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異世界でも殺し屋さん?  作者: なきもち
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2話

第2話です。よろしくお願いします。


 サキはまたしても疑問に思っていた。サカキはいつもサキの理解できない行動をとる。

人間の行動原理、心理を予想し相手がどんな行動をとるか、またどうすれば自分に有利に誘導できるのかを熟知していたサキだが、サカキの心は時々読めないでいた。

今回の仕事はホシの人数が多いと言っていたがそれが何か問題になるのだろうか?サカキは何故自分を心配するのだろうか?何故サカキの心は読めないのか――――――。

 サキには人の心が分からなかった。物心着いたときから自分の存在価値は殺しのみであり、人に愛してもらうこともなくひたすら殺し続けてきた。更に殺しに必要な体を作るために色々な実験もされた。

小さな体では死んでしまう恐れのある薬の投与をされ続けた。

痛い。すごく痛い。でも逃げ出したら殺されてしまう。自分の存在価値すらなくなる。耐えなきゃ。

あるときは食事を一ヶ月以上与えられなかった。

お腹すいた。でも逃げたら殺される。耐えなきゃ。

また強制的に肉体改造、遺伝子操作をされた。

自分が自分じゃなくなりそう――――怖い。でも耐えなきゃ殺される。耐えなきゃ。

それ以外にも人を殺すのに躊躇わないように精神ショックビデオを何時間も見せられた。また慣れてくるとそれを見ながら食事をとらされたりもした。

そのような異常な環境にいたため、サキの心は壊れてしまったのだ。

だからこそサカキの心配する心が分からなかった。



「サキ」

サキが考え事に一人ふけっているとサカキがふいに呼びかけた。

「?」

「俺は今回の任務が終わったら始末されてお前には新しいヤツが付くかもしれねえ」

サカキの言葉にサキはきょとんとする。何故無駄なことをするのと言いたげな顔だ。

「どうして?僕はサカキ以外と居ようとは思わないよ?」

「俺は最後の任務の後遺症で、仕事に復帰できそうにねえ」

「僕がサカキの分まで殺せばいいんじゃないの?」

「組織にとってお荷物の俺は切られて当然だ。だからお前に教えておこうと思ってな」

サカキの雰囲気が突然変わった。それはサキの理解できない感情をしている時のサカキの雰囲気だった。

まただ。またサカキが僕の知らないサカキになった。

「何を教えるの?」

「お前今いくつだ?」

そんなどうでもいいことをきいてどうするのだといった顔でサキは答える。

「16か17だと思う。どうしてそんなこと聞くの?」

「まあ聞けって。お前俺が今何考えてるか理解できるか?」

サカキは一体何が言いたいのだろう?今何を考えているのか。

サキは自分のモテる技術を使い考察するが、どうやっても分からなかった。

沢山の感情が複雑に絡み合い何かを伝えようとしているのはわかるが、その混ざり合った感情が理解できなかった。

「サカキは僕より強いんだから読めないようにしてるんでしょ?」

サキは思ったことを素直に伝えた。

「俺がお前よりも強い?……」

サカキはあっけに取られた顔をする。すると突然笑いだした。

「アッハハハハハハハハハハ!俺は2秒もあれば瞬殺できるぞ?いやそんなにいらんかも知れないな」

驚愕だった。自分に殺しの術を教え、いつになっても心は読めず一緒に居る時間が長くなり気に求めていなかったが、自分でも理解できない感情がサカキに対して芽生えていた。サキはそれを尊敬の心だとずっと思っていた。自分より強い相手をしらなかったサキにとって、それもまた新たに覚えた感情の一つだったからだ。そんな風に思っていたサカキが自分なら2秒で殺せると言い出したのだ。当然直ぐに理解はできなかった。

「サカキは冗談が上手だね」

サキは作り笑いを浮かべサカキが何を考えているのかを読み取ろうとするが、サカキは本当に心から笑っているようでますます理解できなかった。

「今俺が嘘ついてお前をはめようとしてるとか思ったろ?」

「……」

「お前は人を信じる、愛し愛されるということを知らない」

「愛?愛なら知ってるよ。自分にとって大事と思い慕う心のことでしょ?」

「それは知識としての愛だ。お前は本当の愛を知らない。だから俺の心も読めない」

「ますますわからないよ……」

「つまり俺は今お前に対して思い慕う心で接しているってことだ」

「どうしてサカキが僕のことを?」

サカキは、サキの質問に嬉しくなりタバコを口に咥える。そして徐に火を付けると窓を背後にしながら語り始めた。

「俺はお前が喋れないときからずっとお前の面倒を見てきた。そしてそうしていくうちに思っちまったんだよ………自分の子供みたいだってな。いやもしかしたらそれ以上だったのかもしれねえ」

