第373話 魔族との死闘
「わ、私は一応剣を握っているが…それは人間相手を想定してものだし、剣自体も舞台での演技の為に殺陣を習った程度だ… それでこの化け物を相手にするのはかなり厳しいな…」
剣を構えて魔族に対峙するオードリーが、脂汗を流しながら不安を漏らす。
「ミーシャ!! 補助魔法のバフをオードリーに集中して!! 防御をメインに!! 早く!!」
「は、はいっ!! 分かりましたっ!!!」
コロンはすぐさまミーシャにオードリーを強化するように指示を飛ばす。その指示に従いミーシャは幾つもの魔法をオードリーに重ね掛けしていく。
「フハハハハハ!! 人間ごときがこの魔族に対抗できるとでも思っているのか!!」
そんな私たちの焦る姿を見て、エリックが嘲笑いの高笑いをあげる。
「さぁ! 原初の魔族の末裔よ! お前たちの一族を滅ぼし、お前自身を封じてきた者たちの末裔が目の前にいるぞ!! 思う存分積年を恨みを晴らしてやるがよい!!」
エリックが魔族に、今の状況を説明し私たちを攻撃するように指示をすると、魔族はそれに答える様に、天を仰ぎ、まるで地震の時の地響きのような雄叫びをあげる。
「グオォォォォォォォォォ!!!!」
「ちょっと!! なんて声なの!! 雄叫びだけでこんなに物凄いなんて… 鼓膜が破けそう!!」
両手を広げて防御魔法を展開しているテレジアが、耳を塞ぐことが出来ずに、苦痛を漏らす。
「みんな!! 雄叫びに竦んでいてはダメよ!! 攻撃が来るわ!!! オードリー!!攻撃に備えて!!」
コロンの言葉に雄叫びに顰めていた目を開くと、魔族が拳を大きく振りかぶっている。
「クッ!!」
コロンは小さく声を漏らすと、先程の様に、光弾を身の回りに幾つも浮遊させ、魔族の顔を目掛けて撃ち込む。しかし、魔族の拳は、コロンの光弾に怯むことなく振り下ろされる!!
「とぁぁぁぁっ!!」
オードリーは振り下ろされた拳に合わせて、自分も剣を振り下ろし、拳と剣で打ち合う。
ガキンッ!!
肉体である拳と打ち合わせているというのに、まるで金属音のような高い衝撃音が響き、オードリーは振り下ろした姿勢のまま、身体全体が後ろに滑る。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
オードリーも雄叫びをあげると打ち合わせている剣を横に薙ぎ払う。すると、魔族の拳は力の方向が逸らされて、拳が床に突き刺さり、土煙をあげる。
オードリーは魔族の拳を巧みにいなして受け流したのだ。だが、そのオードリーがすぐにガクっと片膝をつく。
「想像通り…いや、想像以上に猛烈な一撃だ…受け止めただけで、身体全体を叩きつけられたような衝撃が突き抜ける…」
オードリーはそう言いながらも、剣を杖代わりに立ち上がって、再度、魔族に対して剣を構える。
「ミーシャ!! もっとオードリーに補助魔法を掛けて!!!」
「はいっ!!!」
ミーシャがオードリーに両手を広げて腕を伸ばすと、オードリーの身体が点滅するように何度も光る。
「喰らいなさい!!!」
コロンも光弾を何度も出現させ、まるで嵐の大雨の様に、光弾を魔族に対して撃ち続ける。
しかし、魔族はコロンの光弾をまるで小雨でも浴びるかのように、平然と体勢を戻して、拳を振り上げる。
「グウォォォォォォォ!!!!」
魔族は雄叫びをあげながらオードリーに向かって拳を振り下ろす。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
対して、オードリーも雄叫びをあげながら拳に合わせて剣を振り下ろす。
しかし、先程と異なるのは、単発の撃ち込みではなく、魔族は両腕を交互に振り上げて、体勢を整える隙を与えないかのように、何度も何度も、柱の様な腕の一撃をオードリーに加えて来たのだ。
「ぐっ!! うぉぉぉぉ!!!」
魔族の拳がオードリーに振り下ろされるたびに、オードリーに掛かっていた補助魔法が弾けていくのが見える。その度にミーシャが必死に補助魔法を掛けなおす。コロンも魔族を怯ませようと、土砂降りの様に光弾の雨を魔族に撃ち続けるが、魔族は一向に怯もうともしない。
「ダメ…このままでは持たない… いずれ、力負けしてしまうわ…」
私はディーバ先生から頂いた緊急連絡用の指輪を握り締めて、強く念じる。
「ディーバ先生!! ディーバ先生!!! みんなが…みんなが…このままでは…!!」
しかし、指輪は停電中の電話の様に、ピクリとも反応しない。やはり、エリックが先程展開した障壁が妨害しているのだ。しかし、私はそれでも諦める事が出来ずに、指輪を握り締めて何度も何度も祈り続ける。
その時、コロンの叫び声が響く
「オードリー!!! 受けちゃダメ!!! 避けて!!!」
私はその声に顔をあげて、前を見る。すると魔族が先程とは異なる打ち下ろしの攻撃ではなく、ボクシングのアッパーカットのような下から打ち上げるような拳をオードリーに撃ち出していた。
「えっ!?」
オードリーは咄嗟の事だったので、コロンの指示に反応することが出来ずに、そのまま魔族の打ち上げを受け止めてしまう。
「あっ!」
オードリーがそう声を漏らした瞬間、オードリーの身体が宙を舞う。
「ダメ!!」
「落ちる!!」
私とマルティナが声をあげて、すぐに駆け出す。打ち上げられたオードリーはこのままだと、時計台の屋上から投げ出されて、時計台の下へと叩きつけられてしまう。
私たちは、放物線の頂点を超え、自由落下をし始めたオードリーを軌跡を追って駆け出す。
「ダメ!! 外に落ちる!!」
「間に合って!!!」
私たちは時計台の外に落下しているオードリーに腕を伸ばす。
「届いて!!!」
私とマルティナは腕を伸ばしたまま、オードリーに向かって飛び跳ねる。
ガシッ!!!
