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第三話 貧乳は貧乳を知る

「────み、ミッキュうううッッ⁉︎」


 窓の外から空の彼方へと消えていったミッキュを心配してくれたのか、アズリアお姉さまが建物の外へと飛び出していく。

 どう見てもアズリアお姉さまを慕っていた四人の女の子らも、お姉さまを追って部屋を出ていくものと思っていたが。


 その四人の視線が今度はわたしに向けられる。


 何処かの上流階級のお嬢様を思わせる見た目のちんまい女の子と。

 破魔町にも日曜に開かれている教会のシスターが着ている服装と被り物をした、これまたわたしよりちんまい女の子が。


「「……あなた、アズリア(お姉様)の何なの(ですか)っ?」」


 と、睨みを効かせた顔で迫ってきたので。


 わたしは正直に自分の名前や、自分がこの世界の出身ではなく日本の破魔町から来てしまった事。

 先程星になったミッキュというゲスコットによって魔法が使える魔法少女になった事や。

 アズリアお姉さまとは、わたしが召喚魔法の手違いで自分の世界に呼び出してしまい知り合った事を、四人の女の子へと説明していく。

 ……まあ、にわかには信じてもらえない話だが。


「私はまだ信じられませんが……」「でも、アズリアだよ?」「お姉様ならあるいは」「……うにゃ、おなかすいたー」


 それが証拠に、わたしの話を聞いた四人は円陣を組みながら、何かブツブツと話し合ってる様子だったが。

 四人の中でも一番歳上に見える、落ち着いた雰囲気のあるストレートロングの黒髪をした美人な女の人が、わたしへと尋ねてくる。


「一つお聞きします。何故……違う世界のアズリア様を召喚されようとしたのか、よろしければ聞かせてもらえませんか?」

「(ボソリ)…………むねを……おっきくしてもらいたくて……」

「胸を……何ですか?よく、聞き取れなかったのですが……?」


 待って待って。

 確かにこの世界からしたらわたしは不審者なのかもしれない。

 でも、だからっていきなり歳が変わらない女の子四人に尋問じみたことをされるのは納得いかない。

 しかも、わたしがアズリアお姉さまを呼び出した理由……それはプライベートなことで、しかもあまり人に言いたくはない事なのに。


 だからわたしは。


「胸っ!おっぱいを大きくしてもらいたかったのよっ!……悪いんですかっ?おっぱいが小さいのがそんなにっ?」

「えっ?ええっ?……あ、あの、おっぱい?」


 そんな苛立った気持ちを抑え切れずに、わたしは思わず怒鳴りつけるように吐き出してしまった。

 いきなりの態度の豹変に困惑する黒髪の女性だったが、もうここまで吐き出してしまったのだ。

 わたしは止まらない。


「ねえお姉さん!自分の同級生に胸に視線向けられるたび笑われるわたしの気持ちわかります?マイクロ単位で成長してるなんて慰めの言葉かけられるわたしの気持ちわかります?……わかりますかあ?────あ?」

「……ちょ、ちょっと落ち着いて下さい、何も私は……ってマイクロって何?何で私が責められてるんでしょうか?」

 

 さらに哀しい実体験を交えた告白は続く。


「……挙句の果てにミッキュには毎日のように崖だの大草原だの、洗濯板だのミス・タイラーだの言われ続けて……おのれミッキュ、もう少し魔力を強めに放っておきゃよかった……ふ、ふっふっふ」


 日常でミッキュの罵詈雑言や居候(いそうろう)のさちよさんの巨乳、そして外来種メロンを兼ね備えた同級生のカレンといった、ストレスに絶えず晒され続けてきたわたしの心のなかの暗黒面(コンプレックス)

 その黒い感情に埋め尽くされる直前に、わたしはハッ?と我に返る。


 わたしの手を掴んで握り、まじまじとこちらに熱っぽい視線を送る黒髪の女性の態度の変化に気付いて。


「……わかります。ええ、わかりますわ異世界から来たあなた……豊かな胸は確かに欲しいですよね、その気持ち痛い程わかります」


 わたしは最初同情の言葉かと思ったのだが。


 その黒髪の女性の胸に視線を向けると、その胸の膨らみはわたしと同じくらいか、ほんの僅か大きな程度であった。

 きっと、このまだ名前を知らない黒髪のお姉さんも自分の胸の大きさに悩んできたのだと、その言葉の熱の入り様から伝わってきた。

 

「────お姉さん」

「ユメリア、ですわ。ほのかちゃん」


 黒髪の女性は自分の名前を明かしてくれた。


 アズリアを取り合う相手から。

 同じ貧乳という(コンプレックス)を抱えた「同志」へと変わった瞬間。

 その両脇から伸びてきたのは、ユメリアとは違う二つの手。


「その……さっきは、話も聞かずにキツく当たってその、わ、悪かったわねっ?」

「ほのかさん、私たちはアズリアお姉様を慕うあまり、『また妹増やしてきて、お姉様の人たらし……』と思わず敵意を向けてしまいました、ごめんなさい」


 それは、先程迫ってきたわたしより歳下でまだ小学生の高学年くらいの女の子二人だった。

 ちなみに、もちろん二人とも胸はわたしよりも小さい、よかった。


 わたしだって運命に抗うつもりで、毎晩寝る前にネットで拾ってきた豊乳マッサージを半年の間続けているのだ。 

 その効果もあるに違いない。

 いや、絶対ある。

 その……多分……うん、少しは。

 

「あたしはエル。この世界での大地の神様イスマリアを信じる修道女(シスター)をしているわ……その、よろしくねほのか」

「私はグレイ商会長ランドルの娘、シェーラと申しますわ。どうかよろしくお願いしますね、ほのかさん」

「うんうん、やっぱボクもだけど……みんなアズリアお姉ちゃんのことが好きなんだもんねっ」


 すると、ユメリアさんやエルちゃん、シェーラちゃんの背後で一人仁王立ちしていたのは。 

 頭から猫のような耳を立てた、ジャングルで飛び回っていそうな感じの女の子だった。

 ちなみにこの娘も、わたしより胸は小さい。

 しかもボクっ娘とは、中々にあざとい。


 ……ん?

 頭から生えてるのって、ホンモノ?

 ど、どど、どうしよう、異世界に来ちゃったけどまさか……アニメや漫画で見たことのある本物のネコ耳ケモノっ娘がわたしの目の前にいるよっっ?


「…………はぁ、はぁ、はぁ、ね、ネコミミぃ♡」

「う、うにゃあ?ちょ、ちょっとほのか、ボクを見る目がその、とぉぉってもこわいんだけど……」

「大丈夫大丈夫っ、優しくするから……はぁ、はぁ……」


 破魔町でも見たことのないケモ耳娘にすっかり興奮しテンションが上がってしまったわたしは。

 ケモ耳っ娘の頭から生えていたネコ耳を触りたい一心で鼻息を荒げながら、指をワキワキと動かしながらジリジリと近寄っていく。


『落ち着け(きなさい)、ほのか(さん)(ちゃん)っ』

「……はぐうっ?」


 そんな我を忘れたわたしの頭や首筋に、三人の手が容赦なく降り注ぐ。


「うううう……ほのかの目が怖かったよおぉ」

「もう、ほのかったら何してるのよっ?……あーあ、ユーノがこんなに怯えちゃってるじゃないっ」

「……ご、ごめんなさいぃ……きゅぅぅぅ……」


 もしこの場にミッキュがいたら、きっとほのかへ向けてこう声を掛けていただろう。


『言っておくけど……ほのかだって相当なゲスっキュよ?』

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