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狭間の欠片  作者: 神羽 瀧歌
100年~
6/6

見た目

「綺麗だな」


 ベットに転がり本を読んでいるラーザの髪を少し掬い取りながらいった。ラーザはため息を吐いて本をとじた。


「この髪か?私はそんな好きじゃない」

「なぜ?」

「なぜって真っ黒いだろ?私はこの黒い髪も黒い目も大っ嫌いだ」

「黒いとはなんだ」


 わからないと首を傾げるファウに、ラーザは驚きで目を見開いた。体を起こして、ファウのとなりに座り直して、色の説明を始めた。


「色の名前、だ。私の髪も目の色も、ファウの着てるその服の色も黒だ。……ちなみに今の私が着ている服は青だ」

「青?でも髪の色となにも変わらないが……?」


 もしかして暗いからかと、明かりを手元に寄せた。


「これでも変わらないか……?」

「すこし明るくなったな」

「それだけ……?」

「ああ」


 もしかしてを確信に変えたラーザは、鞄を引き寄せ中から2枚の紙を取り出すとそれぞれの場所を指さした。


「こことここ、もしかして同じ色に見えるか?」

「ああ」

「……色の区別がついていないな。色盲だったのか」

「そうか」


 だからなんだと視線が言う。とくに気にしてはいない返答にラーザは顔をほころばせた。


「困っていないならいいんだ。なあ、知っているか?ファウの目はワインのような濃い赤なんだ」

「それはアンタにとって嫌な色か?」

「いいや、綺麗だと思う」

「ならいい」

「さっき私は黒が嫌いだと言ったな」


 ファウはうなずいた。


「理由が?」

「ああ。黒は、私の国では不吉という理由で嫌われていたんだ。あの国で魔力を持つ人々は魔力の色が髪の色や目の色に反映されることが多い。けど、基本的に親と子の魔力は似るものなんだ。そこまで変わることはない。なんでかわかるか?」

「子を成すときに魔力も混ぜ合わせるから」

「そう。より大きな魔力を持った子どもを産むために、親は互いの魔力を合わせる。だから、色彩も似ることが多い。たまに起きる突然変異。それが私だ」


 視線をそらしたラーザは、自嘲気味な笑みを浮かべた。


「私の家系は基本的に金髪や金に近い茶髪、緑に近い金髪が多く生まれる家系なんだ。私と同じ色を持って生まれてきたのは、2代目だけらしい」

「お前は何代目だ?」

「47代目だ」

「少ないな」

「いや……私の家系がほぼ一人っ子ということを考慮にいれる少なくはないと思うが……珍しいことには変わりない。色が親と大きく異なることは、一族全体で見ると少ないわけではない。でも、問題なのは黒を持って生まれてきたことなんだ」

「黒になんの問題がある」

「不吉なことが起きる予兆と言われていてな、子だくさんな家族のところに生まれていたら殺されるぐらいには嫌われている。その子どもがいなくなれば災いが起きないと信じられているからな」

「愚かだな。人ひとりが消えただけで、その家族にとって悪しき出来事が簡単に消えるはずないのに」

「そのとおり、出来事は何人もの行動や人知の及ばぬ現象が複雑に絡み合って起きているのだから変わるわけがない。でも、不安をすこし軽減することができる。それが、大事なんだろうな。だから、めったに生まれることのない黒を排除する」


 ラーザは悲しげに笑った。


「実際に私の故郷は滅びてしまったしな……」


 私が生きていたから、とつぶやきが零れ落ちた。


「自然災害だろ。あんたがいなくても起きていた」

「早めてしまったのは私だ」

「誤差だ」


 ファウは余計なことは考えるなとでも言うように、ぐしゃぐしゃに頭をかき混ぜる。


「それに、その色を持つ人がたくさんいる国もあったんだろう? 気にすることはない」

「あったな」


 その通りだと、ラーザはうなずいた。ああ、と思い出したのかファウはラーザの目を覗き込んだ。


「さっき、髪と目の色が同じ、といったな」


 ラーザはうなずいた。


「そんなことはないぞ? 俺はこの色が何色かはしらないが澄んだ色をしている」


 そういって、ベットに押し倒したおされ驚いたラーザは、自分に流れ込んできた力を完全に拒絶することができなかった。無理やり探る力に抗っていたが、見せるだけだといわれ、抵抗を止めた。頭に流れ込んだ自分の姿をみて息をのんだ。明暗でしかない視界のなかで目だけが色を持っていた。


「黒じゃないだろ?」


 めったに表情が変わらないファウが楽しそうに笑うのを見て、ラーザは驚きで目を見開いた。


「これは、青っていうんだ…………けど、なぜ……」


 映りこんだ自分の顔がくしゃりと歪んでいるのを複雑な気持ちで見つめながら聞いた。


「しらんな。気にしたこともない。ただ言えるのは、色を持った目の持ち主はめずらしいということだ。しかもここまでハッキリと色を持った人間はな」

「そう……か……。…………ありがとう」


 消え入りそうな声でつぶやき、腕で顔を覆った。


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