いあいさつを交わして、出発してしばらくすると女性冒険者から、話しかけられた。
「にいさんは、冒険者かい?」
「はい、イーシャのダンジョンにあこがれて、旅をしています」
同乗者でお互いの話をした。
3人の女性冒険者の名前は、エルザさん、エマさん、ロビンさん
エルザさんは引き締まった体の赤髪長身の戦士
エマさんはブラウンの髪に猫耳の獣人の戦士
ロビンさんは、金髪垂れ目の優しいお姉さんタイプの弓の戦士
エミリーちゃんは、あどけなさの残る金髪の美少女シスター
ジョセフさんは、温和な感じの頭の薄い60歳ぐらいのオッサン
「カイル君は、こんな高級馬車で旅ができるなんて、どこぞのボンボンかい?」
エルザお姉さんから聞かれた。
「いえ、ブリストンへの旅行中に盗賊に襲われて、撃退した報奨金や懸賞金があったので、思い切ってこの馬車を選んだのです」
こんな話をしながら旅を続け、初日の宿泊地リスバーン着くころ、今夜の宿の夕食を一緒にどうだと、お誘いを受けた。
夕食はいつも俺用の魔石メニューなので部屋で食べているけど、きれいなお姉さん達の誘いを断ることは、俺にはできない。
お誘いを受けて、リスバーンの宿に着いた。
夕食の時間になる頃、俺は期待と緊張を胸に普段着に着替えて、味のしない食事を笑顔で美味しく食べるように自分に言い聞かせて食堂へ向かった。
食堂には、エルザさん、エマさん、ロビンさんにエミリーちゃんもいた。
ジョセフさんは、気を利かせてくれたのか、ゆっくり部屋で食事をとるそうで、異世界に来て、前世でも無かった女子会参加となった。
エミリーちゃん以外の3人は、夕食をつまみに次々とエールのジョッキを空けて陽気になり、イーシャのダンジョンのことなど、俺の質問に色々答えてくれた。
ちなみに、エミリーちゃんは、ロビンさんの姪っ子になるそうで、教会で成人の儀を受けたところ、光の加護(中)を授かり、これからイーシャの教会で修行をするそうだ。
ロビンさんは、エミリーちゃんの護衛と里帰りを兼ねて、バーティー3人とブリストンを訪問して、これからホームのイーシャに戻る。
エルザさん、エマさん、ロビンさんら3人はイーシャで名の知れたB級冒険者で、パーティー名はベルベット。
イーシャのダンジョンについては
・ダンジョンには、昼と夜があり、空も山も海もある別世界への入り口。
・季節もあり、夏は暑く冬には雪も降る。
・魔の森よりも魔素が濃く、魔物も強い。
・奥地には魔の領域と呼ばれる森と山岳があり、魔の領域に入って生還した者はいない。
・魔物を多く倒した冒険者は、身体能力と魔力が強くなる。
・魔物を多く倒すと、後天的に魔法の加護が増えたり、魔力小が中になることもある。
・イーシャの冒険者には大規模なチームを束ねたクランもある。
・良質な鉱物が採掘できる鉱山も多数存在し、採取専門のクランもある。
100年以上前だが、クロスターの王がダンジョン内に探索の拠点となる町の建設を始めたところ、魔物が押し寄せて、建設中の町を破壊し、ダンジョンから飛び出してイーシャを壊滅させた。
イーシャを壊滅させた魔物はダンジョンに帰ったが、その後ダンジョン内での町建設はタブーとなっている。
エルザさん達は、クランには所属していないそうで、3人とも魔力は小だが、冒険者を続けた今では、攻撃魔法とまではいかないが、魔法を発動できるようになったそうだ。
加護はエルダが火、エマは無、ロビンは風を持ち、無属性は身体強化を使える。
図書館などで魔法の種類や効果を調べられるか聞いてみたが、魔法は王国や貴族間で秘匿されており、属性毎の魔法の種類や発動の仕方を調べる手段はない。
エルダ達も魔法の使い方は、冒険者仲間から教えてもらったそうだ。
次の日、馬車に乗る前に俺の剣をみたエルザさんが
「あまり良い剣では無いな、そのうち戦闘中に折れるだろう」
「安くて、質の良い装備がそろう店があるから紹介する」
と言われ、剣を買い替えるよう勧められた。
たしかにカイルの装備を戦闘でずっと使ってきたが、ガタもきているし、イーシャに着いたら買い替えよう。
