34話
少し長めです。今回も過激な描写があります。苦手な方はお控えください。
よろしくお願いします。
「本当に残念だね」
この場にいるはずのない声が響く。静かな森の中その殺意は二人の心を恐怖心でいっぱいにした。
二人はそこそこの冒険者であり、何度か死線をくぐり抜けていた。しかしこの声には逆らってはならないと本能が警鐘を鳴らしているのだ。
剣士の男はそれを無理矢理精神力で押さえつけると声の主を確認しようと後ろを振り向いた。
そこには商人風の衣装を着た少女のような顔立ちをした人が立っていたがよく見ると青年のようだった。その青年は黒髪黒目でありこの世界では珍しい容姿をしていた。
似ている………。大輝様と似ている。
東の国に黒髪黒目の人間は多く存在していると聞いたことがあった。しかし閉鎖国のせいか皆性格は穏やかで温厚だというがこの男からは温厚さの微塵も感じられなかった。
そこにあるのはただ自分を道端の石としか見ていないような完全に相手にしていない冷ややかな目だけだ。すると魔法使いの男が咄嗟に叫ぶ。
「おいてめぇ!何しに来やがった!ここはおめーが来るような場所じゃね―――――」
しかし男の声は最後まで続くことはなかった。
剣士の男がやめろと声を掛けようと男に振り向いた時だ。
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自分の横を何かが飛んでいった。それは魔法使いの男のほうへと一直線に向かうと魔法使いの頭に何かが突き刺さった。
(スンッ)
綺麗に果物を切った音。
そんな音が何故こんな物騒な森で………。そんなことは考えるまでもなかった。魔法使いの頭には、先ほどの男が投げたであろうナイフが突き刺さっていた。
剣士の男でさえもナイフが飛んでいく何かの残像にしか見えなかった、そんな物を魔法使いの男に避けることは愚か、見ることすら不可能だった。
魔法使いの男は確かに魔法のレベルは高い方である。しかし魔法のレベルに力を入れている分、体力面はどうしても戦士より劣ってしまっていたためナイフを捉えることが出来なかった。
男は自分が何をされたのかもわからず絶命しその場に崩れ落ちた。
剣士の男も自分がギリギリ視認できるかでいないかの攻撃を見て勝ち目がないと思ったのか男の隙を見つけ出しどうにか逃げられないものかとチャンスを伺う。
しかしそんなことは男の前では無意味だった。
「逃げようとするのはいいけどちょっと話があるんだ。それにせっかく人が治療していたペットの皮を剥がれるのも………。あまりいい気分じゃないよ」
サキが一言話すだけで剣士の体がびくりと震える。まるで母親にしかられる子供のように。すると戦士の口から一滴の血が流れ出る。
「な、何の御用で…………?俺達はただそこの魔物を連れてこいと大輝様に言われただけであなたには何もしていません…………!!?」
男は恐怖を痛みで塗りつぶしサキの威圧に耐えていた。しかし自分でも何故大輝という名前を出してしまったのかわからず混乱した顔でサキの方を見る。
何故自分の上の存在である勇者大輝の名前を出してしまったのか。不思議でならなず考えても分からないでいた。
あぁ…………。俺死んだかもなあ……。こんなことになるなら勇者様と手を組むなんてしなけりゃよかった…………。
なぁ、俺達は初めから捨て駒だったのか?
サキがシロの元へ駆けつけた時、そこには二人の男に肉ごと皮を剥ぎ取られているシロの痛々しい姿があった。それもシロの意識がある状態。
これって……。
サキの中に小さな感情の波紋が広がる。今まで仕事の邪魔でしかなかった感情。
とっくの昔に壊れてしまった自分自身の欠片。それが今ほんの少しだけサキの中で存在を訴えかける。
不快感……………?
