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春夏秋冬  作者: 半月
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苦しみの中で散る花を、あまりに美しく儚いその花々を静かに愛でたいと、そう思った。


今年もこの季節が来たのだと思った。

春になるに連れ私は花粉で苦しむことになるから春の訪れはすぐそこだといやというほどわかる。

この時期は誰しもが出会いと別れの季節だという。事実そのとおりだとも思う。

けれどそんな感覚もいつからだろう、四角い箱のなかにこもる生活で忘れていた。

疲れてボロボロになって家に辿り着き、寝不足の体で出社してやりたいことがひとつ、またひとつと消えていくこの感覚。

月がキレイな夜にだけ自分の愚かしさを思い出してはこのままではダメだと叱咤してきた。空が綺麗なことで自分へのご褒美として生まれ変わったと思おうとしてきた。

枝先が薄桃色になっていたのは知っていた。

でも今まで知らなかった、気づかなった。

4年以上使い続けたこの駅が、駅の前が辛夷(こぶし)の木で覆われていたことに。

夜ふと気づいた時には辛夷の花は全て満開だった。空が澄んだ春にしては寒い気温の中で月が煌々と輝き、その近くで見たこともない星が煌々と瞬いていた。

その光景はあまりにも美しかった。

夜に映えるほのかに駅の光を反射した真っ白なその花は昨日にはまだ咲いていなかったことを頭の片隅で思い返していた。

それどころか、蕾があったことにすら私は気づかなかったのだ。

朝の出社時に道端の鉢植えの中にあまりにもまだ柔らかそうなまん丸の花が開いていることは知っていた。

その日咲いたばかりなのだとひと目で分かるほど柔らかい空気をまとった二輪の花はあまりにも可愛らしく、愛らしかった。完全に開ききった花はあの柔らかさを数分と保つことはできない。

自分は花だと言い聞かせて生きてきた。花盛りの内に行動せねばと動いてきた。誰しもが花だと思い、誰しもが皆各々に主役だと思って生きてきた。

自分の人生において、自分以外の誰が主役だというのだろう。そうやって毎日自分を奮い立たせ、戦闘曲を聞いて前を見てきた。

だが私は同じことをただ繰り返していただけにすぎなかったのだ。それをこの辛夷の花に教えられた気がした。

今でもそれらは変わらない、自分の人生において主人公は自分ただ一人。誰しもが花であると思う。

ただ、私はこの日のこの満開の花と星月夜を忘れることはないだろう、と思った。

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