第096話 噂の内容
その後、何とか生餡状態にした二種類の豆に三種類の砂糖を使って味付けをする。と言う訳で6種類の白餡が出来たわけだが、それを又人数分に分けていく。悪役令嬢の五人と私で6人。更にマルティナのメイドのシャンティーが物欲しそうな目で見ているので、私はエマの分も含めて八人分に切り分ける。
八人分で切り分けたので、一人当たりの量は少なくなってしまったが、一人六種類もあるので、お茶をするには丁度良い量である。
「では、完成しましたので、台所ではなんなので、お茶室でお茶をしながら試食をしましょうか」
ティーワゴンで運ぶのはメイドのシャンティーに任せて、私とミーシャは汗を拭って、エプロンを脱いでからお茶室へと向かう。
「レイチェル様、ミーシャ、お疲れ様でした」
すでに席についているコロン嬢がねぎらいの言葉を掛けてくれる。
「特に難しそうな行程はなかったけど、随分と手間のかかるお菓子なんだね」
「そうですね、難しくはないですが、目が離せなくて手間が掛かりますね、でも手間さえ惜しまなければ誰でも作れるのが良い所ですよ」
オードリー嬢の言葉にそう返しながら、私も席につく。
「あのまま食べても良さそうですが、色々なものに使えそうですよね。でもクッキーにはむずかしいかな?」
ミーシャもそう言いながら、席に着く。
「えぇ、あの餡を小麦粉の生地に包んで油で挙げれば、この前頂いたいもくじも出来るわよ」
「えっ? いもくじって芋からつくっているのじゃないの?」
私の言葉にマルティナが驚いて反応する。
「芋でもできると思うけど、餡でも似たようなものが作れると思うわ。今度ためしてみましょうか?」
「うーん、でもいもくじの良さはくじを引くところだから…」
変な悩み方である。
「私も今度おじい様に作って差し上げようかしら、たまには甘い物も喜ばれるかしら?」
テレジアのおじい様は、大叔父に財産を乗っ取られたため、あの歳でも未だに憲兵の仕事をなさっている。肉体労働の後の甘いものは喜ばれるであろう。
「えぇ、カイ様も喜ばれるかと思います。晩酌と一緒にお出ししてみてはいかがでしょうか」
そんな話をしていると、お茶の準備ができたシャンティーが先程作ったお菓子と共にティーワゴンで運んでくる。
「さぁ、来ましたよ」
「あら、6つもあるのね、それぞれ色が違うわ」
コロン嬢が差し出されたお菓子を見て反応する。
「はい、二種類の豆と三種類の砂糖をつかって、合計六種類の試作品を作って見ました。皆さまの感想を頂きたいです」
「白っぽい豆と、少しクリームっぽい色の豆の二種類と、砂糖は、上白糖、キビ糖、黒糖の三種類です。なので一番白いのが白い豆と上白糖で、黒っぽいのが白い豆と黒糖って感じになってます」
私の説明にミーシャが補足説明を加えてくれる。
「へぇー、砂糖にもそんな種類があったんだね」
そう言いながら、オードリー嬢がフォークを持って、試食品を切り分けて口に含んでいく。他の令嬢達もそれぞれにフォークを持ち、切り分けて口に含んでいく。
私はその様子を固唾を飲んで見守る。
私はすぐに感想が帰ってくるかと思ったが、皆、無言のままで、一口食べては次の物、また一口食べては次の物と、それぞれの餡を試食していく。
「これは、どれが一番良いとかの良し悪しではなくて、好みの問題ですわね。勿論、全て美味しかったですわ、以前頂いた、あの大王くじのように」
そう最初に感想を口にしたのはコロン嬢であった。
「そうだね、これは一緒に合わせるお茶によっても、味わいが変わって来るね」
「白いの方があっさりしてますわね、黒い方はコクがありますね。私は白い方が好みですが、男性には黒い方が好まれるかも」
「私は逆に黒い方が好みですね」
オードリー、テレジア、マルティナの三人がそれぞれに感想を述べる。私も皆の感想を聞いて、それぞれの餡を試食していく。
