第一話 あの下衆コットが再びやってきた?
お待たせ……してないか(笑)
六章が完結した「放浪のアズリア」と。
お花畑ラブ子様の「魔法少女ほのか」シリーズのクロスオーバー作品、新章の幕開けです!
アタシは、アズリア。
理由あって故郷を飛び出し、勝手気ままな一人旅を続けてる女傭兵だ。
七年もの間、世界を渡ってきたアタシは変わったものをたくさん見てきた。だから……大概の奇妙なモノを見ても驚きはしないのだが。
さすがに、目の前に転がっている平べったい緑色の物体を見て、アタシは声を出さずにはいられなかった。
「お……おいッ、アンタ、もしかしてミッキュ?……ミッキュじゃないか?」
アタシは地べたに張り付いていた、平たくなった緑色の怪しい物体を「ミッキュ」と呼び、急いで駆け寄って拾い上げていくと。
裏返した怪しい物体には目と鼻と口が付いていた。
この怪しい緑色の物体の正体は、ミッキュ。
以前、アタシたちがいる世界とは異なる、「チキュウ」という世界の「ニホン」という国、その「ハマチョウ」という街からやってきた凄腕の魔術師……いや、その世界では「魔法少女」と言うらしいが。
ほのかという少女と。さちよさんという女性。
その二人と一緒にその世界から着いてきたのが、このミッキュという緑色の謎の生き物なわけだが。
「で、でもミッキュ……何でアンタがまだこの世界にいるんだい?……だってアンタは、ほのかと一緒に元の世界に帰ったハズだったんじゃ……」
そう、二人が元の世界に戻っていったのはひと月も前の話だ。
本来なら、違う世界の住人であるミッキュがこんなところにペチャンコになって転がってるなんてないハズなのに。
「……う、ううう……酷いメにあったっキュ……」
先程まで平たく延ばされていたミッキュの身体は、ポン!という音とともに元の丸っこいカタチへと戻ると。
持ち主というか、飼い主と呼ぶべきなのかという魔術師ほのかの恨み言と悪態を次から次へと吐き出し始める。
「元はと言えば、他の魔法少女はみんな前途有望なおっぱいなのに……ほのかの胸が絶望的なくらいつるぺったんすぎるのがいけないんだっキュ!」
「お、おい……ミッキュ?」
「だからつい『ほのかの祖先はもしかしたら平家だったっキュ?』って聞いただけで怒り狂うゴリラモードになるとか正気の沙汰じゃないっキュ!あ、平家ってのは胸が平らだからっキュよ」
ミッキュの暴言の意味はアタシには理解不能だったが。言葉の勢いから、どうせまたほのかの胸の大きさを馬鹿にして、彼女にどつき回された結果なのだろう。
アタシが制止する声を無視して、ミッキュは溜まり溜まったほのかへの不満をこれでもかと吐き出し続ける。
「ついでに────毎日牛乳グビグビ飲んでイソフラボン摂取して必死で風呂上がりの胸マッサージも欠かさず涙ぐましい努力してるのに健康診断でむしろサイズが縮んだ馬鹿にしたからなのかっキュ?」
……不味い。
ミッキュの口から、ほのかが普段から胸を大きくするための日課が暴露されていく。これ以上ミッキュを放置しておくと、アタシまで知らなくていいほのかの秘密を知ってしまうことになる。
アタシは喋り続けるミッキュの頭に拳骨を落とす。
「いい加減にしておきなよミッキュ」
「────はっ!……あ、アズリアが何故目の前にっキュ?……も、もしかして今度はミッキュが次元の壁を?」
「やっとアタシに気付いたんだねぇ……まったく、そんなんだからほのかにブッ飛ばされるんだよ、たく」
殴られたことで我に返ったミッキュが振り返り、アタシの姿を見たことで、自分が再びこちらの世界にやってきてしまった現状をようやく理解する。
愕然とするミッキュを、アタシは呆れながら見つめていたが。
「きゅ、キュキュキュ……これは、丁度いい機会かもしれないんだっキュ……粗末な扱いをしてくれたコトをほのかに後悔させてやるっキュ!」
急に不気味な笑い声を上げるミッキュに、背筋にゾクッとした悪寒を感じたアタシは一歩、二歩と後ろへ下がるが。
それよりも早いスピードでミッキュがアタシの顔へと張り付いてくると。
「────アズリア、ミッキュと契約して……魔法少女になってみないかっキュ?」
「え?…………はあ?」
突然のミッキュからの提案に、アタシは思わず口をあんぐりと開けて声を漏らしてしまう。
「アタシが……あの、魔法少女ってやつに、かい?」
魔法少女ってのは……ほのかや、魔術文字を発動させたアタシと互角以上に殴り合ったあのさちよさんみたいなヤツだろ。
ほのかが使う「記憶」は、魔術文字を含むあらゆる魔法を真似ることが出来る……アタシの知る限り、この世界にそんな魔法は聞いたこともない。
それに、さちよさんの使った「赫」という魔法で、彼女はアタシの目の前で二人に分身してみせたのだ。
当然、そんな魔法もこの世界には──ない。
アタシには一つ、悩みがあった。
それは「魔法が使えない」ということだ。
アタシは生まれながらに右眼に、太古の昔に使われていたとされる魔術文字が宿っていたために。
その代償として、通常の魔法を一切使えなくなってしまったのだ。
「そ、それってさ……もしかしたら──」
そういえばほのかは、アタシが胸を大きくするために使った「lagu」の魔術文字を「記憶」で真似ていたではないか。
この世界とは異なるほのかやミッキュたちの世界の魔法ならば。
もしかしたら魔術文字を宿したアタシでも魔法が使えるかもしれない、という魅力にアタシの心が揺らいでいると。
「そうっキュ♡……ミキュと契約すれば、アズリアの悩みもきっと解決するっキュよ……キュキュキュ」
いつの間にかミッキュは、意地の悪そうなニヤケた笑顔を浮かべながら、アタシの耳元で悪魔のささやきを続けてくる。
「み、ミッキュ、アンタ……一体アタシの何を知ってるんだい?」
「さあ?……ミッキュは知らない世界に迷い込んだ哀れな魔法のマスコットだっキュ♡」




