第385話 全ての審議
あの後、私とあーちゃんの二人は別室に移り、二人で今までの事の話しをしていた。
「へぇー それで、あーちゃんが、好きなった人を盛り立てたから、今の皇帝陛下が即位なさったのね」
「そうよ、あの人ったら、遠慮しがちで気の優しい人だから、私とセクレタちゃんの二人で説得して、根回しして、即位してもらったの」
「頑張ったのね、あーちゃん、凄いわ」
私は素直に褒める。失恋を繰り返し、何事にも後ろ向きで自分なんて…とか思っていたあーちゃんが、この異世界でここまで昇り詰めるとは思っても見なかった。
「だって、ここは貴族のいる異世界でしょ? 二人の愛を邪魔されない為には、権威と権力の頂点に立たなければならなかったのよ」
邪魔されない愛を手に入れるために権力を… 普通は逆だと思うが、ともあれ、あーちゃんはよく頑張ったと思う。
「それで、どうしてレイチェルで私が玲子だって分かったの?」
一番、疑問に思った点だ。
「あぁ、それね、玲ちゃんの家庭教師をしていたセクレタちゃんからの報告で目星は付けていたんだけど、確信を持ったのは…玲ちゃんが纏わりつかれている、アレの事かな?」
「アレって…もしかしして、私に憑りついているアイツの事?」
「そうそう、あんなの背負っているのは玲ちゃんぐらいしかいないから…その事を、ディーバさんの所からイニミークさんにその事が流れて、私の所まで来た訳…あっ、この事は誰にも秘密よ」
そう言って、人差し指を口元で立ててウインクする。
「あー 確かに私の他にはいないでしょうね… いたら、その人と愚痴を言い合う友達に成りたいわ…」
私の言葉にあーちゃんはうふふと笑う。
「それと、玲ちゃん、後もう少しだけ付き合ってもらえるかしら?」
「いいけど、何かあるの?」
「そうね…後腐れが無いようにケリをつけなければ行けない事と、こちらの世界のお友達の事も心配でしょ?」
母親が子供に友達が出来た時の様にあーちゃんは微笑む。
「みんなは大丈夫なの? それにケリを付けるって…やっぱり、あーちゃんはアレン皇子の事…怒っている?」
私は子供がいたずらを告白した時に、母親の顔色を疑うようにあーちゃんを見る。
「アレンの事? これっぽちも怒ってないわ、逆に清々したぐらいなの」
私の予想とは全く逆に、笑顔で答える。
「元々、アレンは皇帝陛下のお兄様の子供で、表向きには、陛下と私の養子になって、次期皇帝にって話があったわ、でも、アレンってあの性格でしょ? 私もあの性格を治そうとしたのだけれど、アレンを神輿として担ぎあげたい一派が邪魔してどうにもできなかったのよ、あのままアレンが皇帝の座についていたと思うと寒気がするわ」
あーちゃんはゴキブリの話でもするように、嫌そうな顔をしてそう話す。
「陛下、準備が整ったそうです」
御付きの人狼の近衛騎士があーちゃんに報告する。
「あら、ミュー、もう準備が整ったの? では、今から行くわね、玲ちゃんも付いて来て」
私はあーちゃんの後に続き、先程の謁見室へと進んでいく。
「ラシラロ帝国、皇后、アンナ・カーラル・アシロラ様の御出ましである! 皆の者! 控えろ!」
皇后宮使が声をあげる。
「玲ちゃんは私の側で控えていて」
あーちゃんが小声でそういって、壇上の玉座へと向かう。そこには既にセクレタさんとディーバ先生の姿もあり、あーちゃんが玉座に座って前を向いたところで、私も前を向くと、数多くの上級貴族と思われる人々が、膝をつき、平伏していた。
その最前列には、コロンやマルティナ、オードリーにミーシャ、テレジアの姿も有って、その隣には、保護者であるロラード夫妻やジュノー夫妻、トゥール卿にラビタート夫妻、カイさんの姿もあった。私の知り合いである方々は皆、平静に平伏しているが、その後ろの人々は、皆、青い顔をして脂汗を流し、小刻みに身体を震わせている様だ。
「皆の者! 面を上げよ!」
再び、皇后宮使が声をあげる。そして、脇に挟んでいた巻物を目の前で仰々しく広げて、その中身を読み上げていく。
「この度は、アシラロ帝国立学園の学園祭にて、エリシオ・コール・ベルクード、カイレル・コール・カルナス、オリオス・コール・イアピースの主催となり開催された学園には相応しくない催しが執り行われ、また、その中で違法薬物が使用された事と、それに伴う、ベルクード家のエリシオ・コール・ベルクードとラビタート家のミーシャ・ミール・ラビタート、カルナス家のカイレル・コール・カルナスとマルティナ・ミール・ジュノー、イアピース家のオリオス・コール・イアピースとトゥール家のオードリー・ミール・トゥールの婚約破棄について…」
ここで皇后宮使は一度息継ぎをする。
「また、その後、学園の時計台にてエリシオ、カイレル、オリオスに付け加えて、アレン・カウ・アシラロを加えた四人で、ミーシャ、マルティナ、オードリーに加えて、ロラード家のコロン・ミール・マウリシオ・ロラード、アドリー家のテレジア・ミーピラ・アドリー、ステーブ家のレイチェル・ラル・ステーブの六人で成し遂げた帝国に対するテロ行為の阻止の功績略奪事件についての審判を執り行う」
宮使は巻物を巻き戻して、皆に向きなおる。
「審判に当たり、嘘、偽りの無い事を、神と家名に誓って宣誓せよ!」
その言葉に従い、謁見室の皆が、左手を胸に当て、右手を上げて、次々とそれぞれの信じる神と自分の家の名に誓って、嘘、偽りの無い事を宣誓していく。
