1話
初投稿です。至らぬ点多々あると思いますが楽しんで読んでいただければと思います。
ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……
そのリズムを刻むような水滴の音は一つの書斎からの音だった。
ついさっきまでTVの前で記者会見をしていた、大手企業の社長の書斎からその音は響いていた。そしてそとに続く道を優雅に歩くものもいた。まるで遠足前の子供のように鼻歌を交えて。
『昨日未明、大手IT企業の社長が書斎にて倒れているところを、社長司書が発見しました。警察は殺人事件とみて操作を続けており―――――』
「証拠は?」
「何も残してない。いつも通りだよ」
「ハッ、お前クールなのはいいけどもっと愛想よく喋れないのか?」
「それは命令?」
「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ……」
市街地の端にある一軒家で二人の男が話していた。彼らは大きな組織に属する殺し屋だ。
そのうちの一人は殺しの術しか知らず、常識をあまり知らない16歳の青年だった。
黒のセミロングほどの髪型で、何を考えているか分からないのになぜか心が許せるようなそんな雰囲気を醸し出す綺麗な顔立ちだった。
身長はどうやっているのか自由に変えられるようで潜入の時によく使っているようだ。
しかしあんなガキがここまで大物に育つとはな……。
そう思っているのは少年のパートナーであり、育ての親であるサカキだ。サカキと青年は組織の仕事をこなしその金で生計を立てていた。
「サカキ」
「あん?どうした?」
「いつになったら僕は――――」
そこまでいった青年の言葉を遮ったのはサカキの殺意を込めた視線だった。
「いいか。俺たちに出来るのは組織に逆らわず、言われたことだけやってりゃいい。ほかのことに興味を持つことは自由だが、それを叶えようとするのはダメだ。昔からそう言ってんだろ」
「そっか」
青年はなんとなく聞いただけだったが、可能性が低くてもどこから監視させ盗聴されているかわからないこの空間で組織を裏切るような発言をするのはいい策ではない。それは二人共分かっておりその後この話題を出すことはなかった。
しかし青年は密かに思っていた。何かをやらされそれに従うだけの人生は飽きてきた。そろそろ自分はやりたいことやりたいと思っていた。
サカキはそれを察していたが、組織の大きさから例え裏切り脱走をしても逃げ切れないと分かっていたため、こうして度々釘を刺していたのだ。
組織の中でも一番技術が高いこいつを組織が手放すわけがねえ。何か手段を考えておくか……。
サカキは青年の本当の親ではない。しかしサカキにとっては自分の子のような存在だった。
小さい頃から見守り、歪んだ道ではあるが、自分の技術を教え込んだいわば自分の分身でもある。そんな青年の願いを叶えてやりたいと思っていた。
しかし相手は世界の裏を操る巨大な組織。組織の構成員の半分以上の戸籍を作り出す技術を持っており他にも様々な分野でのエキスパートを用意している。そんな組織から簡単に逃げられるわけがなかった。
しかしサカキは諦めなかった。
俺はもう長くないだろう。もしかしたら今日明日にでも始末されちまうその前になんとかあいつに……。
その晩サカキは寝ずに青年のことだけを考えていた。
青年は疑問の持っていた。いつも一緒に居るこの男は何故自分の面倒を見てくれたり、自分んのために何かをしてくれるのだろうと。
青年は物心着いたときからその男と一緒にいた。その男はいつも青年にこういっていた。『ありがとう、お前のおかげで俺は堕ちないでいられる』その言葉の意図を察するには幼すぎたが、青年にとっては『ありがとう』その言葉を聞くだけで、胸のあたりが心地よかった。理解できなくてもその言葉を聞くだけで不思議といい気分になった青年はそのためだけになんでもした。男よりも偉そうな人間が自分に(すばらしい)(いい子だね)(欲しいものは何でもいいなさい)色々な言葉をかけられたが、青年にとっての一番はやはり男の言葉だけだった。
ある日青年が読み書きをマスターしたとき男はいった。もうここでお前が学べるものはない。『これかたは俺と一緒に組織の任務に就くことになる。よろしくな』男は自らをサカキの名乗った。青年にはまだ名前がなくサカキも呼び名に困っていた。青年は気にしていなかったがサカキが任務に支障をきたすという事で名前を付けることになった。
サカキは懐から一冊の古いメモ帳を取り出す。
『それ何?』
青年はただの好奇心で聞いたつもりだったがサカキは答えてくれた。
『これは俺が今までに教育したお前と同じガキの名前さ―――』適性がなくてみんな死んじまったがな……。そういうサカキの顔は傷を負ったわけでもないのに痛みの顔をしていた。
サカキはメモ帳の一番最後のページをめくると青年に行った。
『お前の名前は"サキ"だ。気に入らなかったら自分で考えてもいい』
『サカキと一文字違いだ』
サカキは青年をじっと見つめるが、その顔からは感情が読み取れない。「普通の人間であれば」だが、サカキにはわかっていた。この顔は喜んでいるときの顔であり、サカキの与えた名前に対して喜んでくれていたのだ。
『気に入れないならこの話はなかったことにし―――――』
『僕の名前はサキ………サキ』
冗談めかして言ったつもりが即答でOKが帰ってきた。
こうして青年は初めて自分の名前を手に入れた。例え偽りの名前だとしても青年―――――サキにとっては特別なものとなった。