「届いた!!!」
私とマルティナの手がオードリーの足に届いたのだ。私たちはすぐに手放さないように、オードリーの足を握り締める。しかし、すぐに腕だけでは支えきれないオードリーの体重が伸し掛かる。
このままでは、私たちごと落ちる!!!
私たちは着地した足ですぐに踏ん張って、オードリーを時計台の外から引き戻そうと体重を乗せて引き戻す。
「うぁぁぁ!!!」
腕にオードリーの身体が引き戻される手応えを感じて、そのまま力任せに時計台の屋上側へと引き戻す。
ダンッ!
屋上の床に、人が落ちる音がする。私たちも渾身の力で引き戻していたので、姿勢を崩して床に倒れ込む。
「オードリー…オードリーは!?」
私とマルティナはすぐに顔を上げて、オードリーの姿を探す。
「いた!! いたわ!! 助かったわ!!!」
マルティナが声を上げ、足を縺れさせながら、すぐにオードリーに駆け寄る。私も転びながらもすぐにオードリーの元へ駆け寄る。
「あぁ…オードリー!! オードリー!! しっかりして!!!」
私が駆け寄ると、マルティナは悲壮な顔をしてオードリーに呼びかけている。見てみると、オードリーは目を見開いたまま、身体は小刻みに痙攣しており、呼吸は今すぐ止まりそうなほど浅く小さい。そして、その両腕は最後の一撃を受け止めた時に出来たのか、だらりと通常では曲がらない方向に垂れさがっている。
「オードリー!!!」
その惨状に思わす声をあげる。
「落下は防げても、このままではオードリーが…」
すると、マルティナはオードリーに人工呼吸をし始める。
「とりあえず、傷は後で直せばいいけど、呼吸は続けないと…!!」
マルティナはミハイル君の時の様に、オードリーの状態を見ながら何度も人工呼吸を続ける。
その時、コロンたちの方からミーシャの悲鳴が響く。
「コロンさん!! 逃げて!!! 逃げて下さい!!!」
私はすぐさま、コロンたちの方向に視線を向けると、魔族がコロンたちに向かって、口から黒い極太の魔法を撃ち出しており、それをコロンが両腕を広げて必死に撃ち返していた。
「わ、私の…私の… 私の大切な友人に手を…出させませんわ!!!!」
コロンは魔族の魔法に押しつぶされそうになりながらも、必死に堪えて声をあげる。
すると魔族は最後の一押しの様に、更に勢いをつけた魔法を撃ち出す。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
コロンの雄叫びと共に、閃光と衝撃波、そして轟音が響きわたる!!!
私はその閃光と轟音に、顔を覆い一時、視界と聴力を失う。
そして、閃光と轟音が収まった所で、コロンの安否を気遣い、視線をコロンへと向ける。
「コロンさん!! コロンさぁぁぁぁぁん!!!!」
すぐにミーシャの絶叫が響く!!
私はそのミーシャの絶叫にコロンが、あの魔法で撃ち抜かれたのではないかと思い、全身に強い恐れの混じった冷水を浴びたような不安感を纏わせながら、目を見開いて、土煙の中をコロンの姿を探す。
「いた!!!」
土煙の中、足を地につけて立つコロンの姿を見つける。その姿に私の胸の中に安堵の気持ちが広がっていく。
しかし、土埃が治まっていき、コロンの姿が鮮明に見え始めると、私は再び驚愕して、胸が締め付けられる。
コロンの両腕が魔法で爆ぜてしまって、失われていたのだ。




