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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第377話 皆の安否

 エリックがアイツに喰われた後、私は崩れる様に膝をつく。


 魔族との戦いに勝利した事も、エリックとの因果に決着を付けた事も、何も感動もなく、ただ胸の内に空しさが広がり、私は涙を流し、その雫をぽたぽたと床に零していた。


 報われたのか…救われたのか…何かを手に入れられたのか…それが誰の事なのか…


 分からないが…そんな気持ちが心の中に渦巻き、ただ涙を流していた…


「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥ…」


 アイツが雄叫びを上げたので、おもむろに視線を向ける。一瞬、アイツの身体に光が帯びたような気がしたが、やはりいつものアイツに戻った。


 私はアイツの鎖を確認する。首に一本、右腕に一本、左腕に一本、全部で三本だ。大丈夫…大丈夫だ…アイツはまだ解放されない…しかし、あのエリックを喰ったというのに鎖が一本も千切れなかったのは意外だ…


 用事の終わったアイツはいつもの様に、鎖で私の中に引きずり戻されていく。その感覚にいつもよりも激しい悪寒と嫌悪感を感じる。


「こ、これで…終わったわ…」


 私は未だに身体全身の残る悪寒と嫌悪感に、肩で息をしながら小さく呟く。


「レイチェル!!!」


 そんな私に、マルティナの声が掛かり、私ははっと、現状を思い出す。


「みんな! みんなはどうなっているの!?」


 私は力の入らない足で無理矢理立ち上がり、よろよろとしながら、マルティナに向き直る。


「全員、まだ息はしているわ!! でも、いつ息が止まってもおかしくないの!! レイチェル!! 私ではどうにもできないわ…助けて!!」


 マルティナは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、この世の終わりの様な悲壮な声を上げる。


 私は覚束ない足で皆の所に歩み寄りながら、改めて、時計台の屋上に横たわる皆の姿を確認する。マルティナを除く全員が、散々たる有様で、その危機的な状況に誰から手を付けてよい物やら、分からずに、身体が強張って立ち竦んでしまう。


 もし、順番を間違えて治療を行い、その間に誰かが息絶えてしまったら…そう考えると、怖くて恐ろしくて、動けなくなる。


「…レ…レイチェル…」


 その時、コロンから蚊のように小さな霞むような声が掛かる。


「コロン!!」


 私は気を取り直し、コロンの側に駆け寄る。コロンの状態は、魔族との戦いで両腕が爆ぜて、上腕から下が無くなり、片足もエリックに撃ち抜かれ、太ももから下が喪失している。かなり危ない状態だ。


「レイチェル…わ、私はまだ…意識があるわ…だから、魔法でなんとか…生命維持が出来ているわ… だから…他のみんなを…先に治療してあげて… 意識がないから…生命維持が出来ていないのよ…」


 コロンは全く血の気の無い顔で、絶え絶えの声でそう語りかけてくる。


「でも…コロンも…」


 そんな息絶え絶えのコロンも後回しに出来るような状態とは思えなかった。


「レイチェル…早く…早く…お願いよ…」


 私はコロンの必死の哀願に頷くしかなかった。


「分かったわ…コロン…その代わりに絶対に死なないでね…」


 私は涙を拭い、コロンに答える。そのコロンは私の言葉に力ない笑顔で応えた。


 私は決意を固めて立ち上がり、改めて、他のみんなの状況を確かめる。


「レイチェル! オードリーは意識は戻ってないけど、目立った外傷はなくて、出血していないわ! だから、先に出血しているテレジアとミーシャをお願い!!」


 テレジアとミーシャの手当で血まみれになったマルティナが声を上げる。私はその言葉にマルティナが手当をしているテレジアとミーシャの元へ駆けつける。


 そして、二人の状態を近くで確認して改めてその悲惨な状態に顔を顰める。テレジアは腹部を魔族の爪で引き裂かれて、内臓の一部が飛び出しており、ミーシャは同じく魔族の爪で肩から脇腹にかけて引き裂かれ、傷口から心臓が弱々しく鼓動するのが見えた。


「レイチェル!! 二人ともかなり危険な状態だわ!! どちらから治療を始めたらいいの!?」


 マルティナは悲壮な顔をして私に問いかけてくる。私はマルティナのその言葉に考える。


 ここで、マルティナにどちらから始めるか選ばせて、もし、片方が間に合わなかったら、マルティナが自責の念で心に大きな傷を残してしまうわ…


 それはダメ! そんなことをマルティナには背負わせない…


 だから…私が決める…


「出血が激しくて、心臓付近に傷がある、身体の小さいミーシャから始めるわ!!」


「分かったわ!! 私はテレジアの出血を押さえているからお願い!!」


 私はミーシャの側に膝をつき、手を伸ばして治療を始める。血が溢れていて傷口を確認しづらいが、ただ身体を引き裂かれただけではなく、肋骨も何本も引き裂かれているようだ。


 私は傷口に手を入れ、切られた肋骨が他の臓器を傷つけないように細心の注意を払いながら、その肋骨の奥の臓器を確認して、他の臓器が傷つけられていない事を確認すると、折れた肋骨を繋ぎ合わせていく。


