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女神様に招かれた聖女は、女神様の姿が見えません。

作者: いちい千冬

なろうラジオ大賞に応募させて頂いております。

超短編につき、設定やらその前後のお話やら、それぞれで想像して楽しんで頂ければなあと思います。




 その世界で、彼女は聖女と呼ばれていた。


 この世界には、ときどき別の世界から“招かれ人”がやって来る。

 世界を創造した女神が招いた、女神の客人。

 彼らは特別な能力を持っていて、この世界を良い方向へ導いてくれると言われている。

 そんな世界の、女神を祀った神殿の祭壇の前にころんと転がり出たのが彼女だった。


 しかし、大変残念なことに。

 いま。聖女たる彼女に、女神の姿はまったく見えなかった。

 その麗しい姿どころか指の一本、髪の一筋、衣の端っこさえ。

 姿だけなら神官たちや一般の参拝者にも見えているらしいのに、だ。


 だって祭壇に居るのは、“女神”ではない。

 少なくとも神殿のあちこちに置かれている女神像とは全く違う。

 彼女が見えているのは、とろりとした黒衣に身を包んだ若い()()である。


『やはり、我が見えているのだな』


 “彼”は、満足そうににやりと笑った。

 どうして皆、見えないのだろう。いや、あれが女神に見えている?


『女神の力が及ばぬ者。なるほど。女神にとっては()()()()()者か』


 真っ直ぐに彼女を見つめ。

 お前ならわかるだろう、と彼は言った。


『女神は偽物。留守だ。いつ帰って来るかは知らん。帰ってくる気があるのかどうかもな』


 彼女は神官たちから、“聖女”なら女神の姿ばかりか声まで聞き取れるのでは、と期待されていた。

 しかし聞こえた、皆に聞こえないこの声は恐ろしい。

 怒りの矛先が、こちらではないとしても。

 口調はずっと穏やかだが、なんというか、冷や汗が出るのだ。


『己の創造した世界を放って、どこまで遊びに出たのやら』


 思わず「え」と声をもらすと、近くにいた神官たちが不思議そうな顔をした。

 が、彼女は気付かないし、もうそれどころではない。

 男が彼女のほうへと歩いて来たからだ。

 その硬い靴音さえ、周囲にはやはり聞こえていない。


「あ、あなたは……」


『我は女神と対を為す者。悪神とも呼ばれているな。悪はどちらかと言いたいが』


 それは、女神と同じ創造神。

 だが崇めてはダメだと教わった神だった。


『あれに都合よく振り回されるのは、もう止めだ』


 わが姿をその目に映す聖女よ。

 と、彼は優しく目を細めた。


『一緒に来るか? 我の加護を受け、我に仕えるか。それともこのまま、作り物の――お前には見えもしない虚構の女神の声を偽るか』


 さあ、どうする。


 選ばせてやろう、と。言われた彼女は、頭を抱えたくなった。


 恭しく差し伸べられた手を取るべきか否か。




 ―――いま、決めなきゃだめなの!?





ありがとうございました^^

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