その後もエルザさん達は、冒険者として必要な知識を惜しみなく教えてくれた。イーシャに付いた後も、困ったことがあったら遠慮せずに頼るように言われた。
イーシャが近くなったころ、ロビンさんが教えてくれたのだが、エルザは普段はクールな性格で初対面の冒険者にここまで心を許すことはない。
多分、赤髪のカイルが冒険者になって亡くなった弟に似ているから、ここまで心を許したのだろう。
と教えてくれた。
旅は問題なく進み、4日目の夕方には予定通りイーシャに到着した。
ブリストルと同様に、ダンジョンの町イーシャの門の前には長い行列が続いていた。
やはり、ダンジョンの町だけあって、列には冒険者と思われる屈強な戦士が多く並ぶ。
しばらく並んで、身分証を提示しイーシャに入った。
門に入ると大きな広場があり、多くの露店で賑わっていた。
街並みは、石造りの家が多く、3階建以上の建物も建っている。
エミリーちゃんと、ジョセフさんはあいさつを交わして、直ぐに教会に向かった。
エルザさんらは3人で部屋を借りているそうで、俺におすすめの宿と武具店を紹介してくれてから別れた。
お勧めの宿の名はアイリス亭、受付には10才ぐらいの犬耳獣人の女の子がいた。
とりあえず3泊お願いした。
宿泊料は1泊、銀貨1枚で、食事は朝夕で銅貨15枚
女の子の名前はアイラちゃん。
アイラちゃんから
「朝・夕の食事をワイルドボア肉のステーキにすると、食事が大銅貨3枚になります」
「ワイルドボアは、ダンジョン産の魔物で美味しいですが、いかがですか?」
と聞かれたので、食事は部屋でとることと、ワイルドボア肉をお願いした。
部屋は2階で、中にはベッドとクローゼットがあり、トイレも個室となっていた。
この宿の1階の裏庭には夕方のみ時間帯で男女を分けて入れるサウナがあった。
ちょうど、今が男性の時間帯であったので、異世界初サウナに入った。
中には、犬人族とドワーフの先客があった。
サウナは同時に6人ほどが利用可能で、熱した石に水をかけた蒸気の中、3人とも腕を組んで無言で汗をかいた。
ちなみに俺は汗をかかないが、体には蒸気が付着していたので違和感はなかったと思う。
サウナを堪能した俺は最後に井戸水をかぶって、体をふいて部屋に戻った。
戻ったあとは、夕食のワイルドボアのステーキが運ばれてきた。
部屋で熱々ステーキにナイフをいれて、口に運ぶと、何としたことでしょう。
うま味を感じる。
今まで、この世界の食事に味を感じられなかった俺にとって衝撃の味。
素材が魔物であることと。熱したことによって、初めて肉のうま味を感じることができた。
多分、塩などの調味料もかかっているであろうが、調味料の味は感じることはできなかった。
これで塩気などを感じられれば最高なのだが、肉のうま味を感じられたことは収穫であった。
付け合わせには、魔力草と魔素キノコ、魔石を頂きました。
宿での夜を過ごした俺は、翌朝もワイルドボアのステーキに魔石などを添えて朝食を堪能した。
食後はエルザさんに教えてもらったお勧めの武具店に向かった。
武具店はメインストリートから、だいぶ外れた場所にあった。
中に入ると、剣やメイスなどの武器と金属を主体とした防具や盾が、たくさん並べられていた。
店の奥からは、鍛冶屋の金属を打つ音が聞こえてくるので、店舗兼工房となっているようだ。
声を掛けると、作業着姿のドワーフが出てきた。
俺は、エルザさんからの紹介で剣を買いに来たと告げた。
「剣は両手剣と片手剣どちらにする?」
「片手剣でお願いします」
ドワーフは、飾ってあった刃渡り80センチほどの剣を持ってきた。
「お勧めはこれなのだが、裏で試してみるかい?」
裏庭に案内されて、しばらく素振りをすると腕に馴染んで振りやすい。
両刃の剣は実用重視で、丈夫そうだ。
「おいくらですか?」
「金貨15枚だ」
「この剣はミスリルを含んでるから、見た目より軽くて耐久性もいい」
ファンタジーあるあるのミスリル?
