第379話 転生の真実
「どうしてアレン皇子…貴方がここにいるの!?」
私はアレン皇子の姿に、思わず声をあげる。
「あぁ、レイチェル嬢か…やはり、君もここにいたんだな…」
そう言って、アレン皇子はマルティナから剣を引き抜き、その血糊を振り払う。その足元にはマルティナが貫かれたお腹を押さえながら、呻き声を上げている。
「マルティナ!!」
私はそのマルティナの姿に立ち上がり、マルティナの元へと駆け寄ろうとする。すると、アレン皇子の後ろから次々と人影が姿を現す。
「おい、アレン、さっさと前に行けよ、後がつかえてんだよ」
「俺たちを助け出してもらった事には恩義を感じるが、手柄の独り占めはしないでくれよ」
「さっさと終わらせて、また酒と女のいる所へふけ込もうぜ」
私はアレン皇子の後ろから次々と現れた人物達に、衝撃を受ける。
「嘘… オリオスにカイレル、エリシオまで…どうして貴方たちがここにいるのよ!!」
私の声に気が付き、三人が、ニヤニヤとした笑いを浮かべて、こちらに向き直る。
「おうおう、レイチェルじゃん、やっぱり、あの話通りにここに居たんだな」
「あっちにいるのは、オードリーにミーシャ、テレジアに、あの小さい子は誰だ?」
「なんかコロンにみえるんだけど、アイツってあんなに小さかったか?」
三人は私の質問には答えず、屋上の状況を見てへらへらと笑う。
「レイチェル、困惑してるようだから、教えてあげるよ」
アレン皇子は、私を見下す様に口を開く。
「私はそこにいるエリックの手下の者に、軟禁から漸く助け出してもらったんだ。それで、学園に戻ってきたら、仲間が全員捕まっていて驚いたよ。まぁ、すぐに皇室特権を使って釈放させたがね」
「貴方とその仲間が釈放された事は分かったわ… でも、どうしてここにいるのよ!!」
今までアレン皇子の存在があったから、オリオスたちの悪行が誰にも咎められる事がなく、自由気ままに振舞えていた事は分かった。それで、アレン皇子の復帰に伴い、学園祭での出来事も揉み消されて外に出る事を許されたのであろう。
だからといって、そのアレン皇子たちが、先程まで死闘を繰り広げていた、この時計台の屋上に来る意味がわからない。
「レイチェル、君に言っても分からないと思うが、この事はあらかじめ決められた出来事なんだよ」
「まぁ、ゲームのストーリー通りっていっても分らんと思うがな」
アレン皇子の後に続いたオリオスの言葉に衝撃を受ける。
ゲームのストーリーですって!? もしかして、私の知っている乙女ゲームの事を言っているの!?
「そのゲームのストーリーとやらでは、今日のこの時間、この場所で、ラスボスとの戦いがあるって話だったんだ。何でも帝国全体を揺るがすような事件のラスボスとの戦いが…」
カイレルがクイッと眼鏡を上げながら話す。
「まぁ、この世界にいた転生者の女から聞き出した話だけど、色々やらかして立場のヤバい俺たちにとっては、喉から手が出るほど欲しい手柄だってことだ」
エリシオがダルそうな素振りでそう語る。
「じゃあ…エリックがここに私を呼び出して、魔族の封印を解く事もゲーム通りのストーリーだったわけ… あれだけ思い出そうとしても思い出せなかったのに…」
私はアレン達の言葉に、自分たちが努力して切り開いた未来がゲーム通りの結末だった事に気が付いて衝撃を受ける。
私たちは不幸な未来から逃れられたのではなかったの!?
「ん? その言葉…もしかして、レイチェルも転生者だったのか?」
私の言葉に、アレン皇子が違和感を感じて声を上げる。
「転生者かぁ~ どうりで、ゲーム通りの動きをしないと思ったぜ!」
「こちらからアプローチを掛けても、全然かかわろうとはしなかったしな」
オリオスが私を恨めしそうに睨み、カイレルがなるほどといった素振りをする。
その陰で、マルティナがアレン皇子にバレないように、這いずって彼らから離れようとしている。
良かった…マルティナはまだ大丈夫だわ…
私はマルティナの無事を確認した処で、気を取り直してアレン皇子達に向き直る。
「それで…今更来てどうするつもりよ… 貴方方のいうラスボスは、私たちが既に倒したわよ… 貴方達の欲しがる手柄はもうないのよ…」
出来れば、ここで諦めて、回れ右をして何処かに隠れるなり、国外に逃亡するなりしてくれた方が、今は助かる。
「ん~ やはり、今の私たちには手柄が必要なんだよ」
アレン皇子が悪びれもせずに言い放つ。
「だよな、帝国を救ったっていう手柄が無ければ、俺たちは、貴族の身分を剥奪された上で、良くて軟禁か悪けりゃムショで臭い飯だ。そいつは頂けねぇ」
オリオスがアレン皇子に同意する言葉を放ち、カイレルもエリシオもそれに頷く。
「では、一体…どうするつもりなのよ…」
私は警戒しながら身構える。悪い予感がするからだ。
「そうだねぇ~ 俺たちの婚約者たちが、実は帝国の転覆を考える魔女で、時計台の屋上で、魔族召喚のサバトでもしていたって筋書きはどうだ?」
エリシオがニヤリと笑いながら私を見る。
「まぁ、妥当な筋書きだな… そんな魔女たちに俺たちは罠に嵌められて陥れられたが、サバトの情報を知り、その阻止に駆けつけたと…」
カイレルもギラリと眼鏡を光らせ私を見る。
「というわけで、悪いが私たちの為に死んでくれ、レイチェル嬢… 私たちも訳の分からない転生に巻き込まれて大変だったんだ」
そう言って、アレン皇子は剣を構える。
「だよな… 男の俺が乙女ゲームなんて分かる訳がない。とんだ不幸だよ」
エリシオがやれやれと言った感じで話す。
「おい! エリシオ! なにがとんだ不幸だよ!! お前があの時、煙草に火をつけなかったら、俺は転生されずに済んだんだぞ!! 俺はまだあの車の中で生きていたんだ!!」
オリオスがエリシオの言葉と態度に怒りの声を上げる。
「ちょっと待てよ、オリオス。それをいうなら、あんな無茶な運転をしていたアレンが悪いんだろ? 新車を買ったからっていって、イキリ過ぎなんだよ」
エリシオがオリオスの言葉に反論する。
「私もカイレルがさっさと抜かせって言うから抜かしたまでだ、まさかあそこでタンクローリーが来るとは思わないだろ。私だって最後の墓場がファミレスみたいなケチ臭い所は不幸の極みだ」
アレンも自分の責任をカイレルとタンクローリーに転嫁する。
「アレン、お前は俺が死ねといったら死ぬのか? 死なないだろ? なら、お前の責任だ」
カイレルは面倒くさそうにアレンに返す。
「ちょっと、まってよ…」
アレン皇子の話を聞いていた私は、怒りに声が震える。
「あん?」
「今、貴方たちが話していたファミレスって…東丹市のハピネスってとこ?」
私は怒りで震える身体を押さえながら尋ねる。
「なんで、お前が知ってんだよ!! もしかして、お前もそこにいたのか!?」
オリオスが私の言葉に驚きの声を上げる。
「あぁ!いたわよ!! あんたたちの無茶な運転のせいで、私は母を一人残して死ななければならなかったのよ!!!」
私は怒りに歪む顔を上げて、アレン達に怒声を放った。




