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第四話 禁断の合言葉を……言う!

 アタシは誰かが見てないかどうかを確認するため、周囲を見渡していく。

 わざわざ人目のつかない、街の郊外まで出てきたのにもかかわらず、だ。

 

「どうしたっキュ? 何を躊躇(ためら)ってるのかっキュう?」

「い、いやッ……だ、だって、よお……ッ」


 ただでさえ、旅の傭兵というアタシを知る人間に。魔法少女とやらになった今のフリフリな服装(かっこう)を見られでもしたら、後世までの恥だってのに。

 普段なら絶対言わないような、あんな台詞。


「な、なあミッキュ。ホントに……ホントに誰もいないんだろうねぇッ!」

「なあに、それは心配いらないっキュ。アズリアが魔法少女になるのは秘密っキュから。誰も近くにはいないっキュよ」


 どうやらミッキュの話では、ほのかたちがいる世界では魔法少女とやらは、同じ魔法少女以外には正体を知られてはいけない存在らしい。

 なので、人が近づかないように。ミッキュが細心の注意を払って、万が一にも誰かが接近してきたらアタシに教えてくれる……らしい。


「それとも……アズリアは、ミッキュのことが信じられないっキュか?」


 すると、肩に乗っていたミッキュは両目にぶわっと涙を浮かべながら、目をキラキラとさせてアタシをジッと見つめてくる。

 信じる、も何も。何処(どこ)ぞの国のお姫様かと思うくらいフリフリの礼装服(ドレス)のような格好をさせられているのも。口にするのも恥ずかしい言葉を言わそうとしてるのも、目の前の妖精(ミッキュ)のせいなのだが。

 

「ゔっ?……そ、そんな目で見んなッての……」


 だけど「魔法が使えない」アタシを不憫(ふびん)に思い、アタシらとは違う世界から来たミッキュが無償で力を貸してくれているのも。また真実ではあったりするのだ。

 この妖精(ミッキュ)には色々と言いたい文句こそあれど。アタシは、今手にした「魔法を使う」という絶好の機会を活かすため。


 女は度胸だ。


「わ──わかったよ! 言や、イイんだろッ!」

「その気になってくれて嬉しいっキュゥゥっ!」


 諦めにも似た気持ちで、あの恥ずかしい合言葉を言う覚悟をアタシが決めると。

 ついさっきまで泣きそうな顔をしていたミッキュが、これ以上ないくらいに満面の笑みに変わる。

 まるで、先程の涙を浮かべたのが演技かと思えてくるほどに。


「……いや。ミッキュの顔を見てたら、また決意が揺らぎそうだよ……」

「ど、ど、どうしてっキュゥゥゥゥゥゥ⁉︎」


 さすがの態度の変わりように、あの恥ずかしい合言葉を口に出す覚悟が緩んだ、とミッキュに告げた途端に。

 再び、両目には先程以上の涙が浮かぶ。


「あ、アズリアに断られたらっ……もう、ミッキュは、ミッキュは消滅するしかないっキュよ……」

「な、何だよその話ッ?……アタシゃ、知らないよッ!」


 突然のサプライズな告白に、アタシは肩に乗っかって騒いでいた妖精(ミッキュ)の身体をむんず!と掴み。

 今の話が本当かどうかを、手の中の妖精(ミッキュ)に問いただしていく。


 アタシの頭に浮かんだのは。

 ミッキュが本当に魔法少女に選んだという、宮内ほのかという女の子の顔だった。

 

 もし、アタシが魔法少女を演じる事をこれ以上嫌がり、本当にミッキュが消滅してしまったとしたら。

 ほのかが魔法少女になる手段もまた、消滅してしまうのだ。

 アタシとほのかは住む世界が違っているとはいえ、ほのかにだって魔法少女になる真剣な理由はきっとあるに違いない。

 多分、うん、おそらくは。


「それに……ねぇ」


 それを抜きにしても、ほのかにとっての大切な親友とも呼べるミッキュをアタシが消滅させたと知れば。

 今度こそ本当に、アタシの両の乳房をもぎ取りに。あちらの世界から、召喚陣(サモニングサークル)を使わずにやって来そうで怖い。

 現に、さちよの奴は召喚陣(サモニングサークル)無しでやってきた前例があるし。

 

 何より、ほのかはアタシの友達(・・)だ。


「ミッキュが消えちまったら、ほのかは絶対に悲しむだろうし、ねぇ……よしッ!」


 一度は撤回した覚悟を、アタシは再び胸に湧き立たせて。あの恥ずかしい合言葉を口にしていく。


「る……る、る……ッ、るる、るるるッ……」


 だが、口の中で舌を丸めるように発音するなんて、アタシの人生(これまで)の中でも初めての体験であり。

 恥ずかしさと、戸惑いで。合言葉を上手く口に出来ず。まるで顔全体が、流行り病に(かか)った時のように熱を帯びていた。

 不意にアタシはミッキュが消滅しないかが心配になり、横目でチラッと妖精(ミッキュ)を見ると。


「……キュ」


 無言で、しかも真剣な表情でアタシをジッと見守っていた。

 ──まさかこの時、ほのかたちのいる世界から持ち込んだ「すまほ」とやらで。アタシの一部始終を記録していたとは露知(つゆし)らず。


 アタシは見事にミッキュの真面目な顔と目線に騙されて、やる気を湧かせてしまう……そして。

 ミッキュに言われたように、両手を合わせて。


「るるるん、ルーン」


 ようやく。

 やっとの思いでアタシは恥ずかしい言葉を言い終える。


「ゔおッ? な……なんだッ、ま、魔力がッ!」


 すると突然、頭の中で「魔法が使える」と聞いたアタシが浮かべていた一つの魔法が。一つの目的をやり遂げだことで安堵(あんど)し、すっかり力を抜いていたアタシの両手の間に具現化していた。


 それは──紅蓮に燃え盛る、炎。


 そう、アタシが思い浮かべた魔法とは。

 火属性の攻撃魔法である「火炎球(ファイアボール)」だった。


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