第六話 謎の少女が現れた! どうする?
「……あ、あのっ、ご……ごめんなさい……っ」
そこには、まるで農作業の後のような格好をした幼い女の子が。ペタンと腰を抜かし、顔面蒼白なままこちらをジッと見て、涙を浮かべていた。
「お、おいッ、ここはあぶな──」
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっ……」
アタシが一言声を掛けようと、足を踏み出すと。
女の子は地面に尻を突きながら、何とかアタシから遠ざかろうと必死にもがいていた。
「まあ……そうだろうねぇ」
無理もない。そりゃ今アタシが使おうとしていた「堕ちる流星群」こそ、まだ未発動だが。
腰を抜かしている、ということは。多分とんでもない威力となった「火炎球」を見られてしまっていたのだろう。
アタシは横で口をパクパクさせていた人騒がせな妖精・ミッキュのほうを向き。
ギロリ、と睨みを効かせながら。
「こんな場所に、女の子だってえ──おい、ミッキュ?」
「んー? あれあれ……おっかしいっキュね?」
すると、アタシからしっかり目をそらし。口笛なんぞ吹きながら、ワザとらしい受け答えを返してきやがった。
魔法の範囲内に女の子がいた、ということは。ミッキュの言っていた「人払い」など、最初からなかったという話になる。
「む……ぎゅううううう」
アタシは高ぶる感情のまま、ミッキュの顔が潰れるのも構わず鷲掴みにし。無理やりこちらを向かせながら。
睨みを効かせたまま、アタシはグイと顔を寄せて。
「人が近づかないようにしてくれるってのはウソだったのかいッ!」
「い、いやいやっ、アズリア、それは誤解っ……ホントに誤解っキュ! 人払いはホントに発動させたっキュよおおおお!」
アタシがミッキュを握る指に力が入る。
このままだと握り潰される危機に瀕したミッキュは、緑色の全身から脂汗をびっしりと浮かべ。アタシの手の中で必死にもがきながらの弁明を始める。
「じゃあ、何であの娘がッ?」
「そ、そんなのミッキュは知らないっキュウウウウ⁉︎」
どうやら、切羽詰まったミッキュの表情や態度を見るに、嘘を吐いていないのを確信するアタシだったが。
「なら……さっきの怪しい反応は何だったんだい?」
「あ、う? そ、それはっ──」
そもそも誤解するような態度を見せたのはミッキュなのだ。ならば、先程の後ろめたい仕草は一体何を隠してるというのか。
アタシはさらに追及していこうとしたのだが。
「……あ、あのっ」
弱々しい声ではあったが、先程の女の子がまだ地面に尻を突いたまま、片手を挙手しながらアタシとミッキュの会話に割り込んできたのだ。
「……何だい?」「なんだっキュウ!」
「──ひ、ひいィィィィィィっ⁉︎」
声に反応したアタシとミッキュが揃って女の子へと振り向いた途端。
女の子は悲鳴をあげて、地面に座った体勢のままで手足をバタバタと虫のように動かし。恐るべき速さで尻を引きずりながら後ろへと退がっていった。
「ごめんなさい! ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっごめ……えっ?」
しかも、後ろを確認しないで退がったからか。やがて女の子は岩山に行く手を阻まれ、そこから一歩も動けなくなってしまう。
途端に顔を真っ青にした女の子だったが。
アタシとミッキュは、互いに女の子に怖がられた原因が相手側にある、と責任を。まさに今、なすりつけ合っていた最中だった。
「アズリアが驚かしたから女の子が逃げたっキュ」
「待て待て待て。アタシゃただ声をかけただけだってえの」
「女心がわかってないっキュね。アズリアは自分のおっぱいの破壊力を全くもって過小評価しすぎだっキュ!」
「そんなモンかねぇ……これが、かい?」
アタシは、自分の胸にぶら下がる二つの膨らみの下に両腕を差し込み。腕を持ち上げ、乳房をぶるんぶるんと揺らしてみせる。
「ふ、ふおおおおおお! メロンっキュ! 二つのメロンが揺れてるっキュ♡」
すると、ミッキュの目線が面白いくらいアタシの乳房から離れなくなり。胸を上下に揺らすと、ミッキュの大きく見開いた目も上下にぐりんぐりんと動き。
興奮からか、鼻からはぽたぽたと血を垂らすミッキュ。
「ほ、ほのかじゃ絶対に……い、いや、アズリアほどのおっぱいは、他の誰にも真似出来ないスゴイ威力だっキュ! メロン級? いや、スイカ級だっキュううううう!」
アタシの胸に興奮が止まらないミッキュは、突如として絶叫しながらこちらへと飛び跳ねてくると。
胸と胸の合間にスポッとはさまってしまい。
それだけではなく。
ミッキュの身体から伸びた手が、実にいやらしい手つきでアタシの乳房を揉みしだいていた。
ミッキュのいた「地球」の話は、以前やってきたほのかから色々と聞いたことがあるが。
アタシの暮らすこの世界は、ほのかやミッキュのいる世界とは違い。水浴びの最中に裸を見られたくらいで騒ぐことはない程度には、性に寛容なのだが。
「おい」
「キュ?」
それでもさすがに。ここまで露骨に乳房をいやらしい手つきで揉まれるのには、アタシもドン引きしてしまい。
ドスを利かせた声で胸の合間に挟まっていたミッキュを、隙間から引きずり出す。
さすがにギロリ、とアタシに睨まれたミッキュは観念したのか。
一度、咳払いをしたのち。
「えー……こほん、アズリア。そんなおっきなオッパイぶら下げて振り向いたら、ほのかなんかは絶望のあまり叫ぶどころか失神するっキュよ」
「いやいやいや。よく真顔でそんなコト言えるとはねぇ、ミッキュ……逆に尊敬するよ」
一気に感情が冷めてしまったアタシは、頭も冷えて冷静になったことで。岩山を背中にした女の子へと、あらためて声を掛けた。
「なあ、こんな場所に……どうしていたんだい?」
アタシは最初から疑問に思っていた。
ミッキュの人払いが本当かどうかはともかく、魔法を試し撃ちしようとしていた、この場所は。街から相当に距離を空けた、周囲には畑などがない場所を選んだつもりだ。
つまりは、こんな場所を訪れる用事などあり得るわけがなかったのだ。しかも、年端もいかない女の子が、である。




