第四話 ほのかはスイカの夢を見る
「────というわけで、アズリアお姉さまはおっきなおっぱいが欲しいっていうわたしの尊い夢を叶えてくれたのよっ!」
「……なるほど、まさかアズリア様がそのような魔法を会得してるとは驚きでした」
目を覚ましたわたしは何故か、身体をロープでぐるぐる巻きにされて両手が使えない状態にされていたが。
わたしは構わず、アズリアお姉さまの秘術で胸が大きくなった時の優越感で、思わず親友のさきちゃんを胸ビンタしてみたり。
いつも胸を揉んでくる外来種ホルスタインのカレンに「はっ、貧乳め」と上から目線で自慢して回ったりしたことをユメリアさんと、あと二人に話していく。
「ええ……ええ、わかりますよ、わかりますともほのかちゃん……世間なんてものは皆小さな胸の女性に対しては薄情なのです」
わたしの熱意にすっかり共感してくれたユメリアさんは拳を握りしめながら、今度は自分の話を割り込ませてくる。
「……湖で泳ぐ季節が来た時の、部族の男たちの私を見る目と、胸の豊かな女性たちを見る目の違いを感じるたびに、どれだけ自分が惨めだったか……ううう」
「だよねっ……うう、わたしも水泳の時間思いだす……男なんて『貧乳は希少価値だ』なんて言いながら、結局はデカいおっぱいに目がいく連中なんだよっ!」
「ええ、その通りです!あの連中……『豊かな果実』だの『夢と希望が詰まってる』だの言いたい放題……じゃあ、まるで私の胸には夢も希望もないみたいではないですか!」
こんな黒髪でお淑やかな美人のユメリアさんでも胸のことを気にしているなんて。
ユメリアさんの部族の男たち!
見る目が無さすぎるぞ!
「……胸が小さくて何が悪いんですかっ!大きな胸なんて────もげたらよいのにっ!」
「そうだそうだっ、いいぞユメリアさんその調子!」
────と。
どんどんと沼にハマっていくほのかとユメリアの二人をジト目で見ていたエルとシェーラだったが。
二人は二人で、自分の年齢相応の胸を見たり手で撫で回したりしながら、溜め息を吐いてみたりしていた。
「まあ……確かに、胸が大きいに越したことはないわよね……」
「ですね……お父様も、何か悩み事があるたびにお母様の胸に顔を埋めてますから……はぁ」
「え?……しぇ、シェーラ?それ、今ここで喋っちゃってもいい話だったの?」
「え?……ダメ、なのですか、この話?」
シェーラの言う「お父様」とは、シルバニア王国とここホルハイム王国、二つの国を股に掛けるグレイ商会の代表でもあるランドル子爵なのだ。
エルは一度、ランドルと食事の席を一緒にしたということもあり、互いが名前と顔を覚えている程度の仲であったので。
「いや……うん、まあ……それにしても……ランドルも、大きなオッパイが好きだったのね……へえ、ふーん……」
そんな立派な肩書きを持つランドルという人物の痴態を、一人娘のシェーラちゃんの口から漏れたことで思わぬカタチで知ってしまったことで。
今度会った時にはエルが冷たい視線を送ることはほぼ確定だろう。
どうやらシェーラちゃんは天然のケがあるようだ。
ランドルさん……哀れ。
「うにゃ?……じゃあほのかは、アズリアお姉ちゃんにまたオッパイをおっきくしてもらいたいんだねっ?」
「────そうなのっ!」
ユメリアさんと意気投合していたわたしへ単刀直入に悪気もナシに聞いてくるユーノに、少しカブり気味に即答する。
そう、せっかくアズリアお姉さまのいる世界へとやって来たのだ。
ここは前向きに考えて、まずはあの胸を大きくする魔法をどうにか永続化出来ないのか、という目的……いや、これはもはや「野望」と呼ぶにふさわしい欲望。
「……あの。ほのかちゃんに伺いたいのですが……本当にアズリア様はそのような効果の魔法を使いになったのですか?」
「……そうね。ねえほのか?言っておくけど、あたしたちの世界にも本来なら『胸を大きくする』なんて魔法は……存在しないのよ」
ユメリアの疑問。
それをエルが説明してくれた。
だが、現にわたしはこの身で一度、あの奇跡の体験を、そして至福の時間を味わっているのだ。
同じくらいだと思ってたのに最近少しずつ胸のサイズが育ってきてるのを隠していた(←注:ほのかの被害妄想です)さきちゃんの頬を、メロン以上に立派になったスイカおっぱいでばるんばるん☆とビンタしてやった時の優越感。
同級生とは思えないほどのメロンを二つぶら下げて事あるごとに自慢していた(←続注:ほのかの被害妄想です)カレンの胸を指差し、鼻で笑ってやったときの……あの万能感。
……だったからこそ。
アズリアお姉さまが元の世界に帰還してしまったことで魔法の効果が切れて、元のサイズに戻った時の絶望感でわたしは血の涙を流しながら、近くにいたカレンのおっぱいを揉んでいたほどだ。
「ということは、アズリアお姉さまはこの世界でも『規格外』だってことだね」
そう。
アズリアお姉さまに限らず、意外と何処にでも「規格外」な存在は転がっていたりする。
わたしの家にもその「規格外」と呼ばれている巨乳魔女が、食っちゃ寝食っちゃ寝して転がり込んできているのだから。
「そ、それでは?……アズリアお姉様にお願いしたら、私たちもお母様のように豊かな胸になれるのでしょうか……?」
「なれるっ!わたしが保証するよっシェーラちゃんっ!」
「……は、はは、はいっ!」
少し天然が入っているシェーラちゃんだけど。
外見だけで見れば、ふわふわとした髪質にフランス人形みたいな可愛い顔立ち。
これで胸が大きかったら……それは間違いなく完璧お嬢様だ。
わたしは大きなおっぱいに興味を持ってくれた同志へと片目をつむりながら親指を立ててみせる。
そして、辺りを見渡してみるが。
「それで、アズリアお姉さまは?」
『……………………………………』
気が付くとアズリアお姉さまの姿が見えない。
その事にユメリアさんもシェーラちゃんもエルもようやく気がついて、お姉さまを探し始めるが。
「お姉ちゃんなら、さっきボクたちが空にふっ飛ばした緑の生き物追ってでていったよ?」
「……へ?────あ!」
そうだった。
一時の気の迷いで、わたしは致命的な失言をしたミッキュへ思わず全力で魔法を放ってしまったのだった。
まあ、殺しても死ぬようなヤツではないが。
見知らぬ世界に捨てていくと、わたしはともかくユメリアさんやシェーラちゃんたち、何よりアズリアお姉さまに多大なる迷惑をかける事になってしまう。
ミッキュを回収しようと、寝かされていた部屋から出ていこうと勢いよくドアを開けて飛び出していこうとしたわたしの襟首が掴まれた。
「ぐ……ぐえええええっっ⁉︎」
「がっはっは、まったく何をそんなに慌ててるのかねぇあんたは。いつぞやも忠告しただろ、魔法を使うには杖とあの生き物の両方が必要だって」
そう、顔が青くなるほどに強くわたしの襟首を掴んでいたのは。
破魔町からこの世界までわたしをふっ飛ばした張本人であり、規格外の魔女さちよさんだった。