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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第246話 マルティナとスズキ・マリコ

「マルティナお姉ちゃん! 私たちが勉強している間に帰ったらダメだからね!」


「分かってる分かっているって、だから、安心して勉強してらっしゃい」


 朝食が終わった後、マルティナの部屋に行くと、これから勉強時間になる子供たちが、マルティナの部屋にいて、マルティナに帰らないように言っている所であった。


「嘘ついたら針千本だからねっ!」


「針千本飲みたくないからいるわよ、それより勉強がんばって」


 マルティナは手を振る。


「私も用事があるからマルティナちゃん、いきなり帰ってはダメよ」


「はい、お母様!」


 オクターブ高い声でマルティナがマリアナさんにも返す。


 子供たちとマリアナさんはマルティナに手を振りながら、部屋を退出していき、部屋の外に出ると扉が閉められる。


「ふわぁ~」


 扉が閉められると同時に、マルティナはソファーの背もたれに身体をダラリと預けて、だらけ始める。


「凄いだらけようね…」


「弟・妹たちは兎に角、お母様の前ではちゃんとしてないとね…」


 マルティナは解け始めた雪人形の様にソファーに身体を預けて、天井を仰ぎ見るようにしながら答える。


「私、漸く分かったわ…」


 マルティナがポツリと漏らす。


「何がよ?」


「私の実家はレイチェルの部屋だって事を…言うでしょ? 実家のような安心感って、私の最上級の安らぎの場所はあそこなのよ」


 確かに私の部屋でのマルティナはいつもだらけていて、ソファーに座りながら、好物の駄菓子を食べながら、本を読み漁っている。


「では、本当の実家のここは何なのよ?」


「あぁ~、なんて言うか修学旅行とか林間学校に来ている感じ? 楽しいけど疲れる…」


 マルティナの言葉に、私の部屋に戻ってソファーに座る時に、マルティナが『やっぱり家が一番』と言う未来が見えてしまった。


 今、目の前や、私の部屋にいる時のマルティナのだらけように、私も思う所が無い訳ではないが、それ以上に、転生者のマルティナが本当に心許せる場所が私の側しかないと言うのも理解できる。


 やはり、生まれつきの転生者ではなく、私たちのような憑依や乗っ取りをしたような転生者は、転生者とバレる事によって居場所を失うのではないかと、常日頃から恐れているのだ。


「所でマルティナ」


「何?レイチェル」


 マルティナは足をプラプラさせながら答える。


「どうして、マリアナさんと話す時だけ、声のトーンが上がるのよ?」


「あぁ、あれ?」


 マルティナはだらりと垂らしていた頭をあげて私を見る。そして、そのあと、よっとと言う感じに身体を起こす。


「あれは、小さい頃、弟や妹が一杯産まれて、私を構ってもらう暇なんて無かったでしょ? その時に今までの話し方とは違う、声のトーンを上げて話すとお母様に気付いてもらえたから、その時から習慣になっちゃっているのよ」


 普段、見ている時はコントの様なやり取りに見えていたが、その理由は小さい頃のマルティナが必死になって自分の存在を見て貰う為のものだったなんて、結構重い物であった。


「ごめんなさい、マルティナ…私はネタか何かでやっていたと思っていたわ…」


「別にいいわよ、その後、普通に話しかけたら機嫌が悪いのとか言われて、戻せなくなったのもあるし…」


 なんだかそれも辛そうな気がする。若いうちは良いが、いつまであの声を出せるのだろうか…


「ねぇ、マルティナ…」


 私はもう一つ尋ねる事を思い出して、マルティナに声を掛ける。


「どうしたの?」


 普通の顔をして聞き返してくるマルティナに、私は尋ねるべきかどうか思い悩んで、躊躇いがちに尋ねる。


「昨日、マリアナさんに言われた事なんだけどね…」


「お母様に?」


 私はコクリと頷く。


「マルティナが、マリアナさんを恨んでいないのかって心配されていたわ… 結局、マルティナが目覚めてからもご家族の方は誰も会いにこなかったのでしょ? マルティナはどう思っているの?」


 私は言葉にしてだしてしまったが、言い終えた後で、寝た子を起こすような事をしてしまったのではないかと良心が痛み、伏目がちになる。


「あぁ~その事?」


 しかし、予想外にマルティナはサラリと言葉を返し、私は少し驚いて顔を上げる。


「その事なら、昨日一緒に寝た時に、妹が寝静まってから、本人から聞かれたわよ」


 マルティナはムスッとするのではなく、普通の顔で答える。


「どう答えたの? マルティナはどう思っているの?」


 マリアナさんに聞かれたあの時は、一応、マルティナが楽しそうな顔をしているから、大丈夫だと伝えていたが、やはり心配になる。


「ん~ 私が目覚めた時ってさ、この身体の本来のマルティナというよりは、前世でのスズキ・マリコの意識ってのが強かったのよね、それで、私は突然の事で困惑していたし、逆に私を良く知っている人に出会って、転生者とバレたらどうしようって思っていたのよね…」


 やはり、私と同様に転生者である事をバレる事を恐れていたのか…


「だから、来てもらわなくて、逆にありがたかったわね、でも、そんな事をお母様には言えないから、気にしてないって言っておいたわ」


 マルティナはそう答えるが、私は確認するため重ねて質問する。


「あの時はそうだとしても、今のその気持ちには変わりないの?」


 マルティナは私の言葉に、はっとしてから、頭を捻る様に考え始める。


 マルティナはどんな言葉を返してくるのであろうか… その言葉の内容で、本来のマルティナと転生者のスズキ・マリコの人格がいまどの様になっているのか分かるような気がする。未だ、マルティナとスズキ・マリコが別々の人格として存在するのか、スズキ・マリコの人格が大半を閉めているのか、それとも二人の人格が融合しているのか…どうなのであろう…


「やっぱり恨んではいないわね… 昨日の夜に事情も説明されたし、謝罪もされた、それにたっぷりと私との時間もとってくれた。それにね、私も昔みたいな子供でなく、大人になりつつあるんだから、お母様が身重で、あんなに小さな子供がいるのに、私一人に時間が割けない事ぐらい分かるわよ」


 私はマルティナのその言葉にほっと胸を撫でおろす。


「お父様の事に関しても、あの人はああ言うものだと、思わないといけないわね…」


 私が思っている以上にマルティナは大人だった。ただ自分の我儘を喚き散らす子供ではなかった。しかし、その言葉は本来のマルティナからくる言葉であろうか…それとも、スズキ・マリコからくる言葉なのであろうかどちらなのであろう…


「私も、レイチェルと一緒に、色々な事を体験して、人それぞれには表に出てこない、様々な思いがあるって事が分かったからね、私も成長しないとって」


 照れくささ交じりに微笑むマルティナに私は、二人が融合し、共に成長しているのだと思った。



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