第三話 え……これ、ホントに言うのかよ?
これじゃいっそ全裸のほうが恥ずかしくない。
アタシはなるべく街の外に出てくる住人らと鉢合わせないように、岩陰に身を潜めていると。
アタシにこんな恥ずかしい衣装を一瞬で着せた張本人はというと、空をふよふよと飛びながら何かを探している様子だ。
「さてさて……アズリアのお披露目にふさわしいやられ役はどこにいるっキュ?」
「お、おいっ!……まさかこの格好でアタシに戦闘とかさせる気かよっ?」
じょ──冗談ではない。
まさかこんな恥ずかしい衣装を着た状態での戦闘なんて、激しく動いたら腰のヒラヒラが捲れあがって丸見えになってしまうではないか。
しかもこの場所は街からそこまで距離が空いていない位置になっている。そんな場所で、戦闘なんて派手なことをしていたら、下手したら騒ぎを聞きつけて街の衛兵がやってきてしまうじゃないか!
だが、アタシをこんな姿にした当のミッキュはといえば、意地の悪そうな表情を浮かべ。
「当然っキュよ。それに……アズリアだって試してみたいんじゃないっキュか?」
「それって……まさか」
「そうだっキュ、素敵な格好に変身したからって忘れてるんじゃないっキュよ!」
──そうだった。
アタシがこんな辱めを受けてなお、ミッキュに「元に戻せ」と言わなかったのは。
魔法少女になれば、今の今までアタシが胸の奥にひた隠しにしてきた「魔法が使いたい」という願望を叶えるためなのだ。
「アズリアは晴れて魔法少女になったんだっキュ!……なら、魔法の一つや二つ、唱えられるようになってるっキュ!」
「で、でもさミッキュ、それならわざわざやられ役なんて探さなくても今ここで──」
ミッキュの言いたいことはわかる。
だが、魔法の試し撃ちならば別に野盗や魔物を見つけ出す必要なんてないのだが。
「アズリアはなーにもわかってないっキュゥゥ!」
「────へぶしっっ⁉︎」
そう思っていると、ミッキュの柔らかな身体がアタシの顔にボスッ!とぶつかってきたのだ。
動物とは思えないくらい柔らかな感触ではあるものの、顔にぶつかってくればさすがに痛い。
「い、痛たたたた……って、いきなり何すんだミッキュ!」
文句の一つでも言ってやろうとしたアタシだったが。
どうやって浮遊しているのか、その原理は知りようがないが。アタシの眼前にふよふよと浮かんでいたミッキュは先程とは違い真面目な顔つきとなり、突然説明を始めだすのだった。
「アズリア……数々の魔法少女のお供として魔力を分け与えてきたこの偉大なる魔法マスコット、このミッキュがいいことを教えてやるっキュ!」
「あ……あ、ああ」
ミッキュのここぞとばかりの妙な迫力に、思わず黙って説明を聞き入ってしまうアタシ。
「魔法少女の魔力とは……ズバリ! 変身した人間の『恥ずかしい』と思う気持ち、つまりは羞恥心を感じれば感じるほど、高まっていくモノなんだっキュ……う、嘘じゃないっキュよ」
「……わざわざ言い直すところが凄く怪しいんだけどな」
「い、いやアズリアっ、なんでいつもあの貧乳魔神ほのかが大っきなおっぱいを見ると目の色を変えてるのかわかるっキュか?」
まさか、この話の流れは────
いや、ほのかに限らず。シェーラもエルも、特にユメリアなんかはしきりに自分の胸の大きさを気にしていたので。
ある意味では女であることを捨てたアタシと違って、まだ女である証拠なのか……とばかり思っていたのだったが。
もしかして、ミッキュがほのかの胸を馬鹿にするような素振りを見せていたのは。
「ミッキュは……ほのかの魔力を引き出して、増幅するために、敢えて──」
「ふふん、その通りっキュよ」
「お、おお……実は凄いヤツだったんだな、ミッキュ!」
「えっへん!……ほらアズリア、そうと理解したならもっとミッキュを誉め讃えるっキュ!」
周囲をぐるぐると飛び回りながら腰(?)に手を当てて胸を張ったミッキュを褒めちぎっていくアタシだったが。
「というわけだっキュ、アズリア。そろそろ華々しい初披露を飾る時間だっキュ!」
「わ、わかったよ、行きゃイイんだろ、行きゃ!」
アタシとのやり取りですっかり探すのを止めたと思っていたが、どうやらミッキュはアタシが魔法少女としての能力を発揮する相手を見つけていたらしい。
先程のほのかへの対応の真相を聞いて、すっかりミッキュの事を見直していたアタシは、恥ずかしい気持ちを押し殺してヒラヒラとした格好で走り出そうとする。
──だが。
ミッキュは小さな指を立てて左右に振ると。
「ちっちっち。何してるんだっキュ?」
「い、いや……ミッキュが見つけてくれたやられ役とやらの場所に走っていこうと思って……」
「この……馬鹿モノっキュ────っ!」
「────ぷげらっ?」
アタシが答えた途端に、ミッキュの小さな手が頬をかすめてきたのだ。
威力こそ大したものではなかったが、今はミッキュに心酔していたため、ノリで吹っ飛ばされ、頬を押さえる素振りをアタシはしてみせたのだった。
「そこはアズリアも魔法少女のはしくれっキュ、魔法を使わなきゃ駄目だっキュ!」
「いや、いきなり魔法少女だとか言われても、どうやったら今まで魔法が使えなかったアタシが魔法なんて──」
すると、ミッキュはいつもより薄い生地でしか覆われていないため、露出がいつもより多いアタシの胸を指差して。
「そんな時こそ、アズリアのその無駄にデカい胸に手を当てて聞いてみるといいっキュ」
「アタシの胸に……だってえ?」
アタシは何度も自分の胸とミッキュを見返してみると、突然ミッキュの顔がデヘヘ……とほころんでいき。
小さな手をわきゃわきゃと動かしながら。
「何ならミッキュが手伝ってあげてもイイんだっキュよ────って、ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
調子に乗るミッキュの頭を片手で鷲掴みにして、形が変わるくらい……せいぜい握り潰さない程度に力を込めていくと。
ミッキュが喉を搾られたかのような悲鳴をあげる。
それはそうと、魔法の使い方だ。
アタシは目を閉じて、ミッキュに言われた通りに胸に手を当てて心を静めて集中していくと。
頭の中に、一つの言葉が響いてきたのだ。
「な、なあミッキュ、もしかして、これが?」
「そうだっキュ!……それがアズリアだけの魔法の言葉だっキュ!──早速その言葉を今すぐ唱えるっキュよアズリア!」
だが、アタシには一抹の不安と羞恥があった。
「え?……え、え?……ま、まさか、これをアタシに言えっていうのかよ……ッ」
……だって。
浮かんできた言葉がよりにもよって。
「るるるん、ルーン」だなんて。




