第070話 シス王女とミーシャとのお喋り
シス王女に対する帝国式礼儀作法の提案はあっさりすぎるほど了承されてしまった。どうやら彼女は長い監禁生活で、帝国式の礼儀作法を忘れてしまい、不完全な帝国式礼儀作法をするならば、完璧にできる故郷の礼儀作法で通していたそうだ。
「この帝国に来る前は、ちゃんと練習をしていたのですが、暫く休んでいるうちに、ちゃんとした作法ができなくなってしまって…それで、不完全な作法で相手を不快にさせるのなら、私の国の最高位の作法であれば、不快にはさせないと思って」
なんだかわかる気がする。私も同じ状況になれば同じことをやっているかもしれない。だから、シス王女にとって私たちの提案は渡りに船で、アレン皇子の事を仄めかさなくても、帝国式礼儀作法の講習を受ける事を快諾してくれた。
「本当に嬉しいです!! 今更、忘れてしまったので教えてくださいと言い出せず、困っていましたっ」
とは言っても、私は放課後、下町の診療所での手伝いがあるので、ずっと彼女の時間を拘束して教える事は出来ない。だから、私やマルティナ、そしてシス王女の授業の無い合間の時間を使っての練習となる。
かと言って、ガチガチに時間を切り詰めて行うのも、彼女のストレスになると思われるので、適当な時間で切り上げて、後はお茶を楽しみながら実践という形をとっている。いわば、お茶と食べ物で練習のご褒美と言う訳である。
で、本来であれば私とマルティナとシス王女で始める予定が、今回はもう一人がメンバーに加わっている。
それは『悪役令嬢』の一人のミーシャである。私たちがお茶をするために食堂へ訪れると、以前と同じように、手作りのお菓子の入った可愛い小袋を持って、泣きそうな顔をしながら立ちすくんでいた。恐らく、また婚約者であるエリシオに断られたのであろう。そんな彼女を放っておける訳もなく、彼女もお茶会へと誘う。
そんな訳でお茶は食堂から提供されたものだが、お菓子はミーシャが焼いてくれたクッキーである。彼女のクッキーは凝っていて、全てのクッキーの形が別々の動物の姿をしていて、それぞれに様々な装飾が施されている。これなら、お金を出しても欲しがる人はいるだろう。それなのにエリシオはつき返すなんて、なんて勿体ないことをする人間なのか。
「うわぁー!! 可愛いクッキーですね! 色々な動物がいます! 食べるのにまよっちゃいますね」
シス王女が声を出して喜ぶ。
「シス王女はどれになさいますか?」
シス王女に喜んでもらえて、少し気の休まったミーシャはクッキーをシス王女に差し出す。
「では、私は鯨を貰いますね。故郷ではよく本物の鯨を捕鯨していたんですよ」
鯨肉か…日本にいた時も、こちらに来てからも食べていないな…美味しいのかな?
「じゃあ、私はこの熊さんを」
マルティナが大きな熊の形のクッキーを摘まむ。
「レイチェル様はどちらになさいますか?」
ミーシャがエマの様な小さな手でクッキーを差し出してくる。
「では、私はこのうさぎを貰いますね」
私もの貰ったうさぎのクッキーは、表面にホワイトチョコが塗られており、うさぎの瞳の部分はシロップに付けたチェリーを使って表現している。一つ一つにここまで手を掛けているなんて、かなりの力作だと思う。
「ところで、シス王女様、帝都での暮らしはいかがですか?」
マルティナがシス王女に言葉を掛ける。
「そうですね、海ぐらいしかない私の故郷と比べて、色々なものが帝都にはあるので、帰りたくなくなってきますね、ずっとここで住みたいぐらいですよ」
田舎暮らしの私がはじめて東京に行った時と同じようなものかな?
「特にどの様な事が魅力的に思われてますか?」
私も前世の玲子時代は田舎者だったので是非ともシス王女の興味のある所を聞いてみたい。
「そうですね、何もかも魅力的に映りますが、一番のお気に入りは書店ですね」
「書店ですか?」
シス王女から意外な返答が返ってきた。
「そうです、書店です! この国の書店では、わが国にはない、漫画やコミックなどがあって、どれも素晴らしいです!!」
「えっ? 漫画やコミック?」
私はシス王女の言葉に衝撃を受ける。この世界に漫画やコミックがあるとは… マルティナも知っているのかと思い、彼女の方に向き直ると、彼女も驚いたような顔をしている。
「えっ? シス王女も漫画やコミックを読まれるのですか?」
シス王女の話に喰いついてきたのはミーシャである。
「えぇ、特にベジタブルバスケットとか、ノダメフォルティシモとか好きですね」
「えぇ!!そうなんですか!私も好きなんですよ! 他にも私、ハニーとクローブとかも好きで何度も読んでいるんですっ!」
先程まで、絶望のどん底の様な顔をしていたミーシャが、まるで花でも咲かせたかのような明るい笑顔を作り出す。どうやら、仲間を見つけたことで滅茶苦茶嬉しそうである。
しかし、二人の話している漫画のタイトルを聞いていると、前世の玲子時代に聞いたことがあるようなタイトルばかりである。これは日本からの転生者の影響なのか、それともただの偶然なのか、どちらだろう…
「しかし、ベジタブルバスケットの異性に触られると十二の神獣に変身してしまうって発想は凄いですよね。後、主人公のミコトちゃんは最終的に誰を選ぶのでしょうかね」
あっ…これは、偶然ではなく、絶対に転生した日本人の仕業だ。
「ところで、レイチェル様とマルティナ様も漫画は読まれないのですか?」
シス王女とミーシャが同志だと期待して、キラキラした目で私とマルティナを見てくる。
「残念ながら…」
マルティナがそう漏らす。
「私もまだ見たことがないのです。それよりも、シス王女の話で漫画やコミックという存在を初めて知ったもので…この国のこの帝都の住人である私が、逆にシス王女にその存在を教えてもらうなんて、少し恥ずかしいです」
確かに恥ずかしいのもあるが、同じ日本人による文化侵略について申し訳ないと思う所もあった。
「まぁ、そうでしたの…」
「漫画の素晴らしさをご存じないなんて残念です…」
シス王女とミーシャが私たちの言葉に残念そうな顔をする。
「でも、大変興味が出ましたので、どの様な物があるかお話しいただけるとありがたいです」
「そうそう!私も知りたいです」
私とマルティナは盛り上がった二人を励ます為と、実際にどれだけ日本による文化侵略をされているかを知る為に聞き出して見る。
すると、落ち込んでいたシス王女とミーシャは再び、花を咲かせたような笑顔を作って語り始めた。
その結果、非常にやばいレベルで日本の文化侵略が進行していることに気付かされた。また、お茶会が終わった後、マルティナが決意を固めたような顔をしていたので、恐らくこの後、書店に向かって、侯爵令嬢の財力を使って大人買いをするつもりなのであろう。
私はそんな姿を眺めながら、診療所の手伝いへと向かったのであった。
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※はらついの次回は現在プロット作成中です。




