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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第369話 エリックとの対話

「神の座に至る!?」


 エリックは比喩でも暗喩でもなく、真剣にそのままの意味で言っている様な気がして、私は激しく困惑する。直接、そのままの意味と言うならば、神の座に至るとは、神になると同義である。


 人間が神に!? 確かに、マリスティーヌ様の様に人間から神になった人もいる…でも…


「レイチェル嬢! 貴方は私の人生を見て来てどうでした? 私たちの世界にいた神についてどう感じて、どう思われました!?」


 エリックは狂気に満ちた目を見開いて、私ににじり寄ってくる。


「どうって… 前世での神なんてあんなものでしょ…」


 私はエリックの狂気の瞳に少し狼狽えながら、短く答える。


「しかし、よく考えて下さい! レイチェル嬢! この世界の神は、人類に声を掛け、姿を現し、手助けの手を差し伸べる!! だが、私たちのいた前世の神はどうなのか!? 人類と神に対する信仰と、人類の救済とを引き換えに、あの御方の命を持って契約を交わしたはずだ! それなのに、何故、人類に声を掛けない!! 何故、人類の目の前に姿を露わさない!! 何故、人類を救済しないのか!! それは不義理な契約不履行とは思わないかね!?」


 エリックは神に対する不満を語りながら、その怒りを爆発させる。


「それは貴方の信じる宗教の神の振る舞いであって、私の信じていた宗教の神とは違うわ!」


「違わないさ!! それなら、レイチェル嬢! 貴方は前世で、神の声を聞いた事があるかね!? 神の姿を見たことがあるかね!? 神の救済があれば前世で死ぬ事無く、この世界に来ていないはずだ!!」


「そ、それは私の神に対する信仰心が、た、足りなかっただけかも知れないわ…」


 そうエリックに言い返す私であったが、この世界のマリスティーヌ様と遭遇した時の事を思い返せば、彼女はまだ彼女に対しての信仰心を持たない私の前に、姿を現してくれて、声を掛けてくれて、悩みを聞いてくれた。


「いや…神が直接、人類に関わってくる、この世界が稀なことで特殊なのかも知れないわ…」


「どちらにしろ、この世界の神のお陰で、神とは信じる信じないの、存在の危ぶまれる人々の幻想ではなく、その存在が実証された確実なものと分かったのだ!! 積極的に関わってくる関わって来ないは些細な事でしかない!!」


 初めから分かっていた事であるが、エリックの説得は一筋縄で上手く行く様な物ではない。それでも、彼を何とか説得するか、私や、私の知人友人、この世界に害を成す事を諦めさせねばならない。


「貴方の言い分も分かるわ、でも、前世での話、こことは違う世界での話、終わった話なのよ!? どうしてそんなに拘るのよ!! 素直にこの世界で新しい人生を満喫すればいいじゃないのよ!」


「前世での話…こことは違う世界での話…終わった話… 何故、そんな事を仰る!! レイチェル嬢!! 貴方は2000年にも及ぶ、過酷で悲惨で、辛酸をなめさせられた私の人生を追体験して、私がそんな事で怒りが収まるとでも思っているのか!!」


 私の言葉が癇に障ったのかエリックは声を荒げる。


「確かに貴方の人生は過酷で悲惨だったわ…でも、もう戻る事も関わる事も出来ない、世界を超えた昔の話なのよ!? どうする事もできないじゃないの!!」


「何を言ってるのだ、レイチェル嬢… この矮小な私たち人間の魂ですら、世界を超える事が出来たのだ… ならば、神であれば、元の世界へと干渉…いや干渉だけではなく、返り咲く事すら出来るとは思わないかね?」


 エリックは怒りを鎮めて、ニヤリと笑う。


「では、神の座に至るというのは…」


「文字通り、人間という存在から、この世界の神の様に、神の存在へと昇化することだ!!」


 エリックは自信と覚悟、そして狂気に満ちた瞳でそう宣言する。


「ほ、本当に神になるつもり? 確かにこの世界では、人間から神になった人がいるわ、でも、それは信仰を集められるほどの功績を残した人の話よ! それなのに、貴方は前の世界の神に対する恨みや怒りの為に、この世界で神になるというの!?」


「人助けをしたとか、人々から崇められる功績を残したとか、それらは人に言われたから成したのではなく、自らの意志、自らの願望で成したのだ。そんな願望と、人に不義理を働く神に対して、物申す為に神に成りたい願望と何が違うというのかね? 例えば、軍神を例にあげよう、軍神は自国の民を守る為、敵を打ち払い、人々から崇められ神の座に至った。しかし、敵国の民からすれば、子を、夫を、友を撃ち殺した怨敵にしか過ぎない! しかし、神の座に至れるのだ!! 私の願望で神の座に至れない訳がない!!」