サカキはいつもどおりの時間に起き身支度を整える。今日は組織から指示のあった場所で新たな指示を受けることになっていたのだ。
「じゃあ行ってくる。留守番よろしくな」
特に気をつけることはないだろうが一応声をかけておく。
「いってらっしゃい。サカキ―――」
「おう」
サキに留守を頼み仕事へ向かうサカキ。
あれから随分立つな……。サカキは自分の失敗したときのことを思い出していた。
今までの仕事で失敗などしたこともなかったサカキだがその時ばかりは相手が悪かった。自分の依頼人がまさか組織の人間で自分はそのための適性検査で任務をさせられていたのだ。
組織に入る前のサカキはフリーの殺し屋をやっていた。そこそこ腕もたちそれなりに有名だった。しかし組織に誘われ入ったときサカキはとても後悔した。
まさかこんなにおおきい組織だとはな―――。世界中のネットワークに侵入することが出来る技術を持っていたサカキだが、その技術をもってしても末端の情報も手に入らない組織に関わってはいけなかったと、そして自分に未来はないと悟ったのだ。
ある日サカキに新しい指示がきた。内容は子供の育成だ。
「またか、どうせ今回も………」
サカキの指導する子供は全て孤児や拉致してきた子供たちだった。殺しの才能がないとわかると、育ての親のサカキが始末することになっていた。サカキはそれに嫌気をさしていた。
自分で育てたやつを自分の手で始末させる胸糞悪いなほんと。
しかしその日サカキの前に連れてこられた子供はまだ1歳だった。
こんな赤ん坊にまで………。
しかし、サカキは驚くことになる。なんとその子供は10歳になる頃にはサカキよりも優秀な殺し屋へと成長したのだ。
少年には問題があった。殺し屋としては問題ないが人間としての問題……それは感情が理解できないのだ。
知識として分かっていてもその感情を自分のものとして捉えられないのだ。サカキは思った。
俺が教えなけりゃいけない……と。
サカキは少年が施設で肉体強化や改造、感情の破壊をされていることを知っていた。しかし組織の命令に背くとはできなかった。
そんな中サカキにとっての救いは、自らの手で少年を殺さなくて良かったことだ。
今までの繰り返しになると思っていたサカキだがそれを覆した少年には感謝していた。施設で少年が頑張ったときいつも『ありがとう』そう言っていた。
言わなければ自分が腐ると思ったのだ。
そこから二人はパートナーとして一緒に行動することになった。
少年との任務は実にシンプルである。ホシの情報を元にただ殺すだけ。サカキはそのサポートが主だった。
これでも現役の頃はやれてたんだがな……そう思いながら胸を押さえる。
サカキは少年と組む前に任務で失敗していた。その後遺症がありもう満足に走ることもできなかった。
そんな中何故組織が自分を始末しないのか、その理由が少年だった。
少年はサカキの指示には素直に従うが、ほかのものからの指示には好感的ではない。
組織の人間はサカキの利用価値をそこに見出した。少年がもう少し成長するまではこのままで居させると。
そんなことを思い出しながら指示された繁華街を歩いていた。
すると一般人に紛れ込んだ組織の人間がサカキの方へ歩み寄ってきた。
目にも止まらぬ速さでサカキのポケットに何かを入れる。サリ際に組織の人間は小声でサカキに呟く。
「ご苦労だったな。今日で終わりだ」
サカキは目を見開く。気づいたときには組織の人間は周りにいなく繁華街の人ごみの中サカキだけが呆然と立ち尽くしていた。
「今日か……突然だな」
小声で囁くその言葉を耳にしたものはいなかった。
サカキはサキの居る拠点へ戻りパソコンを起動する。
「おかえり」
「おー」
「サカキ何かあった?」
「なんもねえぞ」
「そっか」
鋭い指摘だ。しかしサカキの返事を聞くなりまた元板場所にもどるサキ。
サキは任務以外の時はずっと家におり様々な国の言葉、殺しの技術、身体強化等仕事に必要な鍛錬ばかりしており、子供の遊びとは無縁だった。
サカキはパソコンに先ほど受け取ったケースから取り出したメモリーカードを差し込むと任務の確認を始める。
「サキ、今回のはいつもより難しいぞ」
「いつも同じだよ」
「……そうか」
「?」
サキに出される任務は全て殺しの仕事で、時にスナイパーで遠距離射撃を、時には
政治家の家に入り込み毒殺を、時にはボディーガードになりすましホシを事故死に見せかけたりなど様々なやり方で殺していた。サキにとっては全て同じような工程と捉えているようだったが、今回の任務は異質だった。
"オカルト教団の全滅及び拠点の爆破隠蔽"今までの標的は一人だったが、今回は大人数が相手ときた。
サキならば容易くやってのけるだろうが、このカルト教団は異質な"儀式"をしており、キメラのような化物を作り出しているなど変な噂しかなかったためサカキは不安だった。
「今回は人数も多いし、未知の動物とかと戦う事になるぞ?」
どうせ拒否権はないのだが情報が少ないということはそれだけリスクが高いということだった。
いくら力があり超人的でも、その力におごっていれば失敗するのだ。
「いつも通り殺すだけだよ?」
「そうか」
サキは笑顔で答える。
サカキは嫌な予感を覚えていたが指示されたとおり1年後にその教団を潰すよう指示した。
今回は本当に嫌な予感がしやがる……。
サカキは不安を拭えないまま教団の情報を集め始めた。
少しづつあげていければと思います。応援していただけると大変励みになります。