 聖女の力で、折れた肋骨はまるで磁石で引っ付くようにぴたりと再び元の形に戻っていく。そして、次は切り裂かれた身体を癒していく。ミーシャの身体は、15歳だというのに、まるで小学生高学年ぐらいの体格しかない。そんな小さく弱い身体でよく今まで耐えた者だと思う。私は慎重に傷口を塞いでいく。


 傷口が完全に塞がった所で、私は再びミーシャの身体全身に聖女の力を込めていく。身体の中に溢れかえった血を綺麗にして、元の血流の流れに戻す為だ。


 その施術が終わると、ミーシャの顔に赤みが帯び始めて、呼吸も浅くて激しい物から、深くゆっくりとしたものへと変わっていく。


「ミーシャの治療は終わったわ、次はテレジアの番よ!!」


「分かったわ!」


 マルティナはテレジアの傷口から止血をする為の手を放して、私にテレジアを譲った。


 私はテレジアのはみ出た臓器を手に取り、傷が無いかを確認していき、傷があれば力を使って治療していく。そして、はみ出した臓器を治療したところで、今度は、テレジアの身体の中を確認していく。


 傷口からの出血もあるだろうが、それ以上にテレジアの身体の中に血が溢れている。恐らく身体の中の大きな血管を損傷したのであろう。私は注意深く身体の中を観察して、傷ついて血の溢れている血管を探し出していく。


「あったわ!!」


 私はテレジアの身体の中に、心臓の鼓動に合わせて血の吹き出すところを見つけて、指先を伸ばす。すると、逆再生するように血管の傷口が塞がっていく。これで内部の出血は大丈夫だ。しかし、このまま外に出た臓器を戻してしまっては、身体の中に溜まった血が溢れだしてしまう。


 私は手を翳して、身体の中に溜まった血を元の血流へと戻していく。すると血で溢れた体内が綺麗に戻っていく。


「これで内臓を戻しても大丈夫だわ…」


 私はテレジアの臓器を持ち上げ、その身体の中に戻していく。そして、引き裂かれた傷口を聖女の力で閉じていく。


「テレジアの顔色が戻っていくわ!」


 マルティナがテレジアの顔色を見て声を上げる。


「次はオードリーね」


 私たちは少し離れた所に寝かしつけてあるオードリーの元へ駆け寄る。オードリーはテレジアやミーシャと異なり、折れた両腕を除き目立った外傷は無いが、開かれたままの目は瞳孔が開いており、浅い呼吸をしている。


「目に見えない所で、重大な損傷をしているかもしれないわね…ちょっと見ているわ…」


 私はそう言って、オードリーに手を翳して意識を集中する為に目を閉じる。


 オードリーの身体の状況が頭の中に流れ込んでくる。あまりに膨大な情報に、対処しきれず混乱しそうになるが、トゥール卿の時の治療の事を思い出し、情報を精査して確認していく。


「ここ? ここね!!」


 精査した情報の中から、オードリーの身体の損傷部分を見つけ出す。脊髄だ。恐らく、落下を防ぐ時に背中から叩きつけられて、胸椎から腰椎に掛けて、脊髄を守る背骨が折れて、中の脊髄を傷つけていたのだ。もし、この治療が出来なければ、オードリーはずっと身体を動かすことが出来なかったであろう。


 背骨を痛めたオードリーを動かす事は出来ず、私はそのままオードリーに手を翳して、力を込めて念じ始める。手で物理的に損傷個所を整えるのではなく、純粋に魔力と聖女の力を使って、損傷した背骨と中の脊髄を整えなければならない。


 私は聖女の力を更に覚醒させ、オードリーの体内を透視しながら、背骨と脊髄を修復していく。非常に細かく慎重にならざるを得ない作業だ。


 折れた骨を元に戻し、砕けた骨をくっ付ける。その上で、砕けた骨で損傷した脊髄を修復していく。


「脊髄の修復は終わったわ…後は折れた腕ね…」


 私はオードリーの折れた腕を直す為に、元の形に戻る様に腕を引っ張る。すると、オードリーは顔を顰めて、短い痛みの呻き声をあげる。脊髄の損傷が治り、痛みが伝わった証拠だ。


「ご、ごめんなさいね…オードリー、すぐに直すから…」


 私はそう言いながら、折れたオードリーの腕を撫でる様に触っていく。折れた骨が元に戻るたびにオードリーは顔を顰めるが、完全に元通りになった時には、穏やかな顔をして、深い呼吸をしていた。


「これでオードリーは大丈夫…次はコロンよ」

 

 テレジア、ミーシャ、オードリーの三人は完治できたとはいえ、コロンもかなりの重傷だ。しかも両腕と片足を失っている。予断を許さない状況だ。


 私たちはすぐにコロンの元へと駆けつける。そこでコロンの姿を見て、私は違和感を感じる。それはマルティナも同じらしく、慌てた素振りでコロンの側に膝をつき、その顔を覗き込む。


「う、嘘… 瞳孔が開いてる… それに息をしていないわ…」


 マルティナの震えた声が響いた。



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