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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第376話 エリックの最後

 私は息絶えた魔族の遺体を貪るアイツを無視して、エリックに向き直る。


「す、素晴らしい!! まさかこれ程とは… あの原初の魔族を一方的に倒してしまうとは… これこそ、私の待ち望んだ力!! もはや、悪の神!! 悪神なのではないのですか!!」


 エリックは自分が解放した原初の魔族が打倒され、アイツに捕食されているというのに、魔族の事は一欠けらの憐みもなく、元から存在しなかったもののように、ただアイツだけを褒め称える。


「アイツが神様? そんな事はあり得ないわ…」


 私はエリックを睨みつけて、吐き捨てる様に答える。


「あれだけの力を持ちながら、神ではないと言うのならば、一体、何だというんだ!!」


「どれだけ力を持っていようとも、その存在を信仰するものが居なければ、神なんて大層な存在にはなれないわ… 誰も信仰するものがいないアイツはそう… 私に纏わりつく、ただの悪霊よ…」


 そうアイツはただの悪霊…アイツの存在を有難がって奉るものなど誰もいない…


「そんな!! あれだけの力を持っているのに、神ではないと? 信仰されないから神ではないなんて…そんな言葉は信じられない!!」


「貴方が信じようが信じまいが、事実は事実よ… だって、私のこの世界の神様と出会って、お話をしたのですから…」


 私の言葉に、エリックは驚いた様に目を丸くする。


「レイチェル嬢…貴方はこの世界の神に会ったのですか… 本当に会ったのですか!!」


 今までずっと前世の神を信じてきたエリックが、私がこの世界の神様と出会った事を信じられずに疑いの声を掛けてくる。


「えぇ、だから本当にこの世界の神様… 私の出会ったのは慈悲の神マリスティーヌ様だったけど、本当にこの目の前で現れて、話をして、その手に触れて、一緒に食事や一緒のベットで睡眠もとったわ」


 エリックは私の言葉に驚き、頭が理解に及ばず、ただ唖然とする。


「マリスティーヌ様は、神様になる前はただの人間…しかも小さな女の子で孤児だったそうよ。人並外れた力を持っていたかは知らないけれど、魔力災害を収め、数多くの人々を救った功績で、死後、神の座に至ったそうよ。マリスティーヌ様は神々しくもなければ偉大な見た目でも無かった。でも、深い懐をお持ちで、包容力のある方だった… だから、私はマリスティーヌ様を神だから敬ったわけでも無ければ、信じた訳でもない。彼女の人柄に惹かれて、彼女を信じ、人としてその思想を仰いだのよ。これがこの世界の神で、これがこの世界の信仰というものなのよ」


「そ、そんな…」


 エリックは今までの価値感が私の言葉によって崩れかかっているのか、わなわなと身体を震わす。そんなエリックに私は肩越しのアイツに視線を促す。


「貴方はアイツを信じて、その思想…アイツの場合は言動かしら…兎に角、アイツを信じて仰げるの? 私には無理だわ…」


 その時、アイツからパキンッ!と何かが砕ける音が鳴り響き、その後すぐに、ジャラジャラと鎖が落ちる音が鳴る。どうやら鎖の封印が一つ解けたようだ…


 私は振り返りアイツを確認する。すると、アイツの左足の鎖を繋ぐための枷が爆ぜている。鎖の封印は首、両腕のあと三つ…大丈夫だ…あと三つあるアイツは解放されない…


 私は胸の奥で小さく安堵する。そして、再びエリックに向き直る。


「残念だったわね…エリック」


「な、何の事だ!? レイチェル嬢!!」


 エリックは放心状態から気を取り直し、私に向き直る。


「アイツはね、どういう訳か分からないけど、あの鎖によって、私の魂に繋がれて拘束されて封印されているのよ」


「なんだと!? あれだけの力を持ちながら、まだ封印状態だと!?」


 エリックは私の言葉に驚愕の表情をする。


「えぇ、そうよ、だから私を殺しても、アイツは私の魂に繋がれているから、私の転生先までしつこくついてくるから、私を殺してアイツを奪おうとしても無駄よ。それに解放するのも無理じゃないかしら?」


「一体、何故だ!!」


「だって、あれだけの大物である原初の魔族を喰らっても、鎖が一本しか解放されなかったのよ? エリック、貴方に後三体の原初の魔族を準備できるかしら?」


 私の言葉に、エリックはもう術はないと悟り、わなわなと震えながら項垂れる。



「ヴォォォォォォォォォ!!!!」



 突然、アイツが咆哮を上げる。何が起きたのかと思って振り返ると、魔族の遺体を捕食するのが終わったようであった。そして、まだ食べ足りないのか、アイツがエリックに向き直る。


