第072話 イベントの再発
「本当に失敗したわ… 途中までしか出ていないならまだしも、全巻あるのだったら止まらないじゃないの…」
「ホント、そうよね…私も眠くて眠くて仕方がないわ…」
私とマルティナは今、欠伸を噛み殺しながら、教室の座席についている。結局、昨日の夜は私、マルティナ、シャンティーの三人で、徹夜して漫画を読みふけってしまった。
私自身は、『ドロップ・ドロップ』さえ読めれば、先に眠ってしまおうと考えていたが、先にシャンティーが読み始めていたので、別の漫画を読み始める事になる。しかし、私が待っていても一向にシャンティーは読み終わらない。彼女は良く味わいながら読む性格だったのだ。なので、私が『ドロップ・ドロップ』を読み始めた時は、深夜を優に回っていた。
そして、読み終わろうとした時には、エマの姿があった。何故、エマの姿がと思ったが、窓の外を見ると明るい。時計を見たら朝になっていたのだ。
「もしかして、徹夜なさったんですか?」
「………」
エマにそう尋ねられた私は沈黙で答えるしかなかった。年下の見本となるべき私たちが、漫画を読むために徹夜をしたなんて、正々堂々と言える訳がない。
そう言う訳で、私とマルティナは物凄い睡魔に耐えながら学園に来たのであった。ちなみにシャンティーはマルティナの自室に戻ると言っていたが、あれは眠るつもりだと思う。
私たちの方も教室には辿り着いたものの、気を抜くと睡魔に一気に意識を刈り取られそうになる。授業の担当の先生を待っているこの間にもすぅーと無意識に消え去りそうに…
「アレン皇子!! 何をなさっていますの!!!」
突然の大声で、ほとんど眠りかけていた私の意識は一気に覚醒する。マルティナもビクッと肩を震わせて顔を上げる。
「煩いし、しつこいよ!コロン! 僕はシスティーナ王女をエスコートしているだけじゃないか! いい加減、コロンの嫉妬はうざいんだよ!!」
アレン皇子の大声も聞こえて来るので、私たちは慌てて声の方向へ顔を向ける。すると、教室の入口の所で、シス王女と腕を組んだアレン皇子たちと、コロン嬢が言い争っている。
「だから、私は時と場所、そして皇室の一員としての節度を守って頂きたいと申し上げておりますの!!」
「その皇室の一員に対して、侯爵家の人間が、口が過ぎるんじゃないか?」
アレン皇子とコロン嬢の言い争いは続けられる。二人の間でシス王女はどうしたらよいものかと、おろおろとしている。
「ねぇ、マルティナ…あれって…」
眠気が一気に覚めた私は、目の前で繰り広げらている光景に、確認の為にマルティナに声を掛ける。
「そ、そうね…あれって、ゲームの中のイベントとそっくりよね…」
そう、目の前で繰り広げられているアレン皇子とコロン嬢の言い合いの光景は、ゲームの中のイベントとそっくり同じである、ある一つを除いては…
「本来のイベントでは、あそこでオロオロするのはシス王女ではなく、主人公のレイチェルだったわよね… 私がアレン皇子たちを避けているからと言って、これはどういうことなの?」
「物語の強制力って奴かしら…レイチェルが行動しないから、シス王女を代わりという事で…」
その後も続けられるかと思った、アレン皇子とコロン嬢の言い争いも、ゲームと同じように先生が教室に来た事によって中断される。
その後、シス王女はアレン皇子達と一緒に座り、コロン嬢は私たち一緒に座ったのだが、ずっと瞳に輝きが無く、仏頂面だったので、一言も声を掛ける事が出来なかった。
そして、その後も、溜まっていたイベントが一気に消化されるかのように、コロン嬢とアレン皇子の衝突が勃発していく。もちろん、そのイベントの主役は本来のレイチェルである私ではなく、シス王女に置き換わってだ。
そのイベントの発生に伴い、アレン皇子とコロン嬢との仲はドンドンと険悪なものになっていき、もはやお互いが親の仇のようになっていく。そして、怒りで不機嫌になるアレン皇子をシス王女が宥めて、二人の関係は益々深まっていく。
「ちょっとこれはマズいわね…」
私はその様子を見て言葉を漏らす。
「そうよね、コロン様の機嫌がドンドン悪くなっていくわね…お茶会にコロン様を誘おうと、せっかく大王くじも買って来たのに…」
マルティナの大王くじの言葉には興味が引かれたが、問題はそこではない。
「マルティナ、問題はコロン様の機嫌だけの事ではないのよ、このままイベントが進めば、コロン様がどうなるのか覚えているでしょ?」
「あっ…そうだ、イベントだ…」
マルティナはゲームの中でのコロン嬢の最後を思い出し、顔から血の気が引いて青ざめる。
コロン嬢のイベントが最後まで進んでしまったら、彼女に待っているのは死である。
「このままでイベントが最後まで進んでしまったら、コロン様が死んでしまう事になるわ。それだけは絶対に止めないと…」
「元々のマルティナの記憶からしても、今の私にしてもコロン様には死んでほしくないわ!」
マルティナも私と同意見である。
「だったら、コロン様を助けないとね」
「そうね、助けなきゃ」
私とマルティナは互いに目を合わせて頷く。
「でも、どうしてコロン様はゲームと同様に怒り狂っているのかしら、アレン皇子の節操のなさは兎に角、シス王女は帝国式の礼儀作法も出来る様になってきているから、アレン皇子の側室候補として見止めてもいいはずだけど、彼女はその側室候補すら絶対に認めない感じだったわ」
私なら側室として認めていたし、別にコロン嬢とシス王女が個人的に仲が悪いということではない。アレン皇子がいない場所では、コロン嬢はシス王女に目くじらを立てたりはしてない。だからなお一層、ゲーム通りのコロン嬢が激高するイベントが発生するのかよくわからない。
「聞きにくい話ではあるけど、コロン様に直接、聞き出すしかないかしら」
「でも、レイチェル。マルティナの記憶の中のコロン様は、こういった思い詰めた時は、一人で問題を抱え込む質だから、普通の方法だと聞き出せないと思うわ。飲みにケーションでも使えればいいんだけど…」
その後も私とマルティナの二人で色々と考え込むが、中々良い方法は思いつかず、私は診療所へボランティアに行く時間となり、コロン様対策はお互いが考えておくという事になった。
そして、診療所の仕事を終え、自室に戻ると昨日と同じくマルティナの姿があった。
「いい方法を思いついたわよ!」
そういうマルティナの手には何かの紙切れが握られていた。
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。




