ep004 星型のクリスタル
鳥の囀りと共に起きた俺は、ベッドの上で座っていた。
「もう、朝か」
窓の外の木に止まる鳥を見つめながら、一人呟いた。再び、頭からベッドにダイブする。その衝撃で、少しベッドが揺れた。
ベッドの左隣にある、四角いミニテーブルに置いておいたものを手に取る──半分の星型のクリスタルだ。それを右手で、天井に向ける。窓から入ってくる太陽の光がそれに反射してキラキラ光っている。
魔物からドロップしたものだ。昔、一緒に旅をした少女と半分こしたもの。あまりにも綺麗だったので「二人が繋がってる証」ってことでそうなった。
それを見つめてるうちに、あの日々を思い出す。
「・・久しぶりに行って見ようかな」
再び、ベッドの上に座り、ポケットに星型のクリスタルをそっと入れた。
着替えを済ませ、部屋から出る。
1階フロアの、食堂で朝食を済ませたあと、レダント宿を後にした。
俺はまたグランディーシティの近くのグラディスアの草原に来ていた。
ここは、魔物が少なく“始まりの草原”とも言われている。
この世界の気候は、ランダムに変わる。
例えば、朝の時点で快晴又は晴天だとしたら、一日中その天気なのだ。その次の日の天気は誰も予想することができない・・・らしい。
だが、極稀に曇りだったのが、雨になったり、快晴だったのがいきなり曇り始め、雨になることもある。
俺は、歩を進め一本の大きい木の前に来ていた。
「懐かしいな・・」
と、一人呟き日陰になるところに座り、横になる。
「昔と変わらないな・・・・・・。風が気持ち良い」
すうっと微かに匂う、春の風。それを感じながら、瞼を少し閉じる。
ガサッ。
俺は、音のする方向に一気に向いた。魔物かと思ったが──、
「こんにちは」
と、首を少し斜めにし俺の顔を覗き込む、昨日の少女──が立っていた。
春の風に従いながら、揺れる栗色の髪は、ほのかにいい匂いがした。
俺は呆然と彼女をしばらく見つめていた。現実世界に引き戻されたかのように、肩を浮かせた。
「・・そんなに驚かなくてもいいでしょ」
彼女は、口を尖らせてそう言った。顔にかかる髪の毛を右手で抑えながらこの木を見て言った。
「ここ天気良いと尚更、風が気持ち良いよね。昔、良く来たなあ・・・・」
──昔?
「・・・・・・俺に用があったのか?」
あの頃の記憶が込み上げて来そうなのを無理矢理はらって、そう言った。
「あ、うん・・・・。なんか、気になっちゃって。私、なんか悪いことしたかな?そうだったら、ごめんなさい」
目を細めながら俺を見下ろし言った。
「別に・・。人といると、昔のことを思い出したくないからそうしてるだけだから」
「ねえ、聞いても良い?私は、昔のその人とは違うのに、何で目逸らすの?」
俺は唇を噛み締め何かを絞りだすように考えていた。すると彼女は、ちょこんと俺の隣座って空を見上げていた。
その横顔は、本当に昔のあの少女のようだった。
俺が3年前、突然その少女と出会ったのだ。最初は些細な“石珠”集めでコンビを組んでいただけだった。その時も俺は、避けていた。でも彼女は、そんなの気にせずにずっと俺と一緒にいてくれた。心のどこかでそれが嬉しかった。いつしか、何かも抱いていたようだった。多分、好きだったんだと今になって思う。それから、彼女を殺してしまったと一晩中悩み悔やみ悲しんだ。もう二度とこんなことには、させたくないとその思いから人を更に避けるようになったのだ。
「・・・・関係ねえだろ。俺がどうしよかと」
「私ね、君の事なんか知ってるみたいなんだ。昔から」
はっと俺は、彼女を見た。すると彼女は、微かに微笑んだ。
「目を合わせるって凄く大切なことだと私は思うんだ。目から、感情がわかったり、ね。君、今驚いてるでしょ?目隠しなんかしてたら、感情なんてわかんないもん。私は、それが少し辛い」
「もしかして・・・・・・・・」
俺は、半信半疑で問うた。
「・・・・うん」
彼女は俺を見つめながら、ゆっくりと頷く。
「私は、ラフィ・レアーノ。久しぶり、レイト」
俺の中は、喜びと驚きが混ざり合って彼女を見つめていた。