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第八話 泣かれたら助けなきゃ女が廃る

 モネはアタシの真剣な眼差(まなざ)しを感じ取ってくれたからか、重い口を開いてくれた。


「じ、実は……っ」


 要約すると、モネの話はこうだ。


 人を呪う事を生業(なりわい)にしている「魔女」とやらに、モネの母親は呪いをかけられてしまったらしく。

 このままでは母親は、後数日で生命を落としてしまうらしく。今も呪いに苦しんでいるという。

 魔女の呪いを解くためには、村から見える一番高い山の頂に生える幻の薬草が必要だという(うわさ)を耳にしたモネは。

 母親を助けるために、村から見えた一番高い山。つまり今、アタシがいる先にそびえ立つ高山を目指していた最中だったのだと。


「なるほど、ねぇ……そんな理由(ワケ)があったのかい」

「うっうっうぅ……健気(けなげ)すぎるっキュ! ほのかにもこの健気(けなげ)さの欠片(かけら)でもあれば、胸が大きくなるっキュ!」


 アタシの肩にちゃっかり乗っかって、モネの話を一緒に聞いていたミッキュは。モネの抱える事情を知って、まるで湧き水のように目から涙を流しながら。

 こちらとは異なる、向こう側の世界にいるミッキュの本当の飼い主であるほのかに悪態(あくたい)()く。

 ……聞かれたら、間違いなくボコボコに殴られるであろう、ほのかが一番気にしている胸の大きさについて。


 (まあ……向こう側に帰れないミッキュなりに、ほのかに会えない寂しさの裏返しなんだろうけど……ねぇ)


 そもそも、アタシを「魔法少女」なんぞに変身させたのは、ミッキュの(たわむ)れでも気紛(きまぐ)れでもなく。

 ほのかのいる世界に戻るために必要だ、と聞いたから我慢して、こんなお姫様のような服装をしているに過ぎない。


 (で……で、なかったら。誰がアタシに似合わない、こんな恥ずかしい格好なんてするモンかいっ!)


「で。モネはどうして欲しいっキュ?」

「お、お願いですっ……凄い魔法使いのお姉さんっ! お母さんを助けて下さいっっ!」


 モネの小さな一〇本の指が、アタシの右手をギュッと掴む。先程まで泣いていた少女は、涙を浮かべてはいたものの。「母親を助けたい」という意志を秘めた目線をアタシへと向けてきたのだ。


「……お……お願い……しま、す……っ」


 アタシの手を握る、モネの両手が震えているのが分かる。ここでアタシに断られたら、一人で険しい山に向かわねばならない。

 道のりが険しいだけならまだいい。だが道中には、様々な山を()()にする魔獣らが待ち構えているだろう。

 

 モネの手を振り払い、子供の真摯(しんし)な訴えを退(しりぞ)けられるほど、アタシは冷酷非情な人間ではなかった。


「そこまで聞いておいて、助けないワケにゃ……いかないじゃないか」

「そ、それじゃ?」


 アタシの言葉に、モネの両の眼に期待の光が宿る。

 

「ああ、モネ。アンタの母親、助けてやるよッ」

「あ……あ、ああっ……っっ」


 助ける、とアタシがはっきりと口にした瞬間。つい先程までアタシの手をギュッと握っていたモネの両手から、ふっ……と力が抜け。

 途端に、モネの両目から大粒の涙が次々に溢れ落ちる。


「ありがとうございます! ありがとうございますお姉さんっ! 本当に……本当にっ……ありがとうございます!」

「待て待て待て、礼を言うのは母親が助かってからにしろよ、モネ」


 アタシに対し、地べたに(ひたい)を付ける程の勢いで頭を下げ、何度も感謝の言葉を口にしていくモネに。

 まだ何もしていないのに感謝される(いわ)れはない、と。頭を下げるモネを起こそうとすると。


 アタシの肩にいたミッキュがニヤニヤと笑みを浮かべながら、こちらをジッと見てくる。


「な……なんだい、そのいやらしい笑みは、よ」

「いやあ、さすがはミッキュが見込んだ魔法少女……と思っただけだっキュ」


 ミッキュの視線に、アタシは心を透かして覗かれている気がしたのか。肩にいたミッキュの頭に拳を降らせてやった。

 

「……うるせぇ」

「へぶし⁉︎」


 一度アタシの拳でぺちゃんこに潰れたが、瞬時に元の姿に戻るミッキュ。妖精、と本人は言っているが、本当は何の生き物なのか。今度ほのかやさちよさんに会う機会があれば、ミッキュとは何なのかを訊ねてみよう。


「で、アズリア。これから、この子(モネ)を連れてあの山を登るのかっキュ?」

「……うーん、それなんだけどねぇ……」


 確かに、先程の話からして。母親を魔女の呪いから助けるために必要な花は、この辺りで最も高い山に生えていると聞いた。

 残念ながらアタシは、あまり草花の知識が(とぼ)しく。モネを同行させないとどの植物が、モネの言う「幻の薬草」なのか判別出来ない。

 だから薬草の採取のためには、モネを同行させる必要があったのだが。


「これから山に行ったら、日が暮れて真っ暗になるっキュ……それじゃモネがかわいそうっキュよ」

「ミッキュ……アンタ、そういう心遣(こころづか)いが出来る生き物だったんだねぇ」


 一瞬だけアタシはミッキュに感心したが。


「蛮族丸出しのアズリアなら、たとえ山の中に裸で放り出しても生きていけるかも、っキュが」

「ほほぅ……言うようになったじゃないか、ミッキュ」


 前言撤回。

 この妖精をほのかに引き渡す時、こちらで吐いたほのかの悪態(あくたい)を。残らずほのかに教えてやる、とアタシは心の中で決断した。

 ……それはそれとして。


「それに、山には行かないよ」


 アタシはもう一つ、モネの母親を助けるための良策を思い付いていたのだ。

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