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最初の事件

「いらっしゃいませ」


 この喫茶店の一品あたりの単価は千円前後と、そこそこの値段だけれど、客入りは結構多い。大きな駅に近くて、早い時間から営業しているからかもしれない。

 

「ミコトちゃん、おはよう!」


 元気な笑顔で挨拶をしてくれたのは、甘木(あまぎ) 夕姫(ゆき)ちゃんだった。


「おはよう、ユキちゃん! いらっしゃいませ!」


 ライトなロリータスタイルとでも言えば伝わるだろうか。白を基調としたパステルブルーのバイカラーワンピースは、袖と襟、裾にあしらわれたフリルがとっても可愛い。背 中に流れた、ピンク色の髪がふわふわと動くたび、お菓子のように甘い香りが漂う。


「ねえねえ、ミコトちゃん! ちょっと聞いてくれん?」


 カウンターの席についたユキちゃんは「私は怒っているんだぞ!!」と言わんばかりの表情で、話始めた。


「この間、彼氏がね、友達と肝試しに行ったらしいんよ。彼、酒を飲むと気が大きくなるから、友達に乗せられたんだと思うんだけど」


「この辺に肝試しできそうなスポットなんてあったっけ?」


「なんか、曰く付きの廃ビルとかっていっとった……私は行かんでって言ったのに! 勝手に行っておいて、帰ってきたら具合が悪いだの何だの、女々しい電話してきたっちゃん! だからね、私、頭にきちゃって! あんだけ言ったのに、馬鹿じゃなかと! 私はもう知らんけん!! って電話を切ったんよ」


 砂糖菓子のような見た目に反して、激しいマシンガントークにももう慣れた。方言混じりの罵り言葉は半分くらいしか理解できていないけど、ユキちゃんは怒れるハムスターのようで何だか可愛かった。


「そうだったんだ。大変だったね。はい、コーヒー」


「ありがと。そのあとね……私もちょっと言い過ぎたかなと思って電話してみたんだけど、彼、全然電話に出なくて。職場も無断欠勤しているらしいから、心配になってきてね」


 先ほどの勢いは何処へやら、しゅんと肩を落としたユキちゃんの話を聞いて、何だか私も心配になってきた。お調子者の彼氏と、見た目の割にしっかりしているユキちゃん。彼氏がやらかして、ユキちゃんが怒るのはいつものことだけど、連絡がつかないというのは穏やかではない。


「彼氏さんの家には行ってみた?」


「まだ行ってないんよ。……電話に出ないのなんて初めてだし、冷たい彼女だって、嫌われて着信拒否されとったらどうしよう……」


「なるほど。一人で行くのが不安ってことかあ。今日はお店も14時くらいに閉めるらしいから、閉店後でよかったら付き合うよ」


「いや、そこまでしてもらうわけにはいかんよ! 私があんな事を言っちゃったのが、悪かったっちゃけん!」


「気にしなくて良いよ。何かあった時のために、一人よりは二人の方がいいと思うし」


 遠慮するユキちゃんを説得して、仕事終わりに彼氏さんの家を訪ねることになった。

 ユキちゃんを見送った後、いただいた代金をレジに閉まう。

 それから次のお会計をしようと、顔をあげると朝陽(あさひ)さんと目があった。


「ごちそうさま! あ、そうだ。一つ忠告なんだけど、──行かん方がよかよ」


 朝陽さんは伝票を渡しながらそういった。


「え?」


「エサバちゃん、色んなものに好かれやすいっちゃけん。だから、余計なことに首を突っ込まん方がよかと思う」


 色んなものに好かれやすいから、友達の彼氏に会いに行くなだなんて。朝陽さんはわたしのことを高く評価しすぎている気がする。


「……えーっと、ユキちゃんの彼氏さんがわたしを好きになるってことですか? それはないと思うんですけど」


「そうだね、それはないっちゃないかなー」


 ないっちゃないかな、の言葉の意味は微妙に分からないけど、残念な子を見るような目で言わんとしているところが伝わってくる。


「忠告しても行くんだろうけど、行くなら部屋に入らず、扉の外で待っといた方が良かよ。中は覗かないよーに。じゃーまたー」


 謎の忠告をして、朝陽さんは帰った。

 彼氏さんの家はお店から歩いて15分くらいのアパートの1室らしいし、警察署もまあまあ近い。万が一、何かの事件に巻き込まれていたとしても、通報したら大丈夫だろう。


「さて、まずはランチタイムだ! 今日も頑張るぞー!!」


 ──この時のわたしの考えが、とても甘い考えであったことに気付くのは、取り返しのつかない出来事が起こってからだった。

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