始まり
「なぁ、話し相手になってくれないか?」
闇と静寂が包む洞窟の中、男の声だけが響いた。
洞窟の中には男が2人、1人は気怠そうに毛皮の上に寝転び、1人はそれに寄り添うように座っている。
寝転んでいる男は自分に触れている手から疑問が流れこんでくるのを感じた。
「だから、会話だよ。いま、お前は私の感情しか読み取れていないはずだ。けれど、私が先ほど言った言葉を理解している。理解していないと思い込んでいるだけで,実際は単語を理解している、いや、言葉を理解しているのだろ?」
肯定が流れこむ。
「それに、ここには何もない。あるのは、静寂。静かすぎる。沈黙が騒がしいくらいに。暗闇に浮かぶ見えざるものが私を責める。それが思い込みかもしれないが私にはもうわからない。私を、もしここにとどまらせるつもりならば、私の相手をしろ。それくらいいいだろう」
迷い、疑問。
「どうせお前は、私が正気を失うことがあっても、その力を使って私をここまで引き戻すのだろう。ここを離れようとしても、決して逃したりなどはしないだろう。私の暇つぶしに付き合ってくれるのなら、いまのところは逃げようとは思わない。帰るところなんてない。待っている人もいない。どこにも行くところなんてありはしないんだ。だから、私の話し相手になってくれ」
迷いと、肯定。
寝そべっている男は、座っている男の袖の裾らしきものを引っ張った。
「いいのか?」
肯定。
「では、ルールを示そう。
1、相手の言葉には何かしらの言葉を返す
2、疑問には必ず答える
3、決して嘘をつかない
でいいだろう。さあ、すこし話をしようか」
寝転んでいた男は起き上がり、もう一人、気配のある方に体を向けた。