すると、宣誓を終えた者から、緑の光の柱が上がっていく。これが、宣誓をした証になるものなのであろう。謁見室全体にそんな魔術的な仕掛けがしてあるようだ。
「では、先ず、学園祭での公序良俗に反する催し物についての精査を行います。資料をこちらに」
あーちゃんは先程までの優しい笑顔のあーちゃんではなく、毅然として威厳を持った帝国の皇后としての表情をしていた。あーちゃんは、部下の人が運んできた巻物を受けておると、縦に広げてその中身に目を通していく。その間に眉間の間に皺が深まっていき、表情がどんどん険しい物へと変わっていく。
「歴史と権威ある帝国の最高学府である学園で、この様に如何わしい…口に出す事すら憚られる催しを行おうとしていたとは… 何とも恥知らずな… ディーバよ、この報告書の製作者として、貴方の名前がありますが、この内容に嘘偽りはないですか?」
あーちゃん、いや皇后陛下は、側に控えるディーバ先生に視線を向ける。
「はい、皇后陛下、神と家の名に誓いまして、嘘偽りはございません」
ディーバ先生は恭しく答える。
「わかりました。関係者にもこの報告書の写しを…」
皇后陛下がそう言うと、壇上の下で跪く関係者と思われる人物達にも資料が渡されて行って、その内容をみた人々が脂汗を流しながら、顔色を赤くしたり青くしたりしている。
この詳細を知って、オリオスたちの当人に対する怒りと、そんな不始末を仕出かした事を皇后陛下に知られてしまった事に対する畏怖なのであろう。
「次に、その事実を知った事により、ベルクード家、カルナス家、イアピース家とラビタート家、ジュノー家、トゥール家が婚約破棄に至った経緯を精査します。資料をここへ」
配下の者が皇后陛下に再び巻物を手渡し、陛下が広げて、その中身に目を通していく。
「よくもまぁ…ここまで悪辣で醜悪な事を… この書類の証人として、ロラード家のコロン、アドリー家のテレジア、法務局局長のジェイムス・ミーピラ・ホーキングの名前がありますが、嘘偽りはありませんか?」
そういって、皇后陛下はコロン、テレジア、局長さんの順で視線を移していく。
「ございません、皇后陛下、慈愛の神マリスティーヌ様とロラード家の名に誓いまして、嘘偽りはございません」
「私もございません、皇后陛下、神とアドリー家の名に誓いまして、嘘偽りはございません」
「私も、告発書をその両名から受け取り、捜査いたしましたが、真実でありました。正義と真実の神ラダビノドとホーキング家の名に誓いまして、嘘偽りは御座いません」
三人の先生に皇后陛下は頷いて応え、再び関係者にその資料が配布されて行き、また顔を赤と青に点滅させる。
「次に、コロン、マルティナ、オードリー、テレジア、ミーシャ、そしてレイチェルの六人で成し遂げた帝国に対するテロ行為の阻止、並び、アレン、カイレル、オリオス、エリシオの五人の功績略奪事件についての審議を執り行う」
再び資料が運び込まれ、皇后陛下がその資料に目を通す。
「この様な恐ろしい事態が…」
皇后陛下は顔を顰めて、巻物を置くと、ふぅとため息をついて、目を伏せる。
「本件の証言に関しては、資料の報告者であるマルティナが事件の当事者でもありますので、第三者として、真実を正当に確証できる人物を用意しました。証人をこちらへ」
皇后陛下が、ディーバ先生に視線を向けると、ディーバ先生が、懐からあるものを取り出す。そしてそのある物が何かと分かった途端、私は驚きのあまりに声が出そうになる。
リーフ!!
ディーバ先生が懐から取り出して、その掌に乗せているのは、紛れもなく、リーフの姿であった。
「では、初めに貴方の自己紹介をしてもらえるかしら?」
皇后陛下が優しくリーフに話しかける。
「はいっ! 私はステーブ家の領地に根を下ろす精霊樹の精霊リーフです。事情があって、そこにいるレイチェルと、魂を共有しておりますっ!」
リーフは事前に指示されたのか、ビシッとした態度で宣誓する。
「では、貴方から受けた報告は全て真実であるのかしら?」
「はい! 私はレイチェルの見た物、聞いたもの、そして、考えた事や気持ちを共有する事ができますっ! だから、報告したのは真実ですっ!」
リーフはビシッと宣誓した後と、こっそり私に微笑みかける。
「分かりました。ありがとう、リーフ」
皇后陛下はリーフに礼を述べると、柔らかな表情から、厳しい表情に変えて、皆に向き直る。
「皆さん、知っての通り、この帝国では、精霊の証言はもっとも信用ある証言として扱われます。故に、先程のリーフの証言を真実として取り扱います!」
皇后陛下の凛とした声が謁見室に響き渡る。
そして、先程と同様に、その資料が皆に配布されていく。
その資料にコロンや、オードリーにテレジア、ミーシャは、はっとした顔をして、感謝を噛み締めるような顔をする。
その反面、後列のカイレル、オリオス、エリシオの関係者は、完全に血の気が引いた青白い顔をして、今にも卒倒しそうな勢いである。
「判決を申し渡す前に、異議申し立てはありますか?」
皇后陛下が皆を見回す。
しかし、意外にも皆、平伏したままで誰一人として異議申し立てを言おうとはしない。
「では、これより、判決を申し渡します!!」
皇后陛下の凛とした声が響いた。
次回、最終回です。
20時ごろ投稿予定です。




