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町並みは、陽和がここに住んでいた頃となんら変わりはなかった。
といっても、少しは変わっている部分もある。
あっ、この角にあったタバコ屋さん、なくなってコンビニになってる、とか、そういった変化は確かにあった。
それでも、全体的な雰囲気はまったく変わっていない。
町の人みんながこの町の雰囲気を好きで、変えたくないのだろう。そんなふうにすら思えた。
「ねぇ、ミサキ。あの丘に、行ってみない?」
陽和が提案する。
陽和とともに景色を見ながら語らい合った、陽光さんから教えてもらった思い出のあの丘――。
僕も行きたいと思っていたところだった。
「不思議だよね」
町外れから林の小道へと入ると、陽和がポツリとつぶやいた。
「え……?」
「だってさ、ミサキと出会って、この惑星で一緒に生活してたのって、たった一週間くらいだったのに。そのあいだにいろんなことがあって……。宇宙に出てからも充実した日々ではあったけど、ここでの一週間が、私が今まで生きてきた中で一番密度の濃い時間だった気がする」
「うん、それは僕も同じだよ。でも、その時間がなかったら、今の僕たちはないんだ。……確かに、不思議だね」
町並みですら変わりがないように見えたのだから、こんな場所にある林がそれ以上に変わったりなんてしないだろう。
ふたりで何度か通った林の中の小道は、思ったとおり、当時とまったく変わっていなかった。
「ここら辺だよね、黒ずくめの人たちに襲われたの。捕まった私を助けてくれたミサキ、すごくカッコよかったよ」
頬を赤らめてうつむく陽和。僕も同じように頬が熱くなるのを感じていた。
だけどあのときって、カッコよかったかな?
だって、勢いをつけて走っていたから、他に方法もなくて仕方なく体当たりしただけ、って感じだったし……。
結果オーライではあったけど、思えば無茶なことをしていたのかもしれない。
黒ずくめの奴らだって、不意を打たれなければ、持っていた武器で僕たちを攻撃してきたかもしれないのに。
「もう……。せっかく私が思い出に浸ってるんだから、変な茶々を入れないでよ。そこは話に合わせて、嘘でもカッコいいセリフを言ってくれなきゃ!」
「あははは……」
ま、そんな正直なところも、ミサキのいいところなんだけど。
小さくこぼれ落ちた陽和の声は、林を吹き抜けるそよ風の音に隠されそうになりながらも、僕の耳に微かに届いていた。
☆☆☆☆☆
やがて、視界が開けた。
そういえば最後に見た丘の景色は、掘り返された穴だらけの状態だった。
月夜深たちによって採掘されたあとだったからだけど、あの穴は埋められたのだろうか?
とはいえ、ここは人もそうそう立ち入らない丘の上。結局そのままで荒れ果ててしまっているかもしれない。
だから、どんな状態になっていたとしても驚くことはないだろう。
僕はそう思っていた。
でも――。
『………………』
僕も陽和も、言葉を失っていた。
視界に広がっていたのが、以前のままの丘の景色でも、穴だらけの荒れ果てた景色でもなかったからだ。
一面に広がるヒマワリの花畑。
背丈の高いヒマワリが青空へと向かってその茎を伸ばし、太陽のように大きくて鮮やかな花が、それこそ星の数と言ってもいいほどたくさん咲き乱れていた。
これは、いったい……。
「あ……」
陽和がなにかに気づいたようにつぶやく。
「あのとき、ミサキのポケットに入ってて、私がそこらへんにポイしちゃった、あのヒマワリの種……」
……そうか!
あのときのたったひと粒の種が、ここまでたくさんのヒマワリに増えたんだ……!
風にそよぐヒマワリを、ただ呆然と見つめることしかできない僕と陽和。
「自然って、すごいね」
「うん」
「だけど、思い出の場所が変わっちゃったね」
「あら、でも、これはこれで綺麗だし、いいんじゃない?」
時間が経てば、いろいろなことが変わっていく。
場合によっては悪い方向に変わることだってあるだろう。
たとえそうであっても、いい方向へと変わっていくように努力することはできる。
いい方向に変えていくことが――そして、変わったという事実を受け入れて前に進んでいくことこそが大切なんだ。
「うん、そうね」
僕の肩に寄り添う陽和のささやきが聞こえる。
「私もミサキも、この先いろいろと変わっていくんだよね」
「うん。この丘みたいに、いい方向に変わっていけるように頑張ろう」
爽やかな風が、ふたりのあいだをすり抜けていった。
「でも、陽和へのこの想いだけは、永遠に変わらないよ」
「……ちょっと、月並みすぎる気がするかなぁ、そのセリフ……」
不満の声を漏らす陽和は、そうぼやきつつも、温かな微笑みを携えていた。
「これからも、よろしくね」
「うん、こちらこそ」
たくさんのヒマワリたちに祝福されながら、僕と陽和は、ともに歩みゆく未来を誓うのだった――。
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