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神(笑)から依頼されました

2020,8,27 改稿済み



『あら良い返事ね。最近物分かりが良い死者が多くて助かるわ』

「それで神(笑)様、どういう世界で、何に転生して、何をせよとおっしゃるんです?」

『神(笑)って何よ! ワタシはれっきとした神なのよ? 下界では創世の1柱(ひとはしら)って呼ばれているんだから!』


 おっとっと。(笑)は心の中だけにしようと思っていたのに。

 (笑)ってどう発音したのかって?

 ご想像にお任せします。


「それで、何?」

 

 なんだか対応が面倒くさくなってきた私は雑に次を求めた。


『無視するの!? その上敬語取れてるじゃない! ひどいわね。ワタシ泣いちゃうわよ?』


 細かい事を気にするなんて神らしくない。その経験値から大らかなのが神なんじゃないのかい?

 そういうことをするから神(笑)は神(笑)なんだって。身近すぎるんだよ。きっとこのヒト(神?)は本物なんだろうけどさ、拍子抜けする位軽いから……


『…うう、まあいいわよ。ワタシ、神だもの。創世神なんだもの。神(笑)って言われた位じゃへこたれないわ。…もっとイイコだと思ってたのに、ぐすん 』

「で?」


 ぐずぐずと話を進めない神にイラっとした。口調に殺意がこもったのはわざとではない。


『っわかったわ! 言えばいいんでしょう、言えば 』


 効果はバツグンのようだ。


『あなたは私の愛し子(いとしご)として転生して欲しいの 』

「愛し子?」


 愛し子ってあれかい?神とか精霊とかから加護をもらってチートするあの?


『そうよ。愛し子。この世界では神々が気に入った魂に会話能力と加護を与えて転生させることができるのよ。アナタを見つけられたのは本当にラッキーだったわ。ワタシの加護に適性があるコってあんまりいないのよね。まず、会話能力について。これは神との会話ね。大抵夢なんだけど、ワタシは色々あって人前に出たくないから、コレを使うのよん』


 ぽん、と軽い音がして目の前に白い箱が現れた。 

 受話器を肩に挟んで手を伸ばし、かかっていたリボンを解いて箱を開ける。きっと皆さん忘れてると思うけど、私、神と電話越しで話してるんだよ。


 中に入っていたのはシーリングスタンプであった。シーリングスタンプって、封筒を閉じる時に使う、蝋燭たらした上に押すやつのことだ。ヨーロッパなイメージのアレ。で、箱から出てきたのは赤い木製の取手で、刻印は半球の上に蓮の花の咲いた結構綺麗なデザイン。


「手紙でも送れって?」

『そーゆーこと♪ 物分かりが早いと助かるわ。どんな紙にでもいいから、書いてそれを押してくれればワタシに届くの。ああ、蝋をたらさなくても使えるようになってるわよ。インク切れの心配のないシャチハタみたいな仕組みなのよね。ほんっと、あいつが作るものは、いつ見ても便利だわ……』


 神、とか呼ばれる存在がシャチハタを知っているとは。きっと神の世界もお役所仕事なんだろうなぁ。


掌の上の封璽を転がしながら考える。どこでも連絡が付けられるのは便利だろうけど、スマホを知っていると、なんだか物足りない気もする。ただ、なんだかロマンがあってよい。デザインといい、アイテムといい、神(笑)のこのセンス好き。


にしても、手紙ねぇ。中学校の授業以来かもしれない。


 『それでね、ここからがアナタを呼んだ最大の理由よ。…私が男に戻る手伝いをして欲しいの』


 ふ、と真剣な雰囲気を漂わせた神(笑)が言った。

 しかしまた、男に戻す、とはいかに。私は普通に女性と話しているものだと……

 男であったはずが、ある日気が付いたら女になってました、なんてことはないだろう。

神だから色々事情があるんだろうが、口調だけなら、職業上の理由でというのはありうる。実際、私の通っていた皮膚科の先生は、口調がどこかそっち系だった。めちゃくちゃいい先生だったなぁ。