「魔力を流せますか?」
「魔力があれば可能だ」
日本円で150万円。
軽自動車が買える値段だが、命を預ける相棒なんだし妥当と感じた。
エルザさんの紹介だし間違いないだろう。
俺は購入を決めて金貨15枚を支払った。
ドワーフは名をウォルターさんと言い、メンテナンスは銀貨1枚。
こまめに持ってくるように言われた。
武器の購入も済んだ俺は、その足でイーシャの冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは、昨日の大きな広場の前にあり、3階建ての立派な建物だった。
中に入ると受付も8列もあり、多くの冒険者が依頼版を見たり、受付で話していた。
1階には、食堂兼打ち合わせスペースとなるテーブルもあり、朝からエールを飲みながら談笑する強面の冒険者もいる。
俺は、旅の途中にエルザさんに教えてもらったホームの変更手続きとダンジョン地図購入の為、受付に並んだ。
俺の並んだ列の受付は、現役冒険者のように厳つい禿げたオッサンだった。
この列が、空いていたので並んだんだが、やはり冒険者は男の比重が多く、列の多い受付はきれいな女性が立っていた。
受付のおっさんにホーム変更とダンジョン地図の購入をお願いした。
おっさんは意外にテキパキと俺の身分証の記録を終えて、丸められた皮用紙のダンジョン地図を渡してくれた。
ダンジョン地図は銀貨3枚だった。
3万円。
食堂のテーブルに座り、地図を広げてみたが、地図は非常に簡単に森の位置と海の位置、山の位置が書かれており、2か所の森と山岳地帯に×の印と共に魔の領域と記載されていた。
地図を見ると東の森を抜け、さらに山岳地帯を抜けた先に魔の領域と呼ばれる森があり、北の森を抜けて、さらに砂漠を抜けた先に魔の領域と呼ばれる山岳地帯があるようだ。
西の森を抜けて、平原の先にある森をさらに抜けると海が広がり、南の森を抜けて、平原を越えると山岳地帯があるようだ。
要するに東と北は魔の領域までで行き止まり。
西は海を渡った先は不明。
南は山岳地帯の先が不明であるようだ。
行ってみないと分からない。
と言うことであろう。
依頼の張られた掲示板をみると
ワイルドボアの肉10キロあたり銀貨2枚、薬草と毒消し草が一束銅貨5枚、魔力草:銀貨貨1枚、魔素キノコ:銀貨4枚、くず魔石:大銅貨1枚、小魔石:銀貨1枚、小魔石以上は:時価と記載されていた。
宿のステーキが500gまでは無いと思うが、2食1キロ換算で大銅貨3枚。
10キロで銀貨3枚と考えるとアイリス亭のステーキの値段は卸価格を考えたらお得だなと、知的な計算をした。
薬草と毒消し草の買取価格は、ホーシャム村と同じだが、魔力草と魔素キノコの買取価格は倍となっているのは、質が良いのか、需要地への運搬コストが関係するのかな?
冒険者ギルドを出ると夕方前となっていたので、宿に帰宅し、サウナと夕食を堪能して就寝した。
初投稿作品です。
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