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第六話 激突する赤髪……そしてスイカ

 二体になったさちよさんの10メートル程先。

 大剣を構えたアズリアが視線を飛ばす。

 その視線を受け取るより先に────さちよさんが動く。


 ぶるんぶるん。

 (す、スゴいっきゅ!)


「がっはっは!あんたならアタシの本気を出しても良さそうだねえ!それじゃ今度は70パー……いや?80パーセントくらいの実力でいかせてもらうよ!」


 別に身体が巨大化したり魔物に変貌するわけではないが、最初に突撃してきた速度がお遊びだったと思える程の速さでアズリアの周囲を回り、翻弄していくさちよ。


 ぶるんぶるん。

 (おおおおおっ!至福っキュ♡)


 70パーセントだとか、80パーセントだとか言われても百分率のないラグシア大陸出身のアズリアには何のことだか分からないが。

 拳と剣を交えている者同士の感覚だ、さちよがまだ実力を出し切っていないことだけは理解した。


 アズリアは僅かばかり思考に(ふけ)る。


 自分が痺れを切らしてどちらか一体に狙いを定め動いた途端に、もう一体のさちよさんが脅威的な速度で背後へと回り、挟撃されるのは間違いない。


 ならばどうするか?

 答えは動かずに二体まとめて攻撃すればよい。


「────解放しろ九天の雷撃!撃ち抜け雷神の槍(ガングニール)!」


 九天の雷神(ウラヌス)の魔力を纏い、「閃雷の乙女(フヘディーメルゲン)」と化したアズリアは、大きな動作とともに身体に帯びた白い雷撃を周囲へ一気に開放すると。


 ぶるるん。

 (アズリアもさちよに負けてないッキュ!)


 無数の槍のように鋭く長く伸びた白い雷撃は、アズリアをぶん殴るタイミングを虎視眈々と狙っていた二体のさちよ目掛けて正確に向かっていく。

 (ダブル)で作り出した分身が白い雷撃の槍に腹を貫通され、弾けるように消えていくが。

 さちよ本体は、本物の雷と同じ200km/s程の速度で迫る白い雷撃の槍を何とか身体をひねり、回避してみせるが。


 ぶるんぶるん。

 (スイカの共演っキュ♡たまらないっキュ♡)


「……ちいっ!この雷撃(サンダー)はあたしの魔力を感知して追尾してくる能力付きかい!がっはっは……コイツは厄介すぎるねえ!」

 

 もちろんアズリアは魔力を開放しただけ。

 魔法を行使したわけではないし、そもそもさちよが言っている「この世界の魔法」をアズリアは使えないのだ……残念だが。


 さちよが一瞬だけアズリアの立っていた位置を確認すると、そこには既にアズリアの姿はなく。

 ただ先程まで彼女か振り回していた馬鹿でかい大剣が地面に突き刺さっていた。

 

「────コッチだよ、さちよ」

 

 何とアズリアは、愛用の武器ではなく握り締めた拳を振りかぶって、いつの間にかさちよの真横へと立っていたのだ。


 ぶるるん。

 (も、もう我慢ならないっキュ!ど、どっちでもイイから……む、むしゃぶりつきたいキュ♡)


 アズリアの拳がさちよの顔面に迫る。

 だが、雷速の槍を回避することが出来る反応速度を持ったさちよは、自分の拳を同じようにアズリアの顔面へと放つ。


「がっはっは!面白い攻撃だったけど、あたしにゃ通用しないよまだまだ青いねえ?」

「はっ────上等だよ!アタシの攻撃が効かないかどうかは……コイツを喰らってからにするんだねッッ!」


 アズリアの白い魔力を纏った拳。

 さちよの赫い魔力を纏った拳。


 互いの顔面にほぼ同時に迫ってくる相手の拳撃を何とか見切り、首を少し動かして命中するギリギリのところで回避していく二人。

 拳が掠めた頬がスパッと切れ、赤い血を流す。


 だが二人は既に相手が避けることを想定しての第二撃を繰り出していた。


「……この距離、回避して動きが硬直した今なら逃がさないよ────さちよッッ!」

「がっはっは!アレを避けるたぁ見事だねあんた!だがそれは同じ条件だ……喰らえハイパーミラクルトロピカルギャラクティカ超☆さち────ぐはああああっっ⁉︎」


 至近距離から繰り出された互いの拳が、今度こそ相手の頬にめり込む。


 技の名前の途中でアズリアの拳を叩き込まれたさちよは、そのまま踏ん張りが利かずに後方へと吹き飛ばされていきバッタリと地面に倒れるが。

 避けられないと覚悟を決めたアズリアは、さちよの拳が頬に直撃した瞬間に歯を喰いしばり、何とかその場に立ってはいたものの。


「……さ、さすがだねぇ……あ、頭が揺れてるよ……な、何とか耐えたけど……は、はは……もう、無理……」


 その場で膝をガクンと折り崩れ落ちるように倒れていくアズリア。

 すると、吹き飛んで倒れていたさちよが口から血を流しながらも立ち上がり、倒れていたアズリアへと近寄っていき。

 アズリアへと手を差し伸べていく。


「がっはっは、あんたの一撃効いたよ?……アタシにこんな一撃を浴びせられるのは指折り(カウンターズ)の連中にもいないんじゃないかねえ、とにかく大した奴だあんた……名前は?」


 差し出されたさちよの手を取って、ダメージが残るものの起き上がっていくアズリア。

 その身体からは先程まで纏わせていた白い雷光はすっかり消えていた。

 

「アタシの名前はアズリアだよ、さちよ。しにしても……参ったねえ、同じ条件で拳が直撃したのにアタシは立てないんだから……負けだよ、アタシの負け!」

「がっはっは!それは仕方ないねアズリア、何しろアタシは破魔町最強の魔女だからねえ。むしろ、その最強のアタシに一撃浴びせただけでも称賛モノだよ!」

「……やれやれ、殴り負けた相手に慰められるなんてねえ……しかもアタシは全力中の全力だったんだぜ……」


「────世界は違えど、拳を交わした二人が友情の握手(シェイクハンド)で確かめ合う時空を越えた……ううう、尊い女同士の友情っキュぅぅぅ……」


 そう涙ぐむ素振りを見せながら、何故かいつの間に手を握り合うアズリアとさちよの間にいたミッキュ。

 そんなミッキュの手が、ほぼ布切れ一枚のアズリアと、黒ローブの下はこれまた布切れ一枚程度の露出度の服装だったさちよ、二人の胸を隠す布地から今にも溢れ落ちそうなボリュームの乳房を。

 揉みほぐし、あるいは撫でまわし、一言で言えば好き放題していたのだ。


「……なあ、さちよ」

「ああ、この生物(ミッキュ)はいつもこうさ。何でか知らないがこんな駄肉が好きだなんてねえ」

「まあ……確かに無駄に大きいと、戦闘じゃ邪魔になるんだよねぇ」


 もし、ほのかがこのやり取りを聞いていたら。

 血の涙を流すか。

 もしくは修羅と化してその言葉を吐いた二人を血の海に沈めてしまいそうな。

 そんな危ない会話を交わしていた二人であった。


「……最強は、いや最恐はほのかなんだっキュ」


 緑色の生物(ミッキュ)は、空に向かって。

 この場にいない自分の契約相手である貧乳女子中学生の顔を思い浮かべていた。

 アズリアに殴り勝ったさちよを恐怖で震え上がらせたこともある。

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