皮膚科の名物先生は置いておいて、もし男の人が女の人になったというのならば、さんざん悩んだ結果なのだろう。そんな急におきてたまるか。


『何言ってんだおまえ、って思ってるんでしょ?』


 私の困惑を見透かしたように神(笑)が言う。


「もちろん」

『即答されると悲しいわね。でも、ある日気が付いたら口調が女になっていたのよ?自分じゃどうしようもなかったの。何を話していても、口調がこうなってしまうのよ。話す内容までは修正されないのが幸いだけど、思ったことと口から出る言葉が違うのが気持ち悪いのよ』


 あった。あったよ。そんな事。ある日突然性転換、って。あるはずがないと思ってたのに。

 口調が勝手に変わる、ねぇ……

 神にもかかる強制力、とは恐ろしい。呪いなのか、神という職業的な特徴によるものなのか判断が難しいかもしれないけれど、無意識に自分が話す口調が変わるのはきっと不快だろう。


『神ってそうなのよね…。司るものが減ったり増えたり変わったりなんて日常茶飯事だし、性格が変わったりすることもあるの。さすがに性別が変わるなんてことは流石にあんまりないけど。』 


さっきの話だと、職業よりか。よくよく考えると、あり得る話でもあるか…

古代ギリシアとローマの神みたいに、ほぼ同じ神なのに都市が変われば名前と性格がちょっと変わるような神々がいるし、インドのヒンドゥー教では、ブッタも神。仏教では逆にヒンドゥー教の神が仏の姿を取っていたりもするし。

 神にも効く強制力はこれで理解できた。



『下界の人々の信仰の内容がかかわってくるのよね。人々が消極的な神のことを好戦的だ、って信じていればその神はだんだん好戦的になっていっちゃうし、その神は戦いの他に月も司っているんじゃねってことになったら、戦いだけを司っていた神が月の神を兼任することになっちゃうのよ。人の信仰っていうものは変わりやすいの。他の文化の影響を受けたりすると特にね。』


 神という不変の存在があって、それを人々が信仰しているのではなく、人々の信仰が神の姿を決める、ということだろうか。


『想像がついたかもしれないけれど、困ったことに、ここ数十年で他の宗教の影響からワタシは女神だと信じられるようになってしまったのよね。ワタシが司る生には豊穣も含まれるの。それで、他の神話ではそういう神って大体女神なのよね。地母神、って言うでしょ。まだ口調だけで済んでいるけれど、気が付いたら完全に性別が変わっているかもしれない。それはイヤだわ 』

「つまり、完全に女になる前に下界の認識を変えてほしい、と 」


 至急、対応求ムってとこか。


『そうそう。ワタシが託宣とか下して、ワタシ、実は男なんですーって言っても、多分50年もしたら忘れられて、また女神ってことになってるわ。イメージそのものを変えなきゃいけないの。それはワタシじゃ難しいのよね。そこであなたを下界に派遣するってワケ 』


 豊穣を司ったのが運の尽き。母なる大地、なんていうし。 私が転生して色々工作しないとその認識は変えられなさそうだね。 そして重要になってくるものが一つ。


「加護って何を付けてくれるの? 」


 どんな加護がもらえるかって、結構重要じゃない?最近なろう近辺でよくある小説で考えるとよくわかると思うんだよね。


 攻撃力が上がるようなものが付いているなら、何か強大な敵を倒しに行くって展開になると思う。

 いるだけ、あるいは祈るだけで国が栄えるようなものはきっと召喚聖女ものだろうね。展開として、政治闘争に巻き込まれかねない。

 自分を守るため、毎日腹黒狸と猫かぶっておしゃべりなんて絶対イヤ。

 狸は狸でも、ここでいう狸はてっぺんが寂しげで腹が出ているような狸だよ? いくらもふもふ博愛主義者を自称していても、その狸は愛せないね。


 平穏な生活のために多大なる労力を必要とするだろうし。そうして得た生活は真の平穏とは言えないもの。



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