「そっか……。俺にもまだ残ってたんだ」
誰にも聞かれない小さな声で無意識に呟やく。しかしサキの思考の第一優先はそれではなかった。
何やらすごい道具がどうのと会話しているが関係なくサキは男の前へと出る。まずは話でも聞いて見るかと思ったのだが魔法使いらしき男がこちらへ攻撃の姿勢を見せたため咄嗟にナイフを投げる。魔法使いの男から発せられた殺意と攻撃の意志を感じ取ったためか自然に体が動いてた。
あぁ、つい反射でやっちゃった………。まあ殺意向けてくるって事は遅かれ早かれ反撃する事になってたしまだ一人いるから大丈夫だよね。
すると戦士風の大男が自分の唇を噛みサキの威圧を振り切り、なんとか喋りだす。
しかし威圧と催眠を込めた言霊。催眠までは振り切れなかったようで、男はある人物の名前を出した。
結構強い威圧をかけたつもりだったけど痛みで克服するのはいい判断だね。
男の話す言葉の節々には嘘が混じっていたが催眠の効果あってか命令されてやったというのは本当のようだった。
大輝…………?日本人みたいな名前だ。
聴き慣れた名前の疑問を持ったサキは男に更に強い催眠をかける。しかし痛みを感じている分多少効き目が悪かった。その間男は痛みと混乱で呻いていたがもちろんサキにはそんなことは関係ない。
「ねえ、俺の質問に答えてくれる?」
「うぁ………………………。はい」
しばらくすると男は上の空といった顔になったまま赤い涎をだらしなく垂らす。
「このホワイトウルフの皮を剥いでいた目的は何?」
「ホワイトウルフの皮は……高値で取引されています。金儲けのために剥ぎ取りました………」
「毛刈りなら肉ごとはがす必要ないよね?それにそんなことしたら毛が汚れちゃうんじゃないの?」
「いえ。俺達冒険者パーティーで一番の回復魔法が使える男いまして……。大輝様に借りた魔道具で更に魔法を強化し傷を癒してまた剥ぐのを繰り返していました。肉からの方が回復が早いからです。それにもう一つ……。うぅ、肉ごと剥がせば本職の人間に毛刈りをしてもらえるので更に価値が上昇します」
男は頭を抑えながらもサキの質問に答え続ける。
なるほど………。やっぱりA級の魔物は素材も価値が高いのか。
しかし肉を剥がし癒してまた剥がす。それは常人が考えるよりも地獄の苦痛である。
「どうして意識をそのままにして剥してたの?」
別に聞く必要のない質問だったがサキはなんとなく聞きたいと思った。それこそ人はどのような感情でこのようなことをするのか多少興味があったのだ。
すると男は先ほどと同じような虚ろな目のまま口角を上げ嬉しそうに答える。
「………。他人の悲鳴を聞くと高揚感を感じられるからです。それは魔物も同じで………」
「そっか」
世の中には色んな人間がいると思う。人の体を切り刻みそれに性的興奮を覚える者。崇めるものの名前を呼ぶだけで気が狂ってしまうほどよがる者。そして今回は魔物や人間の悲鳴を聞いて高揚感を感じる者。
サキには理解でいないものばかりだった。何故そんな無駄なことをする必要があるのか。
殺すならば無駄なく殺せばいい。それが命令ならば尚更である。男はサキの質問に答えると下半身がだらしないことになっていた。
「本当に理解できない………。まあでも君たちのお陰で俺も知らない………自分の中の何かの存在を知れたから損だけじゃなかったかもねえ」
そう、今回サキの中にはある感覚があった。人間が覚える負の感情である不快感。
自分が手をかけた物を簡単に壊そうとする男達に抱いた感情。サキは他の人間に不快感を抱かせられる行為は何度もされたことがある。しかし、サカキの存在があったおかげか特に興味を持つこともなく無関心だった。
だが異世界に飛ばされ様々な体験をし、サカキのいない中沢山の感情や個性に触れたことでサキの中でも微々たるものだが、自分の感情?に興味を抱くようになっていた。
思っていたより面白くない感情だ。そんな感情を抱かせた男達の黒幕――――。明らかに日本人の男。
この先きっと自分と対峙することになるだろう。サキは一度シロに視線を戻す。
衰弱しきったシロだがその目ははっきりとサキを捉えていた。シロの中は感謝と罪悪感でいっぱいのようだったがサキはそんなシロに問う。
「こいつらの後ろにシロを襲わせた人間が居るらしい」
『……………ッ』
返事はない。否、声を出す体力すら残っていないのだ。しかしサキはしっかりと感じた。シロの憎悪の感情ととてつもない殺意の念を。それを確かめたサキは再び男の方へ向き直るとまた問いかける。
「じゃあ、大輝って誰?」
すると先程まで素直だった男に変化が起きた。男は突然うわごとのように意味不明なことを呟き始めた。
「ぁああううう!……………。あーあーあぐうぐぁぅ?」
催眠が効いていない?いや、さっきまではしっかりかかっていたはずだ。なら考えられるのは一定の質問には何かしらのリミッターがかけられている?もしくわ………、精神魔法?
