ep008 透明世界へ
俺はさっそく、宿に戻り“透明世界”に行くことにした。
ベッドに仰向けになり、ポケットから星型のクリスタルを取り出して掲げた。
「・・今行くから」
と、星型のクリスタルを細く見つめながら、呟いた。
それを、またポケットにしまい、水とアルアの店で買った昏睡状態の薬を口に含み、再び仰向けになる。
──透明世界へ!
その言葉と共に、俺の意識は違う世界へと飛翔したのだった。
*
透明世界。本当に何も無いような世界が広がっている。ここにいる他の者たちは、必死にここから出ようと“透明のカケラ”を必死に探し回っては、魔物を片っ端から倒してる者が数多くいた。
ラフィは、眠りから目を覚ますとゆっくりと上体を起こし目を軽く擦り、大きくひとつ伸びをした。
「・・・・よし!」
と、軽く微笑み、そして立ち上がって今日もまた“透明のカケラ”を探す旅に。
いつかまた、レイトに会えることを信じて──。
*
気がつけば、俺はそこにいた。“透明世界”に。
ラフィの言った通り、白い世界がずっと拡がっていた。
「どこかにラフィが・・・・」
俺は、唇を噛み締め拳をぎゅっと力を込めて握った。そして、立ち上がりラフィを探しに白い世界をどこまでも、走った。
どれくらい経っただろうか。
それでも、まだラフィは見つけられない。面積が広すぎるのだ。
度々、人にあってはラフィの事を聞いたりしたが、ラフィに会った人にはなかなか合えなかった。だが、俺は諦めずずっと聞きまわっていた。諦めたら、全てが終わり──だからだ。
そんな中、俺は遠くに蹲っている少女を見つけた。微かに俺は首を傾げ、その少女へと歩みを進める。
彼女は、微かに嗚咽を漏らしていた。俺はその少女に、冷静なトーンで声をかけた。
「・・・・どうしたの?」
はっと、したようにその少女は視線を俺に向けてきた。黄色と黄緑の混ざり合った髪色、結びめが三つ編みのポニーテイル、度々流れる黄色い流れ星のようなものとそっくりの瞳だった。ずっと泣いていたからなのか、目が少し赤く腫れている。
「・・・・・・あたしに構わないで」
と、視線を逸らし彼女は俯いた。とは言われてもなあ、と心の中で呟き、頬をぽりぽりと掻いた。
その少女は、どこか昔の俺に似ている気がした。何か大切なものを失ったような──絶望感。
俺はしばらく、そこに佇んでいた。彼女には、それが気に障るようで、俺のことをキッと睨みつけた。
「どっか行ってよ!!あたしに構わないでって言ってるでしょ!!」
と、涙声交じりに俺に怒鳴りつけるようにそう言った。
だが、俺は引き下がることはしなかった。
「そうは、行かないな。泣いている女の子を放っておくようなヤツじゃないんでね」
再び、彼女は視線を逸らし「・・ばっかみたい」と眉を微かに吊り上げ、静かに呟いた。
「で、どうしたのさ?」
俺は、彼女の隣に腰を下ろし訊いた。
「・・別に。初対面の男になんか関係ないでしょ」
と、先ほどから相変わらず機嫌悪そうに俺に言った。
「そうだけどさ──」
俺はそこで、言葉を止めた。
彼女は、俺のことを少し横目で眺めてから口を開いた。
「・・・・いいわよ、話してあげる。そんなに聞きたいなら」
と、彼女は気分が乗らないような声音で語り始めた。