 エリックの猛烈な言葉の勢いに、飲まれそうに成りながらも、私は対話を続ける。


「では…貴方は神の座に辿り着いて、前の世界の神の元へと赴き、どうするつもりなの? 今までの恨み事を言って、留飲を下げるつもりなの?」


 私がそう尋ねると、先程まで興奮していたエリックは突然に冷めて、悲しげな顔をする。


「もちろん、その事もするつもりだ… 素直に自分の非を認めてくれれば、争う事もないであろう。しかし、それよりも先に私には果さねばならない目的がある…」


「それは…一体、何よ?」


 私は固唾を呑んで、エリックの答えを待つ。


「それはあの神によって、天界に繋がれているあの御方を救い出す事だ…」


「あの御方を救い出す?」


 エリックの最初の人生に於いて、あの御方と呼ばれる人物の言葉や思想、その他言動の全てが、鮮明にそして鮮烈にエリックに刻み込まれ、エリックのその後の人生に大いに影響を及ぼした人物であると理解している。


 だが、何故、神の座に至って、天界へと登り、あの御方を救い出すという事になるのだ?前世の話でも、あの御方に該当する人物が天界に囚われているという話を聞いたことが無い。


「レイチェル嬢…貴方は私の江戸時代の人生の記録もご覧になられましたよね?」


「えぇ、見たわ… 島原の乱の事よね…」


 まさか、日本の歴史的事件を当事者の視点で実体験できるとは思っても見なかった。


「あの時の首謀者とされる少年…私はあの少年があの御方の生まれ変わりだと思うのです…」


「貴方の記憶の中でもそんな事を言っていたわね… でも、貴方がそう思うだけで、全くの別人かも知れないのよ?」


「そんな事はない!! 私はあの御方の側にいて、この頭に! この記憶に! この心に! この魂に!! あの御方の御姿を刻み込んでいるのだ!! その私が見紛うはずがない!!」


 先程まで、穏やかに静まっていたエリックが、私の言葉が逆鱗に触れたらしく、憤怒の形相で怒声をあげる。


「だったら、貴方の言うあの御方は、天に囚われているのではなく、ちゃんと転生してきているじゃないの!!」


「よく考えてみて下さい、レイチェル嬢… 人類、全てを愛し、その人類が救われることを望んでいたあの御方が、あの時代、あの場所、そしてたったあれだけの時間だけ転生すると思われますか? いえ! そんな事はありえない!!」


「は、話がみ、見えないわ…」


 静まり返ったり激高したりと、情緒不安定なエリックに、私はどう接するべきか困惑する。


「私は思うのです… 私の目で直接確認できたのは、あの日本の片隅での事だけでしたが、本当は、あの御方は、別の時代、別の場所でも同様に転生されていたのではないかと、そして、その都度、人類の救済を為そうとなさっていたが、日の目を見る事無く、歴史の闇に葬られて行ったのではないかと…」


「何故、そう思うの?」


 再び、エリックは、自分の考えるあの御方の志半ばで夭逝する姿を思い描いて悲壮な目をする。


「分かりませんか? レイチェル嬢…  人類と神とは、あの御方がその命を持って、人類の現在を贖い、そして、神が人類を導き救済するという新たな契約を結んだのです。つまり、あの御方はその契約にとって代償を支払った者であり、契約の当事者でもあるのです。その当事者であるあの御方が、転生して世界に生まれ落ちて、導きも救済もない、世の光景を目の当たりにしてどう思われるでしょう? これは神が契約を全く履行していないのではないかと…」


 日本人の私にとって、神に対してまで契約でお互いを拘束し、その履行まで迫るという感覚は分からない。だが、エリックにとっては、その事に対して激しい憤りを感じているのであろう。


「だから、神は契約の不履行をあの御方に悟られまいと、あの御方が世界の有様を知る前に、歴史の表舞台に出る前に、殺害して天界に引き戻しているのですよ!! ならば、神の座に辿り着いた私の為すべき事とは、あの御方を天界の牢獄からお助けして、あの不義理な神を追い出し、あの御方を真なる神の座へと奉るべきなのです!!」


 エリックの声が時計台の屋上に木霊し響き渡る。


「…それが、エリック…貴方の真の目的なのね… だとして…手段である神の座に至る方法はどうするのよ?」


 エリックの言っている目的は、私には完全に理解することは出来ないが、ある程度は同意出来る所もある。マリスティーヌ様の言葉で考えるならば、これはもう、エリックと神との業である。その業を解消するためには、確かにエリックは一度神との対話を行うべきであろう。


 その対話に関して、マリスティーヌ様が仰っていたように手助けぐらいはしても良いと考える。あくまで、私に許容できる方法であればの話であるが…


「それは… レイチェル嬢…貴方のお力をお借りせねばなりません…」


 エリックは私を直視する。


「貴方は既に、人々の悪意を凝縮させたようなお力をお持ちだ…そこへ新たな悪意を集めれば、貴方の存在はその人間の器では収まり切れず、神の器へと昇化するはずだ…」


「なっ!?」


「貴方は悪意の依り代となり、神の座に至るのですよ…そして、私を天界へと連れて行って下さい!!」


 エリックは私を見つめ、不敵に微笑んだ。




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