打開策が思い浮かばないサキは全力で催眠をかける。何やら男の頭を所々触りながらサキはまた同じ質問をした。
「後遺症が残るけど、どうせ死ぬんだから関係ないよね」
すると男は目から血を流しはじめるがそれでもサキは催眠をやめない。
「ぐうぅうう!…………ぁ。ゆ、勇者大輝様に頼まれ………。俺達は冒険者パーティーで特別に目をかけてもらえたのか………思った……で………俺達は利用されただけだったの………かもしれぅううぃ」
「その男は今どこに居るの?」
「モノリシ………ウスがくえ………んぅうぅ」
「勇者は他に何人居る?できれば詳しく」
一つ一つの単語を聞き取り頭に情報を叩き込む。
「ぅうぅぁ………。ほか………も一緒に召喚され…………。まだレベルが低いゆう………は……レベル上げをしてりまぐ………」
勇者は一人づつじゃなくて一斉に何人かを召喚した……?もしそうなら敵対する人間が増える可能性が高くなったかな……。いや、うまく立ち回れば……まあ後から考えようか。
「そっか。そういえば魔法使いが付けてた腕輪って何?借り物って言ってたけど」
「ぎぎぎぃぃい……ぅ……。こぐほうぎゅうのまど……です。つけるとスキルレベルが………にばぃにな……ますぐふひはぁ!」
男は吐血をしだし鼻血の量もどんどん増えていくがもうまともな情報が手に入らないと思ったサキは催眠を解く。すると男はその場に力なく倒れ段々正気を取り戻していった。
「ぐうぅぁ…………。お、俺は一体何を?……あーーー頭がいてえ足が動かねえ?……なんだこれ!?」
後遺症なのか体がうまく動かない男。しかしサキは気にした様子はなくそのまま男の前に立つと持っていた鋭利に磨がれたナイフで男の腕の肉を削ぎ落とした。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!いだいいだいいだいいだいいいぃいいいひいいいいぎいい!」
「あぁ………。俺には高揚感なんて感じられにけど………。君の悲鳴は悪くないかもね」
微笑みながらサキは更に男の反対側の腕の肉をそぎ落とす。そぎ落とすときは死なない程度に調節し大切な器官と部位は避けて更に削ぎ落としていく。
そうすることで長う意識を保ったまま痛みを与えることが出来るのだ。
「ぐううぁあああああああああ!なんでだ!なんで俺にこんなごどするんだあぁああああ!?あんたには何もしてねえじゃねえかああああぁああ!」
男は発狂する。発狂することしかできない。腕からは血が流れ出ており痛々しい光景になっている。しかし逃げたくても体がいうことを効かないため逃げることあできない。涙を流しながら鼻水を垂らし汚く崩れた顔でサキに懇願してくる。
「だのむよおおぉぉぉおおお!助けてぐれええええええええええええええええ!」
「あれ?さっきそこのホワイトウルフに同じ事してなかった?俺には回復魔法が使えないから助けてあげたいんだけど何もできなくてねえ」
「うがああああああああああああああああああああああああ!」
もはや言葉すらうまく話せないほどの痛みに悶える。今度は男の両太ももを丁寧にそぎ落とす。しかし脛の部分は骨と肉の距離が近かったのか少し骨が見えていた。
「ああ、脛はもっと綺麗に削げばよかったね。ごめん。そんなに痛いなら止血くらいしてあげられるけど………どうする?」
微笑みながら男に言うと男は目を見開き何度も頷く。
「うううぅううううぁああいだいいいいいい!!!なんでもいうごといぎまづがらぁあああ………。布部エエェええええあああ!」
「なんでもかぁ…………。でも別にいいかな『フレア』」
するとアクエルに凍らされた腕を直したときと同じ魔法をイメージして発動させる。しかし魔法名は同じでもイメージは少し違っていた。
サキの発動させた魔法は男の肌を焦がしていき、殺さない程度に全身を焼いていく。もちろん止血にはなるが重症なことに変わりはなく痛みは想像を絶した。
「なんでええええ!?!?!?!?!?!?だっだだだづげでぐれぐうふうううっでえあぁぅううえええええ!!!」
「止血はしてあげるって行ったけど助けてあげるとは言ってないよ………それに――――」
サキはシロを一瞬見つめる。シロはまだ体が動かないのかがっくりとしているがその目はサキの行動をしっかりと見ていた。まるで目に焼き付けるかのように。
「ホワイトウルフは意識があるまま何度も回復されて何度も肉をそがれてる。そう考えればその程度痛くないんじゃないかな?」
もはや男にはサキの言葉等耳に入ってこない。それほどの激痛なのだ。綺麗に削ぎ落とされた部分もそうでない部分も焼け焦げ涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔は何も考えられないとういう表情で虚ろだった。更に気を失いたくてもサキがそれを許さない。適度な痛みを与えすぐに意識を覚醒させるとまた肉を削ぎ落としていくのだ。その拷問は一時間以上も続き森にはしばらく男の悲鳴が響き渡った。
もう原型がわからないほど削ぎ落とされ叫ぶ力もなくなった男は虚ろな目でブツブツと呟く。
「ごろじえふえぇ………ごろじぇ……」
もう男には何もできない。この地獄が早く終わることを祈ることしかでいなかった。A級冒険者だった男はサキによって心も体も壊されてしまったのだ。
「まあ普通の人間なら数分も持たないから君はこの世界で強い部類の人間だったんだねえ。でも人のペットに出だしするのは良くないよ」
その言葉を最後に男の瞼はゆっくりと閉じていく。しかし最後まで男に安栄はなかった。サキは刀を取り出し男の首を綺麗に切断するとアイテムボックスから綿で作ったハンカチのような布を取り出し刀の刀身部分を綺麗に拭き取るとそれを地面に転がっている男の顔に投げ捨てた。その後男達の身ぐるみを剥いだ後キャンプファイアをイメージした魔法を唱えると死体は一気に燃え塵となった。体の中のマナが一気になくなり久しぶりにつかれた気がしたがそんなことはどうでもよく思えた。
サキは一人考える。
これが不快に思うってことなのかな?まだわからないけど………。やっぱり感情なんていいものじゃないよ?………。サカキ――――。
「はぁ………」
サキのため息は果たして何に向けたものだったのか。それを知る者はいなかった。




