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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第367話 エリックの招待状

「なっ!?」


 私はテーブルの上に置かれた、一輪の黒薔薇を見て、驚きのあまり、身体が強張る。


 カイレル、オリオス、エリシオたちの攻略対象達の問題は片付き、後に残っているのはエリックだけの問題なのは分かっていた。だが、こんなすぐに、しかも、私の暮らす寄宿舎に仕掛けてくるとは思いもしなかった。


 私はゴクリと固唾を呑み込みながら、慎重にテーブルに近づいていく。


「レイチェル様、危ないのではないですか?」


 エマが心配そうに三角眉毛をハの字にして声を掛けてくる。


「大丈夫よ、触れはしないから…」


 私はエマにそう答えながら、黒薔薇に添えて置かれたメッセージカードの文字を確認しようとする。テーブルに近づく度に、カードに書かれた文字が読める。


「な、何が書いてあるのかしら…」


 私は恐る恐るカードを覗き込む。



『今宵、時計台の屋上にて貴方を待っています。共に神の座に至らんことを… 来ない場合にはご友人や大切な方々に不幸が訪れる事でしょう… 一人で来られるのをお待ちしております。 エリック』



 それは私に対する呼び出し状であった。しかも、私一人で来るようにと指示されており、来ない場合には、私の友人や大切に思う人に対するテロを匂わす言葉が記されてあった。


 私はこんなメッセージを記しながら、以前のような細工はしていないと思い、カードを拾い上げ、目の前で再び文面を確認する。


「レイチェル様っ!!」


 カードを手に取る私の姿に、エマが驚いて声をあげる。


「大丈夫よ、エマ、何の仕掛けもしていないわ」


 私はエマを安心させる為に、少し強張りながらも笑顔を作って答える。


「しかし…これは…必ず行かなければならないようね…」


 カードに視線を戻しながら、独り言の様に呟き、部屋の時計の針と、窓の外の景色を見る。


「夕方の六時ね… まだ、日が暮れていないけど、早めに行った方がいいかしら? 何か準備されていても困るし…」


「レイチェル様っ! エリックの所に向かわれるのですか? 誰かご一緒しなくてもよろしいのですか!? なんなら、私がついていきます!!」


 エリックの所へ向かおうとする私に、エマが悲壮な顔をして声を掛けてくる。


「大丈夫よ…エマ… 少し、エリックと話をしてくるだけだから、なんの心配もないわ、それより、エマはここに残って、今日はここで夕食を食べるから、その夕食の準備と、入浴の準備をしてくれないかしら? 最近は夕方になっても暑くて、すぐに汗を掻くから」


 カードに記されていた、私の友人や大切に思う人にテロを行う内容と、一人で来るように指示されていた事はエマには話す事は出来ないので、私は良心の呵責を感じながらも、エマに嘘をつく。私の中では、エマも大切な人の一人だ。危ない目に合わせるわけには行かない。


「レイチェル様…」


 エマは私の言葉に納得できないのか、安心できないのか、不安に表情を曇らせたままだ。


「エマ…」


 私はエマの側に近寄り、優しくその肩を抱きしめる。


「レイチェル様…」


 エマはそのクリクリとした大きな瞳で、私を見上げる。


「大丈夫…大丈夫だから…本当にちょっと、話をしてくるだけ… ちゃんと夕食の時間には戻ってくるわ」


 私はエマを抱きしめながら、その耳元に囁くように優しく告げる。


 そして、私はエマから身体を離して、部屋の扉へと向かう。


「では、行ってくるわね、ちゃんと夕食と入浴の準備をお願いね」


 私が振り返りながらエマに告げると、エマは不安そうに私に手を伸ばすが、私はそれを無視するように扉を潜って、エリックのいる時計台へと歩き始めた。


 今回の事は、私がエリックの目の前で、あの存在を暴走させた事により、エリックとの縁が生まれ、それがエリックと私との業になってしまった。


 私のエリックとの業の決着に、他人を巻き込む事なんてできない。これはマリスティーヌ様が仰っていたように、自分の業は誰かに解決してもらうのではなく、自分自身の手で解決しなければならないのだ。


 コロンもミーシャもオードリーもテレジアも、そしてマルティナも、それぞれ、自分の業を抱えていた。しかし、皆、最終的には自分の力で、自分の間違いに気が付き、そしてその業を乗り越えて、新たなる未来への切符を手に入れた。今度は私の番なのだ。


 ここで、みんなを呼んで、エリックにその考えの誤りを指摘してもらっても、エリック自身にはそんな言葉は届かないだろう。私の言葉をエリックに届けて、エリック自身が自分の過ちに気が付かねばならない。


 かと言って、私がエリックを説得する自信がある訳でも何か確証がある訳でもない。だが、やらねばならない。エリックと私、本来交わるはずのない二人が、偶然にもこの世界で巡り合った。エリックがこの世界に転生した理由、私がこの世界に転生した理由がそこにあるはずだ。


 もしかしたら、今まで、私に憑りつき、私の人生とその幸せをスポイルしてきた存在の理由も分かるかも知れない。


 私は自分の胸に手を当てる。


 もし、今回の件が、私のエリックの縁、そして業だけではなく、私が考える様に、この憑りつく存在も深くかかわっているのならば、私は慎重かつ確実に、この困難を乗り越えなければならない。


 何故なら、この胸に刻まれた魔法陣は、私に憑りつく存在を拘束する鎖が断ち切られ、解放された暁には、私自身の命だけではなく、私の友人、私の大切に思う人、私を大切に思ってくれる人…そして愛着を覚え始めたこの世界の滅亡に繋がるかも知れないのだ。


 そして、もう一人…


 私は指にはめられた指輪を見る。


 もし、アイツが解放されれば、この魔法陣を記したディーバ先生も、その命を鎖に変えて消えてしまう…


 頭の中にこれまでの、ディーバ先生との思い出が過っていく。


 最初は疑われた事、その後、私に理解を示してくれた事、除霊の実験に使われた事、私を助けに来てくれた事、勝手に魔法陣を刻まれた事、先生の事が信じられなくなった事、そんな私をリーフを助けるために真摯に手助けしてくれた事、その後も事あるごとに手助けしてくれた事、人生の行き先に悩む私の相談に乗ってくれた事、学園祭のイベントをフラフラになりながら手伝ってくれた事…


 思い返せば、ディーバ先生の思い出でいっぱいである。しかも、いつも頼って助けられてばかりだ。そんなディーバ先生に、私は何一つ恩返しを出来ていない事に気が付く。



 私は、ディーバ先生を絶対に鎖になんてしたくない!



 私は拳を握り締めて、もう近くまで来ていた時計台を見上げた。



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