おもしろ可笑しそうに語るサカキはとても楽しそうだった。

「僕にとっても物心ついたときからサカキは―――」

「それとはまた違うさ」

「………?」

「もし今組織の連中がここにいて、俺とお前のどちらかが生残らにゃならねえとき。お前ならどうする?」

サキは逡巡する。

「それは……」

「一瞬でも迷うだろ?でもな、俺は瞬時に――――――――」

そういった瞬間サカキは懐から出した銃で素早く自分の頭へ突き出し引き金を引いた。

すると小さな声が聞こえる。

「どうして?」

そうサキが言ったとき、聞こえるはずの銃声はなくサカキが気づく間もなく銃はサキの手の中に合った。

「やっぱ化物じみた速度だなぁ?アハッ!アハハハ!」

何がおかしくて笑っているのか?サキにはどうしても理解できなかった。

「どうして仮定の話で本当に死のうとするの?自殺は一番愚かだって教えたのは榊だよ」

笑い疲れた様子のサカキはサキに視線を戻すとまた温和な笑みを浮かべる。

「お前なら余裕で引き金を止められるだと?それを計算のうえでやったからだ。死なないと分かってての冗談さ」

「………僕が止めるっていう保証はなかったよ?」

「俺にはわかってたよ。自分の知識にないことを知れるチャンスをみすみす逃すわけがない。それにそう教え込んだのは俺だからな」

サキは困ったようにサカキを見る。サカキも察して先ほどと同じようにサキを見つめる。

「つまり俺にとっては命を捨ててでも守るべき対象。愛すべき対象。それがお前なんだよ………サキ」

サキは理屈では分かっていても本心から理解できなかった。しかしサカキが自分に、愛という感情を向けていることに悪い気はしなかった。むしろ今までのセリフの節々に感じていた心地よさは愛情を向けられていたからかもしれない。理解できなかったサカキの気持ちを少しでも知れたことで気分が良くなったことに気づくと自分でも驚いた。まさか自分にも感情の理解が少しでもできるなんて。

もしかしたら僕もサカキに対して………。

「サキ」

「?」

突然今までに見たことのないサカキの笑顔をみて驚きつつもサカキを見る。

「お前にとって俺はどんな存在だった?」

何故今それを聞くのか。もしかしたらサキが感情を理解しかけていることを悟っているからかもしれない。

しかしまるでもう会えないような質問の仕方に戸惑いつつも答えた。

「ずっと一緒にいて、これからも一緒にいて欲しい……ぱ、パートナー……。もしもサカキがいなくなったら僕は―――」

それは唐突に起きた。

『パリィン!』

突然サカキの後ろの窓が割れたのだ。普段であればガラスを確認するのだが、サキは違った。

サイレンサーの音?……サカキ!

「サカキ!いま――――」

「サキ。愛してるぞ……人の気持ちってのはな、理解できないときもある………」

喋りながらサカキは床に倒れる。

サキは瞬時にガラスの割れ方から打たれた場所を特定し殺しに行こうとするがふいに足を掴まれる。

サカキの手だ。

「人の話は……ゲホッ………最後まで聞けって……教えただろ」

「…………わかった」

サキにはわかっていた。もう心臓を打ち抜かれ致命傷であり今のサキにはそれを助けられる術がないことを。そして悔やんだ。自分の知っている医学知識がこんなに役にたたないことに。

サカキは自分が死ぬことを分かっていた。だからあえて打たれる位置に自ら立ったのだ。

サカキは最後にサキの知らない感情の一端でも教えようとした。そしてサキが一瞬でも迷う質問をして自分を殺す者から気を逸らす思惑もあった。

サカキの言葉に動きを止めるサキにサカキは満足し手を離した。

「サキ、俺がいなくても……組織には今まで通り従え……そして今から言うことは――命令だ」

サキは目を見開く。サカキがサキに"命令"をしたのは初めてだった。

更にサカキは続けようとするが器官に血が入ったのか呼吸も出来ず今にも意識が飛びそうな中サカキはすごい力で先の手を握り締め言った。

「例え全世界を的に回しても欺き続けろ……。自分を見せていいのは……心の底から愛せると思ったやつにし――ろ」

その言葉を最後にサカキの脈は完全に停止した。




「サカキ――――。難しい宿題だよ………」





誰もいなくなった部屋の中で、本人も気づかず流していた涙はサカキの腕に落ちて消えた。









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