第371話 友の救援
「み、みんな…どうしてここに!?」
みんなをエリックとの問題に巻き込んではいけないという考えていた、しかし、こうして、私の危機的な状況に、みんなが駆けつけてくれた事に、私の中で嬉しいと感じてしまう思うも確かにあった。
「エ、エマ…ちゃんが… 知らせてくれたのよ… レイチェルが… 一人で、エリックの所に…行ったって… だから…みんなに連絡して…一緒に…来たのよ」
マルティナは肩で息をしながら、途切れ途切れに答えてくれる。
「わ、私たちはレイチェルさんに不幸な人生を歩む筈の未来を変えて頂きましたっ!」
ミーシャが強い意志の表情で声をあげる。
「そうです! 私もお爺様を救って頂けなければ、今頃、あの家で一人朽ち果てていた事でしょう!」
テレジアも戦う決意をした表情で声をあげる。
「私も、父上の命を救って頂けなければ、醜い男に穢され海外へと売り飛ばされるはずだった!!」
オードリーはそう言って、スルリと腰の剣を抜き放つ。
「私だってそう… 貴方に出会う事無く、アレン皇子の事を諦めなければ… 私の事を思う家族や民に報いることなく、人知れず獣の餌になっていた所でしたわ…」
コロンはそう言って、いつもとは違う扇子を取り出して、剣のように抜き放つ。
「私は…誰も知らない、誰にも頼れない、この世界にいきなり転生したわ… でも、レイチェル、貴方がずっと、私を見守って、支えてくれたから、この世界でやって来れて、そして、いつも他人任せで甘える事しか出来なかった自分が、漸く自分の人生に前向きに歩き出せるようになった… レイチェル…貴方のお陰なのよ…」
息を整えたマルティナは、すくっと姿勢を正して、真っ直ぐ私を見つめる。
「みんな…私の為に…」
こうして私の為に駆けつけてくれた皆の事に対する嬉しさが、みんなを巻き込んでしまった辛さよりも、私の中で上回り、胸に感動が込み上げて来て、瞳が潤んでくる。
「私たちにとって、私たちの新しい未来に進むための道を指し示してくれたレイチェルは、いくら感謝してもしきれないぐらいの大切な存在!」
「恩義のあるレイチェルと共に、新しい未来を歩むことが私たちの存在意義!」
「そのレイチェルを見捨てる事は、私たちの存在意義を失う事になる!」
「だから、レイチェル、貴方の存在は、私たちの一部になっているのよ!」
「レイチェルを守る事は、自分自身を守る事なのよ! だから、レイチェル!気兼ねなく私たちを頼って!!」
五人が口々に、私を気遣う言葉を掛けてくれた。
「あ、ありがとう…み、みんな…」
本当はもっと多くの言葉を使って、皆に感謝の気持ちを述べたかったが、胸に込みあがる思いで、言葉が詰まってそれだけしか、感謝を述べる事しか出来なかった。
「さぁ! レイチェル! こちらに来て!」
コロンが私に手を差し伸べる。
「アイツの事は私たちに任せて!」
オードリーが剣を構えて、エリックに向き直る。
「レイチェル…絶対にアレを呼び出してはダメよ… アレを使ってしまってはアレが解放される恐れがある。そんなことに成れば、レイチェルもディーバ先生も、ただでは済まないのでしょ?」
自分の後ろに私を手を引きながら匿うマルティナが、私にだけに聞こえる声で話しかけてくる。
「お嬢様方…友情ごっこはもうよろしいですかな?」
エリックが不敵な笑いを浮かべながら、声を発する。
「貴方こそ、こんな場所にいていいのかしら? オリオスたちは捕まったのよ? そのオリオスたちに協力していた貴方が、こんな場所にいたら帝国の憲兵に捕まるわよ」
エリックの軽口にコロンが、冷徹な目をして答える。
「はっ! あのクソガキどもの事ですか… その辺りは足のつかないように配慮はしておりますよ、それよりも本国の指令や、私個人の目的もありますので、そちらのレイチェル嬢をこちらに引き渡してもらえませんかね?」
「貴方の本国とやらでは、友人を売り飛ばす習慣でもあるのかしら? それよりも、自分の事を心配した方がいいのではないの? 今、ここで地べたに這いつくばって許しを乞えば、命だけは助かるわよ」
コロンの挑発の言葉に、エリックは鼻で笑う。
「ふっ、生意気な口を聞くお嬢さんだ事… 小娘如きがいくら集まった所で、私に敵うとでも?」
「そちらこそ、先程本国と仰っていたようですから、帝国の高位の貴族令嬢の恐ろしさというものを分かっておられない様ですわね…」
コロンがエリックの言葉に不敵に微笑んで、扇子を広げると、コロンの周りに幾つもの光の弾が出現する。
「なっ!?」
エリックが短い声をあげた瞬間、コロンの周りに浮遊していた光弾がエリックに向けて撃ち出される。
ダッ!ダダダダダダッ!
エリックの周りに砂煙が上がった後、エリックを取り囲むよに、床に円の弾痕が出来上がっている。
「人々の上に立つものが、殺されたり、操られたり、攫われたりすると、世が乱れてしまう… だから、帝国の貴族は、そんな事をされないように、常日頃から、対物理、対魔法、対薬物など、様々な防御魔法を纏っているのよ… それを纏えない物は上位の貴族には残れないの… だから、女と雖も貴族の一族は高い魔力を保持しているのよ…」
コロンは扇子で口元を隠さずニヤリと笑う。
「テレジア! 全体防御魔法を張って頂戴! ミーシャはみんなの力を底上げするためにバフを! オードリーはその剣で物理攻撃に対処して! レイチェルを守っていて!」
コロンの言葉に、皆は頷いて答えると、すぐにコロンの指示通りに行動して、私たちの周りが光の球体に包まれ、身体が光に包まれて、力や気力が湧いてくる。
「くっ!!」
エリックはコロンたちの予想外の行動に、悔しそうに顔を歪める。
「普段は各々、防御魔法を使っているけど、こうして、団体になった時に、役割分担をすれば、普段防御魔法に使っている魔力を別の事に使えるようになるわ… こんな感じでね…」
コロンはそう言うと、再び辺りに幾つもの光弾を出現させる。
「こ、小娘が!!」
エリックが声をあげた瞬間、コロンの光弾が撃ち出される。今回の光弾は先程の脅しで地べたを打ち込むものではなく、エリック本体を目掛けて撃ち出される。
エリックは咄嗟に両腕で頭を隠すが、光弾がマシンガンの様に撃ち出されて次々とエリックに命中していき、エリックの姿が閃光で包まれた。
「どうかしら? これでただの小娘ではない事は分かったかしら?」
衣装がボロボロになって立ち尽くすエリックにコロンは声を掛ける。
「ふふっ、先程、お嬢様方を侮っていた事に関しては、素直にお詫びしましょう…」
エリックは、ボロボロになった衣装を手で払いながら、言葉を返す。
「今からでも素直に詫びて、降伏するなら、命だけは助けてあげるわ」
「…いえ、気遣いは結構ですよ… 私も本気で対処させて頂きますから…」
エリックはそう言って、懐から禍々しい像を取り出した。




