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第五話 魔法って、き、気持ちイイっっ……

 アタシは両手の中でごうごうと燃えていた火炎球(ファイアボール)を、何となしに目に映った岩山へとブッ放した。

 まあ、激しく爆発こそするだろうが。火炎球(ファイアボール)程度の威力なら、少々辺りが焼け焦げるくらいで済む──。


 チュ──ドオオオオオォォォォオンンン‼︎‼︎


「は? え?」

「きゅ……キュゥぅう⁉︎」


 岩山に着弾した紅蓮の炎は、目が(くら)むほどの閃光とともに、岩山を巻き込む大爆発を巻き起こした。

 意図していなかった大爆発に、唖然(あぜん)とするアタシと。大きく口を開けたまま動きを止めたミッキュには。

 耳が駄目になる程の轟音に衝撃波、続いて(ほお)をジリジリと焼く熱風が襲い掛かった。


「な、な、な……何したっキュ、アズリア……っ」

「い、いや、アタシゃ……攻撃魔法を使ってみただけなんだけど……ッ?」

「その、攻撃魔法は、あんな威力のっキュか?」


 恐る恐るミッキュが、爆炎と黒煙が散っていった火炎球(ファイアボール)のおよそ着弾点を指し示すと。

 

「げぇ……ッ? な、なんじゃ、こりゃああああ⁉︎」


 そこには、焼け焦げたなどと呼ぶには生ぬるい、火炎球(ファイアボール)の爆発の範囲の岩山と地面が漆黒に染まり。

 岩山は(いびつ)にえぐれ、地面は陥没していた。

 間違っても、火属性の中級魔法(エキスパート)程度の攻撃魔法である「火炎球(ファイアボール)」ではこんな威力は発揮出来ない。アタシが断言する。


「アズリア……恐ろしい女だっキュゥ……さ、さすがは、魔法少女でもないのに、あの最強魔女・さちよと互角に張り合っただけはあるっキュ……」


 ミッキュの世界──確か「チキュウ」だったっけ、で最強の魔女と呼ばれるのが、今名前を出した、さちよさん(・・・・・)だ。


「よせやい。あの勝負は完全にアタシの負けさあ」


 右眼の魔術文(ルーン)字を最大限に発動させ、アタシは大剣を使っていたのに、あちら(さちよさん)は素手。

 にもかかわらず、勝負は互角……いや、さちよさん優勢だった。これで「引き分けた」と名乗る程、アタシは恥知らずではない。


 に、してもだ。


「ふうぅぅ……気持ち、イイねぇ──ッ」


 アタシは、初めて魔法を放ったことに妙な気持ち良さを感じていた。

 精神的……というわけではなく、実際に魔力を放出した際に身体中を駆け巡った快感(エクスタシー)に。

 比喩(ひゆ)ではなく身体が震え、高揚する胸をキュッと自分の腕で抱きながら。

 (なまめ)かしい吐息を口から漏らしていた。


「お、おおおおお! あ、アズリアっ……その仕草や表情、ものすごくエッチだっキュゥゥッ!」


 やたらミッキュがアタシの周囲を動き回りながら、手にした「すまほ」とやらを掲げていたのが少しばかり気にはなったが。

 今はそれ(ミッキュ)、どころではない。

 (たかぶ)る胸の鼓動(こどう)を抑えるのに精一杯だった。


「はぁ……ん。魔法を使う、ッてのは、こんなにも気持ちがイイもんだったなんて……初めて知ったよぉ……ッ」


 快感(コレ)が果たして魔法を使ったことが要因なのか。確かめるのは簡単だ、もう一度魔法を使ってみればよいのだから。

 幸運にも、アタシの頭には様々な魔法とその術式、詠唱が知識として詰め込まれていたし。魔法を発動するための魔力には事欠かない。

 そして今。魔法少女になったことで、魔法を使うための全ての欠片(ピース)が揃ったのだ。アタシの手の内に。


「さあ……てッ、次はどの魔法を使っちまおうかねぇッ!」


 思えば、この辺り一帯にはミッキュが人払いをしてくれている、とさっき言っていた。

 ならば、アタシがやるべきことはただ一つ。


「よっしゃあッ! コレに決めたよ!」


 アタシが発動に選んだのは、頭に浮かんだ最上位の難易度と威力を誇る超級魔法(ハイエンシェント)の中でも、最もド派手な魔法──「堕ちる流星群(ネブラフォール)」。


 簡単に言えば。遥か空高くに、巨大な岩石塊を数十個ほど召喚し。単純に地面に向けて落下させる、というだけの効果なのだが。

 上空から降ってくる岩塊は、落下する最中に空気と擦れて火を放ち。落下地点に岩塊の衝突そのものの威力だけでなく、その周囲を広範囲で火の海に変える。

 アタシだけでなく、魔術師と冠する者ならば一度は使ってみたい魔法でもある「堕ちる流星群(ネブラフォール)」を。

 口から、詠唱の言葉を紡ごうとした、まさにその時だった。


「あ、アズリアっ、ストップ! ストップだっキュ!」


 突然、アタシの視界にミッキュが慌てて入ってきたからだ。

 魔法の効果範囲内にいては、さしものミッキュとて危険だ。アタシはミッキュにすぐに効果範囲内から出るよう警告しようとするが。


「なんだいミッキュ、イイとこだったのにさ」

「だ、誰か人間がこの近くにいるっキュぅぅぅっ!」

「──な、何だってえ⁉︎」

 

 一足早くミッキュが告げる警告に、アタシは息を飲んで「堕ちる流星群(ネブラフォール)」の詠唱を停止し。

 ジッと目を凝らしながら、周囲をくまなく見渡していく。


「ど、どこだ? どこにいるんだい、その人間とやらはッ?」

 

 アタシは忘れてはいない。

 今の自分が、ミッキュの手によって一国のお姫様よりもフリフリで(きら)びやかな礼装服(ドレス)を着ている、という事実を。

 こんな姿を、アタシをよく知る人間に見られでもしたら、これから先どんな風評が広がるか……想像もしたくない。

 

 特に、街にいるシェーラやエルなどに見られた日にゃ、一体何を言われることやら。


 シェーラだったら。

 きっと「お姉さまあ〜!」と悲鳴をあげながら、この格好のアタシに抱きついてくるだろう。

 (そう考えると……シェーラとミッキュって、何となく似た性格してるんだよ、ねぇ……)


 エルの場合ならばどうか。

 きっとイスマリアの修道女(シスター)である彼女のことだ。露出の高い礼装服(ドレス)を着たアタシを見て。

 「うわぁ……何その格好」と氷属性の攻撃魔法すら凌駕(りょうが)する、冷たい目線をアタシに向けてくるに違いないからだ。


「あ、アレだっキュぅ!」

「え、あ、ありゃあ?」


 アタシと一緒に周囲を見ていてくれたミッキュが、発見の第一報を知らせてくれた。

 果たして、こんな辺境の場所に誰が現れたのか。


 アタシがミッキュが指し示した先を見ると──



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