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The last key...  作者: may
透明世界編
6/12

ep005 偽りの身体

 「本当にお前は、ラフィ・・なのか?」

 俺は、おずおずと尋ねる。そして、彼女はこくりと頷いて見せた。俺は何かが沸きあがってくるのを感じていた。

 「生きて・・・・いたのか・・・・・・」

 「うん・・・・でもね」

 ラフィが泣き面を見せる。俺も、今にも涙を流しそうにしているのをぐっと堪えている。

 「でも・・・・?」

 「今の私は、本当の身体じゃないんだ。本当の身体は、別の世界にあるの」

 と、彼女は昔のことを話し始めた。



 3年前、ラフィが13歳の時にレイトと突然出合った。運命かのように。

 「ね、一緒にコンビ組まない?君もさ、“石珠ストーンパール”探しているでしょ?」

 「うんまあ・・そうだけど」

 レイトは、頭をぽりぽりと掻きながら少し考え込んだ。

 「一人よりははかどるよ。ね?」

 ラフィは、レイトに詰め寄った。レイトはうーんと唸り、また黙った。

 「・・・・わかった」

 と、小さく言った。ラフィは微笑み、右手をレイトに差し出す。

 「私、ラフィ・レアーノ。宜しくね」

 レイトも薄く笑い、ラフィの差し出された右手を差し出し握り合う。

 「俺は、レイト・アノベル」

 出合った場所・グラディスアの草原あの木の下で。そこから、レイトとの旅が始まった。



 ドロップしたアイテムを分配したりして、一日中魔物と闘いに没頭していた。

 暗くなり、そろそろ止めるかということで解散することになった。

 「今日は楽しかった。また、宜しくね。バイバイ」

 「ああ、こちらこそ」

 ラフィは、右手を左右に振って踵を返した。

 レイトは、その後ろ姿をしばらく見つめた後、踵を返した。

 


 しばらくした頃だった。

 たまたま、そこのボス魔物モンスターと遭遇してしまった。

 レイトは、何かを察し「やばい」と小さい声で呟き、ラフィの手を引いて懸命に逃げようとした。

 だが、それは無駄ですぐ追いつかれてしまった。

 こうなったら、闘うしかない、と思いレイトは長剣を別空間から召喚した。ラフィも倣うように、戦闘態勢に入った。

 1秒もずれないで、二人は地面を蹴ってボス魔物モンスターに掛かった。

 レイトが予想した通り、そのモンスターはラフィたちよりも遥かに強く、とても二人で倒せるような相手ではなかった。

 レイトは、次々と長剣に魔力を込めそれを放った。ラフィは、手を自由自在に動かし、水の魔法・氷の魔法を操って、攻撃を繰り返していた。休むいとまも自分達に与えず、ただただ攻撃し続けた。

 そのボス魔物モンスターは、レイトの長剣を振り払った。その剣は、宙を舞いながら回転し、地面に刺さった。

 「くっ・・・・」

 攻撃するかと思ったら、そのボス魔物モンスターは瞬間移動したかのように消えた。

 ラフィは、息を潜め体制を低くとった。

 ボス魔物モンスターに気付いた、レイトはラフィに無我夢中で叫んでいた。

 「後ろだ!!!」と。

 後ろを振り返った時には遅く、ラフィは空中を舞い吹っ飛ばされた。

 そしてラフィは、小さな結晶のようにそこから姿を消した。



 「ん・・・・・・」

 重い瞼をゆっくり開けると、見たことのない世界にいた。

 「ここは・・・・」

 ゆっくり起き上がり、辺りを見回した。そこは、白い世界が続くだけでたまに黄色い光がひゅんっと流れ星のように落ちていくだけだった。

 「そっか、私死んじゃって・・・・・・」

 右手を胸の前で握る。星型のクリスタル。二人が繋がっている証──。

 いつしか、ラフィはそれを見つめて涙をぽたぽたと流していた。

 「もう・・会えないなんて嫌だよ・・・・・・」

 ラフィは、一人虚しく声を押し殺して泣いていた。

 ラフィは、はっとなり、

 「まだ、意識があるってことは・・元の世界と繋がってるっていうこと・・・・・・?」

 ──希望はまだある。

 「諦めちゃ・・駄目だ・・・・・・」

 ラフィはゆっくり立ち上がり、何も無い白い世界を歩き始めた。

 再び、レイトと逢える事を信じて──。



 「その何もなく、白い世界の事を“透明世界”って言うんだって。そこにいたのは私だけじゃなかったんだ。きっとその世界は、もう一度だけチャンスを与えてくれたんだと思う・・・・」

 「じゃあ、いつ会えるんだよ・・・・本当の身体ラフィに」

 ラフィは、首を横にふるふると振って俯いた。

 「わからない。でも、絶対また君と逢えるって思ってる。こうして、心念体で出会うこと出来たんだもの・・・・。身体が、本物と同じ喜びや悲しみが味わえても、それは本当の感情じゃない。偽りなんだって・・・・・・」

 俺は、唇を噛み締めてキッとラフィを鋭く見た。

 「じゃあ、俺はこのまま何もしないで見てろって言うのか!・・・・そんなの・・・・・・」

 最後の言葉が、震えていた。俺は何を言おうとしたのか。わからない。

 「そんなこと言ってないじゃ・・・・ない。希望はあるんだよ」

 「・・“透明世界”に行って、お前を助けることってできるか?」

 俺は、俯きながら言った。

 ラフィは、少し考えてから口を開いた。

 「可能性はゼロじゃない。でも、行けたとしても戻って来られるか──」

 「必ず戻ってこられる」

 俺は、ラフィの言葉に口を挟んだ。

 「大丈夫。心配しなくて良い。俺は、色んなところに行ってとりあえず、方法を調べる・・・・。だから、会うのは我慢・・・・だ」

 俺は目を逸らしながら、そう言った。だが、心のどこかでは離れたくなかった。──そうするしかなかった。そうしないと、逢えるのが先の未来になってしまう。

 彼女は首を斜めにして、俺を見つめて微笑んだ。

 「・・じゃあ、私は戻るね」

 「ちょっと待ってくれ」

 俺は、彼女の腕を掴んだ。聞きたいことがあったから、だ。

 「昨日会った時、なんであんなに急いでたんだ?」

 彼女は「なーんだ、それ聞きたかったんだ。大事なことかと思った」と、笑った。この笑顔が、偽りだと思うと胸がなんか痛くなる。

 「君が、グランディーシティにまだいるって聞いて急いでただけだよ。最初は気付かなかったけどね、後からわかった。君がレイトだって」

 彼女は、腕を後ろに組んで空を見上げた。涼しい春風が、彼女の髪を靡かせた。

 「ほんと・・・・昔よりかっこよくなったよね」

 ボソッと呟いたラフィの言葉は、俺の耳には届かなかった。

 「何?聞こえなかった」

 彼女は踵を返し、前を向きながら、

 「なんでもなーい」

 と、ひらひらと右手を振った。

 そしてこちらへ振り返って、

 「また会おうね。待ってるから」

 と、優しい声音でそう短く言った。


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