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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第381話 声の主

  音もしない、匂いもしない、温度も感じない、手足の感覚もなく、上下の方向感覚もない。ただ真っ白な空間。真っ白と感じるという事は視覚はあるのかと思えば、瞬くことも、瞳を動かす事も出来ない。


 私は前にここに来た事がある。


 あぁ…私はあの魔法陣が作動して、心臓が止まって死んだのか…


 前回、この場所に来た時は、私は生きる事に投げやりになっており、このまま死んでしまっても良い、満足して死を受け入れられると思っていた。


 だが、今は違う。


 マルティナやコロン、ミーシャにオードリー、テレジア達と胸の内を話し合える、真の友人となって、共に生き続けたいと思った。共にしわしわのお婆ちゃんになって昔話をしようと約束し合った。


 私はあの友人たち、あの世界を愛して、ずっと暮らしていきたいと思った。


 そして、私は…私は…あの人…ディーバ先生に生きて欲しかった…鎖なんかにならないでいて欲しかった…


 私はあの世界、あの世界で知り合った人たち、あの友人たち、そしてディーバ先生…


 皆の事を思うと、やりきれない切なさで胸が詰まり、感極まって涙が溢れそうになってくる。



 ポタリ…



 身体など無いはずなのに、涙が瞳からあふれる感覚がある。そして、掌に涙が落ちて濡れる感覚もだ…


 私はおもむろに感覚のある手を見てみる。


「手だ…」


 そこには確かに手があった。しかし、見慣れた手の様に思えるが、私の手ではないような気がする。これは一体誰の手なんだろう…


 私はそう思いながら、じっと手を見続ける。そこで私はあるものを発見する。小さな傷跡だ。その傷跡に私ははっと気が付く。


「これは私の手だわ! でも、レイチェルのではなく玲子としての手…」


 この傷跡は、幼いころ、母の手伝いをしようと思って包丁で切ってしまった傷跡である。


 でも、どうして今、私の前世である玲子の手になっているのだろう…


 私は…私は… 結局、あの世界の人間にはなれなかった為なのであろうか…


 そう考えると、胸が締め付けられるように悲しくなってくる。


 

「玲子…玲子…」



 そこへ不意に私の前世の名を呼ぶ声がして、私は顔を上げる。すると目の前の陽炎の中から一人の少女が姿を現す。色白に黒髪の長髪で、黄金色の瞳をした少女…


「私?… いや、レイチェル…?」


 私がそう声を出すと、私の目の前のレイチェルはにっこりと微笑む。


「初めまして、玲子。こうして会うのは初めてね」


「わ、私が玲子で…貴方がレイチェル?」


 私は躊躇いがちに尋ねる。


「えぇ、そうよ、玲子」


「では、貴方と私が今、こうしているという事は、私は死んで…しまったの…?」


 すると、レイチェルは首を横に振る。


「いいえ、違うわ、貴方は死んではいない。ここは外界から完全に遮断された魂同士が繋がる精神の空間…貴方と会話するために貴方の魂と私の魂を繋いだの」


「私と会話する為? 何の話をするの?」


「それは、玲子、貴方に感謝とお別れを言う為よ」


 目の前のレイチェルは嬉しそうな笑顔でそう述べる。


「私に感謝とお別れを言う為?」


「そうよ、その事を話す前に私の事を説明しないと行けないわね、貴方もロータルとロッテから聞いている様に私は未来眼を持っていたの…そして、私の見えた未来は、貴方の言う所のゲームのストーリー…」


 そう話すレイチェルの表情が曇り始める。


「そのストーリーの中では、どうしてもコロンたちの誰か、又は全員に不幸な結末が待っていたわ、誰も悪い人ではないのにね…どの様な選択を選んでもどうしても回避することが出来ずに、誰かが不幸になったわ…」


 ゲームの中だけなら、そういうものだからと諦めがつくだろうが、実際の人物を目の当たりにしては、そんな事も言えないと思う。


「かと言って、学園に行かない選択肢をとれば、最終イベントのテロを誰も防ぐ事が出来ずに多くの人が亡くなるの…私は打つ手が無くなったと思ったわ…だから、私は死ぬことを選んだの…」


「打つ手が無くなったからと言って、何も死ぬことなんて…」


 私がそう言うと、レイチェルは首を横に振る。


「観測者が見た未来は確定してしまうの、後からどうあがいても確定した未来へと収束していくわ、だから、確定した未来を白紙に戻す為には、観測者自身が消えなくてはならなかったのよ…だから、私は自殺したの」


「そ、そんな…そんな事って…」


 私は言葉に詰まる。


「でも、私は世界を救うために自己犠牲をしたことで、聖女の資格を得る事が出来たわ、死んだあとなのにおかしな話よね… お陰で、私はその聖女の力を使って、確定しそうな未来を変えてくれる存在を呼び出したの」


 そう言ってレイチェルは私を見る。


「もしかして、それって!?」


「そう、貴方よ…貴方は複雑な運命に絡まりながらも、前世と来世の狭間を彷徨っていたわ…だから、私はその複雑な運命に願いを掛けて玲子、貴方を呼び出したの」


 今までの出来事がカチリと音を立ててはまり込むような感覚に囚われる。


「では、私がこの世界に転生してきたのは、偶然ではなく…」


「そう、私…いや、この世界にとっての必然だったの」


 レイチェルはそう言って、私の手を取る。


「そして、貴方は見事に私の見た確定した未来を乗り越えて、新しい未来を作り出してくれたわ!! 玲子! ありがとう!! 本当にありがとう!!」


 レイチェルが顔全体に感謝の気持ちを浮かべて、感謝の言葉を述べる。


「そう…良かったわ…でも…」


 私は少し顔を伏せた。


「もしかして、ディーバ先生の事を考えているの?」


 レイチェルが私の顔を覗き込むように尋ねてくる。


「ど、どうしてそれを?」


 私は驚いて顔をあげた。


「どうしてって…それは私が貴方で、貴方が私だからよ…」


 そう言われると、自分の本心を見透かされている様で、恥ずかしくなってくる。


「玲子、貴方はディーバ先生に鎖となって消えて欲しくないのでしょ?」


 レイチェルは優しく穏やかな顔で尋ねてくる。


「うん…私はディーバ先生に消えて欲しくない…だって、何度も助けてもらったお礼もしていないし、それに…」


 それ以上は恥ずかしくて口にできなかった。


「じゃあ、決まりね、お別れを言いに来たのはその事もあったからよ」


「えっ!? どういうこと?」


 私は伏せていた顔をあげ、レイチェルを見る。


「私がディーバ先生の代わりに鎖になるのよ」


「えっ!?」


 私はあっけらかんというレイチェルに驚いて声をあげる。


「その時に聖女の力も必要だから、聖女の力は返してもらうけど、大丈夫、一度貴方自身が使った力は身体が覚えていてちゃんと使えるから、ただちょっと魔力効率が悪くなるけど…」


「でも、どうして貴方が!!」


「それは未来を変えてくれた、貴方に対するお礼よ、それに私は元々死んでいる人間だから…」


 そう言ってレイチェルは優しい目をして私の肩に手を回し、優しく抱きしめる。


「玲子…いや、これからは貴方がレイチェルね… 私の分まで幸せになって…」


 彼女はそう私の耳元で囁いた。


 その瞬間、私の意識は遠くなっていった。




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