「確かに思った以上に風味の差が出てますね、自分で作っておいて言うのは何ですが、ここまで風味の差がでるとは思いませんでした」
「これをいもくじみたいな餡ドーナツにすれば、見た目で味が分からないから、いもくじみたいで楽しいかも」
そこへ、全ての味見を終えたミーシャがポツリと呟く。
「エリシオ様はどの味がお好みかしら…」
何気ないミーシャの呟きであるが、コロン嬢の表情が一瞬で変わる。
「ねぇ、ミーシャ…」
「はい? なんですか?コロン様」
突然の真剣な表情のコロン様に、ミーシャは首を傾げる。
「まだ、エリシオの事は諦められないの?…」
その言葉で、ミーシャの身体が強張る。
「ミーシャ、貴方も知っているのでしょ? 新しい貴方への悪い噂が流されていて、その噂の元がエリシオだという事も…」
コロン様と発言とミーシャの態度で、先程まで和気藹々としていた空気は一瞬で凍り付く。
「私はミーシャの心を強制的に変えたりはしないわ、個人の意思は大切だもの…でも、私は友人として貴方が傷つく姿も見たくないのよ…」
コロン嬢は慈愛に満ちた瞳で訴えかけるが、ミーシャは黙りこくって、膝の上で拳を握りしめる。その様子を見て、コロン嬢は悲しそうに目を伏せる。
「まだ、思い続けている様ね…でも、辛くて苦しくなった時は、すぐに私に相談してね。話ぐらいは聞いてあげられるから…」
「ありがとう…コロン様」
こうして、仕方のないことではあるが、後味の悪い試食会は終了した。
その後、皆が返って、マルティナの二人きりになった時に、私はコロン嬢が仰っていた、ミーシャに対する新しい悪い噂について尋ねてみる。
「マルティナ、コロン様が仰っていた噂の話を知っている?」
「えっ? レイチェルは知らないの?」
マルティナに知らない事を驚かれる。
「どんな噂なの?」
「それが… ミーシャがエリシオと恋仲になった女性を無理矢理別れさせて、しかも堕胎させたって噂が広まっているのよ」
私はその話を聞いた途端、目に星が散るほど血が上って怒りに沸騰した。
「ちょっと! なにそれ! エリシオが自分でやらかした事をミーシャのせいにして、自分は被害者の立場にいるつもりなの! 本当に頭にくるわ!!」
「ちょっと、レイチェル! 落ち着いて! 落ち着いてってば!」
突然怒り狂う私に、マルティナは慌てて私を宥め始める。
「これが落ち着いていられるものですか! 前からクズだと思っていたけど、これ程までに外道だったとは… マルティナ! ちょっとこれから二人で殴りにいかない!?」
「いや、私も最初聞いた時には、レイチェルと同じぐらいに怒り狂ったけど、もう少し、現実を見て考えましょうよ」
怒りで私に憑りつく存在をコントロール出来るのであれば、今すぐ行ってあの外道の魂を消滅させてやりたい。
「現実を見てって、見ていたら何か状況が変わるの!?」
「だから、私に怒鳴らないでよ… ミーシャがあの調子だし、コロン様もミーシャの事があるから、今は黙っていて、色々とあの外道を叩く準備をしている所って仰っていたから!」
私はその言葉を聞いて、一度怒りを沈めていく。恐らく、一番怒り、そして悲しんでいるのはあの情の深いコロン様であろう。そのコロン様がミーシャの意思を尊重し、怒りと悲しみをぐっと堪えているのだ。
「そうね…私が暴走して、変な事をしでかしたら、コロン様が考えている計画の邪魔をしてしまうかも知れないわね…」
「ようやく、落ち着いてくれたのね…助かったわ… まぁ、私もコロン様に聞いた時は、私がレイチェルの様に怒って、コロン様が今の私みたいに鎮めてくれたのだけどね、だから、レイチェルが怒る気持ちもよく分かっているから安心して」
こうして私のエリシオに対する悪感情はこれ以上ないほどに高まったのであった。
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