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廃墟で出会ったのは人なのか

 長沢原病院。ラジオの説明では閉院したのは20年近く前。

 山の上にあるのは広い敷地の確保のためで、総合病院なだけあり様々な専門医が勤務していたらしい。

 病院までは意外にも広くしっかりした道路が通っていて、特に道が複雑なわけでもない。

 足があるのが前提になるけど、下の街からなら通うことになってもそこそこ快適そうに感じた。

 この病院が何で廃墟になったのか、何故かラジオは教えてくれない。

 大きな病院の半分を解体したのは入院施設のある別館が火事になったからが理由だそうだが


「つまり火事で全部焼けたってことか?」

『なあ相棒、この病院何階建てに見える?』

「質問を質問で返すなよ。あと相棒じゃない」


 ここ2日、いつも話の主導はラジオだ。

 会話をしているように見えても、実際は一方的なものさして変わりはないのかも知れない。

 どうせこっちが言うまで答えてくれないだろう。それならさっさと返事をしてしまったほうがいい。

 この病院はL字に曲がった構造をしている。

 窓に近寄って外を見れば、中にいても高さくらいは確認ができた。

 少し遠くに見える建物のシルエットにはこれといって崩れた様子はなく、月明かりでぼんやり見える窓枠を縦に数える。


「3階建てだな。それが?」

『入院設備ってのは、3階以上は耐火構造じゃなきゃ設置が出来ない』


 ということは、と言葉を切ったラジオの声はなんとも愉快そうだ。

 3階以上ってことは3階も含まれる、よな?

 別棟が同じ作られ方だと仮定して、コンクリート製で耐火構造の病院がそう簡単に燃えるかといったら、答えは否だ。

 そもそも解体にだって金がかかるだろうし、しっかり作ってあれば尚更だろう。

 ちょっと燃えたくらいなら修繕費の方が安くつく。


「火事は本当の理由じゃないのか……?」

『どうだろうな。まぁ燃えたにしろ燃えてないにしろ、碌な事じゃないってこった』

「そんなところに連れてくるなよ!」

『何言ってんだ。お前が俺を連れてきたんだろ?』

「こいつ……」


 ラジオの物言いには腹が立つが、病院については概ね分かった。

 閉館の理由を除けば、問題はラジオが何故俺をここに来させたのかって事だ。

 俺に何かをさせたい、しかもそれを教える気はないというのはひしひしと感じてるけれど。


 道路から来て一番最初に入りやすい位置で、備え付けのカウンターが残ったこの場所は受付だと察しはつく。

 カウンターの右側には長そうな廊下があり、恐らく階段もある。

 左側には扉のついてない部屋が見えた。


「どっちに行けばいい?」

『おっと……"何処へ行けばいい"とは聞かないんだな』


 ラジオが珍しく意外そうに言った。

 拾ってから今までずっと揶揄うように笑っていたから、少しだけどしてやったりって気分だ。


「聞いた所で場所わかんないし、どうせ教えてくれないだろ」

『お前って意外と物分かりいいよな』


 喧嘩売ってる?と聞けば、褒めてんだって、と全くそうは思ってなさそうに言った。

 どんな奴か分かってきたものの、分かり合える気がしない。

 何が楽しいのか、ラジオは一頻り笑ったあと右だと短く答えた。

 ズボンのベルトに引っ掛けていた懐中電灯をカラビナから外して、防災ライトを代わりに掛ける。

 廊下は窓が多くて比較的明かるいとはいえ、足元は影になってしまっているから、細く長い距離を照らせたほうが良い。

 二つ持ってきて正解だった。


 懐中電灯に照らされた廊下は想像していたよりも長い。

 覚悟して臨んだ俺だったが突き当たりにたどり着く事はなく、割と手前で足が止まった。

 正確に言うと、足が動かなくなった。

 横にはちょうど一本めの階段。

 反対側は劣化したプレートのついたドア。何科なのかわからないが、かろうじて読める文字は診察室。

 そして前方には廊下の突き当たりから猛然と駆け寄ってくる人型のナニカである。


 恐怖のリアクションと言うのは人それぞれ叫んだり笑ってしまったり泣いてしまったりと色々あるけれど、その日俺は自分が声も出ないタイプだと言うのが無駄に分かったのだった。

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