「エリック、アイツが貴方をご所望みたいよ」


「なっ! なんだと!?」


 エリックは目を見開いてアイツを見る。


「しかし、本当に残念だったわね… アイツの鎖が後一本だったなら、貴方を食べた時に解放されるかも知れなかったのにね…」


「私を喰い殺すのか…」


 今から喰い殺されると言うのに、エリックは予想以上に落ち着きを払っていた。恐らく2000年に及ぶ繰り返しの人生で死ぬことに対する恐怖心が薄らいでいるのだろう…


 私自身、今からエリックがアイツに喰われようとしているのに、それを止めようと思う気持ちは一切湧かなかった。友人たちを傷つけた事もあるが、アイツに関することには、私の人間性が薄らいでいるのかもしれない。


「エリック、一つだけ言っておくわ…」


「何だ…レイチェル嬢」


「貴方はただ死ぬのではないわ、完全に存在が消失するのよ…」


「どういう事なのだ?」


 エリックはアイツから私に向き直る。


「魔族は魔法的な生命体だったから、肉体事喰われたみたいだけど、ソイツはもともと魂喰らいよ… 肉体だけを喰われるなら、魂は残って転生できるかもしれないけど、魂を喰われたら、存在の本質が消失するのよ… 貴方も見たでしょ? レベッカの姿を…」


「魂が喰われる!? 存在が消失!? 私は… 私と言う存在は… 消失して二度と転生しなくなる!?」


 そう声を上げるエリックをアイツはガシッと握り締め、エリックに息が掛かりそうな距離まで不気味な口だけしかない顔を近づける。


「えぇ…そうよ… 魂を喰われて完全に存在が消失するわ… それが貴方の行ってきた所業の結果… 貴方自身が招いた業の行きつく先よ…」


「そうか…」


 エリックは意外にも、極めて冷静で落ち着いていた…いや、穏やかな表情すら浮かべていた。


「私は、2000年もの長きの間、それまでの人生の記憶を失うことなく、生き続けてきた… 不幸で悲惨な記憶を忘れる事が出来ずにだ… そんな人生の繰り返しが、いつしか私を狂わせていたのだろう… だが、そんな人生にも終わりが来るのか…」


 そうか… エリックは記憶を保ち続けたまま繰り返す転生に疲れ果てていたのか… もしかすると、エリックは心の底の無意識で、そんな人生に終止符を打つことを願っていたのかも知れない…


「私は…神の契約だとか、あの御方の事や人類の救済を語っていたが、本当は私自身が、この呪われたような転生を繰り返す人生から救われたかったのだな…」


「その救済が魂を喰われる事だなんて、エリック…貴方はつくづく憐れだわね…」


 もうすぐ、最後の時を迎えるであろうエリックに、私はそんな言葉を掛ける。


「それは仕方ないさ…私の今までの所業のもたらした結果だ…しかし、永劫回帰の転生から抜け出せるのであれば悪くない…悪くないさ… それより、レイチェル嬢…最後の頼みごとをしてもよいか?」


 エリックは少し憂いを含んだ穏やかな顔を私に向ける。


「何よ?」


「私とレベッカの間にはユーミという娘がいる… 本国に命令された工作の為に作った娘ではあるが、私は父親らしい事を何一つとしてあの娘にしてやれなかった… ただ、保護者…いや、管理者として、生き永らえさせているだけであった… まるで、神が人類に対してそうしていたように… だが、そのユーミが先日、突然に姿を消してしまった… 出来れば、探し出して普通の娘として育ててもらえないであろうか… 誰かユーミに愛情を持って育ててくれる人に…」


 これはエリックなりの親心なのであろうか、それとも今までの罪に対する贖罪なのであろうか…


「大丈夫よ…エリック、貴方の娘のユーミちゃんは、今、オードリーの所で大事にされているわ… 大切な妹としてね…」


 私の言葉にエリックは少し驚いたように目を丸くする。


「ユーミがオードリーの所に!? しかも妹として大切にされているのか!? そうか…そうなのか… あぁ、今、分かったのかも知れない… 人類が神に愛されなかった理由が… 神はユーミにとっての私の様に、すでに人類の元から消えているのかも知れないな…更なる高みへと旅立たれたのかも知れぬ… だから、姿を現す事も声を掛ける事も、そして愛する事も出来なかったのかも知れないな…」


 アイツが口を大きく開き、エリックを呑み込もうとする。


「レイチェル嬢…ありがとう…貴方に会えて、私は救われたのだと思う…」


 その一言を最後にエリックはアイツに喰われたのであった。




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