第一夜
木々生い茂る道の真ん中に女の子が倒れていた。その子はとても肌が白く、髪が綺麗な銀色、この辺りではこんな髪色の人をみたことがなかった。
『大丈夫!?』と僕は駆け寄る。
軽く肩を揺すると、彼女は気を取り戻したようで、ゆっくりと体を起こした。
彼女が口を開く
『月落とし……月落としをとめて……』
その場にまた彼女は倒れてしまった。
その時の彼女の目は
星も見えなくなる程目映い満月と同じ色をしていた。
半日前、
『日野くん、社会の 月文化についての宿題見せてー』と手を合わせて頼んで来たのは、今年天明中学に転校してきた《飛野うさぎ》。肩まで長く延びた黒髪。瞳が透き通り黒にほんのり赤みがかっており、綺麗な色をしている。
『仕方ないな。飛野は月文化苦手なの?いつもしてこないし。』
毎回してこない、といっても彼女は本当に頭が良く常に学年で一位の成績だった。僕はいつも二位に甘んじている。
『いやー、苦手でね。前の学校では月文化の勉強なかったし。』
そんなことをいって、少し舌を出しておどけて見せていた。
本日最後の社会の授業
『では地球と月文明の条約を、日野説明してみろ』と電子黒板の前に立つ、パリッとした黒のスーツでメガネをかけた教師、僕ら2年A組の担任でもある《金田》が僕をみて言った。
少し驚いたが、僕は、椅子を引いて立ち上がり
『地球と月文明の、初めての接触は100年前になります。その後50年後に渡航の自由化が決定しました。しかしながら、初接触から、90年後に地球から月文明に対して、両者の渡航禁止が提案なされました。理由としては、地球圏全体での資源不足と月文明受け入れ体制の再度見直しでした。このこともあり月文明も10年間という期限付きで受諾されました。この条約を月地再建十年条約と呼んでいます。』
『完璧な答えだな、座っていいぞー』僕はゆっくりと座った。
『……けっ、優等生様はとても頭のいいことで』
どこかから、そんな声が聞こえる……
あまり良く思われていないのは知っている無視をしとけばいい。
今日の最後の授業も終わり、片付けて帰ろうとすると。
『日野くん!今日も一人で帰るのかい、君は。』
と僕の机の上にドンっと荷物を置いて、飛野が顔を覗いてきた。
『……そのつもりだけど、なんだよ』と少し目をしかめて僕は答えた。
『いやー、ちょっと時間あるなら付き合って欲しいんだ。』と飛野は頭を下げながら言った。
『今日二回目の頼まれごとだよ??』
『いいじゃないの!!さっ行こう!』と飛野は突然僕の手を引っ張り、走って教室から出た。
『おい、待てよ飛野!!』
『いいから!早く!!』飛野は手を離さず走って行く、階段に来ると飛野は
『跳ぶよ』といって、僕の手を掴んだままジャンプ。
『死ぬ!!!』でも飛野は手を離さない、顔が壁に当たりそうだったが飛野はお構い無し、それどころかもう1つの階段も大きくジャンプした。
僕は軽く放心状態になっていたが、飛野はお構い無しと言った感じだ。
靴箱についてすぐ、
『ちょっと待って、どこ行くんだよ!』と言ってみたが
『早くしてよ、間に合わなくなる』と聞く耳も持ってくれない様子だ、
そのまま手を引かれながら校舎を出ると、後ろから
『日野!!待てや!!!』三人のヤンキーかぶれが追いかけてくる
『ほら、来た。』と飛野はその三人を見て言う。
『僕??……なんで、追ってきてるんだ?』
走りながら飛野は答えた
『いやー、私聞いてしまったんよ、日野くんが社会の時間答えてる時に、あいつらが、「日野は、生意気だからしめようぜ」って言ってるの』
『あぁー、聞こえてたやつか。……でも飛野気にしなくてもよかったのに。』
すると飛野は、少し寂しそうな顔をして答えた。
『いやー、そんなこと出来んよ。君にはあの時の恩があるし。』
『あの時の恩?』と僕が聞き返すと、
『いやいや、気にせんで気にせんで』とまた強く僕の手を引いた。
商店街を抜け角を曲がったところで僕は息がだいぶ上がっていたが
『ハァハァ……。飛野、待って!もう追ってきてない!だいぶ前から』
『えっ?』
『追ってきてないって!!』ようやく飛野は足をとめた。
『……早く言ってよ!!』少し僕を睨み付けて飛野は言った。
『言ってたよ!でも飛野は聞いてくれなかった』
『そうだっけ?』
僕はウンと頷いた。
飛野は息が全く上がっていなかった。
引っ張っていた手を飛野は少し恥ずかしそうに離した。
『……でも、飛野。ありがとう。助かったよ!!引っ張ってくれなかったら、僕は怪我してたかもしれないし、実際階段でも怪我しそうだったけど……でも本当にありがとう』とお礼を伝えると飛野はまた恥ずかしそうに頷いた。
少しうつむきながら歩いていた飛野であったが、突然、
『あっ!忘れてた!!』と大声を出した。
僕は少し驚いたが、『どうした?』と聞くと。
『今日天体望遠鏡で、月を見せて貰う約束してた!』とアタフタしながら答えた。
『天体望遠鏡?もしかして……あの丘上の?』と丘を指さしながら聞く。
その丘上の天体望遠鏡と言うのは、僕が小さい時からずっとあり、多くの子どもからは幽霊屋敷の巨大望遠鏡と呼ばれ、そうそう人は近づいたりしないのだ。実際は観測所であるとの話しだが、動いているのかも知らなかった。
飛野は『そうだよ』と答えた。
『いやいや、あの天体望遠鏡使えるの??』
『もちろん、クロウさんに見せて貰う約束してたんよ!!早く行かなきゃ』
『クロウ?誰?』
『まぁ、行ったら紹介してあげる!助けてあげたんだから行くよ!!』と飛野は言ってまた走り出した。
~この日の出会いで、
僕はとてつもなく大きな変化が起きるとはこの時思っていなかった~