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「待ちなさいよ!」
そのとき、突然大きな声が響いた。
怒りに満ちたその声の主。
それは陽和だった。
振り返る僕の目に、こちらに向かって走ってくる陽和の姿が映る。
その後ろには、優陽さんと明灯さんも続いていた。
「陽和……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう! どうしてなにも言わずに出ていこうとするのよ!」
息を切らしながら、陽和は僕につかみかかってくる。
「ごめん……。さよならくらいは言わないと、とも思ったんだけど……。陽和に会ったら気持ちが揺らぐと思って……」
「そういうことを言ってるんじゃないのよ! どうしてあなたは、ひとりで帰ってしまえるの?」
「え……?」
僕には、陽和がなにを言っているか、よくわからなかった。
「私は……」
陽和は息をなんとか整えると、力強く、こう言いきった。
「私はあなたが好き! だから、離れたくないの!」
それはすごく嬉しかった。
だって、僕も……。
「うん、僕も、陽和のことが好きだよ」
不思議とそれは素直に言葉にできた。
だけど、その気持ちを打ち消す、陽和にとっては残酷であろう言葉を、僕は躊躇しながらも続けた。
「僕には父さんが叶えられなかった夢を継ぐという目標がある。それは前にも話したよね? だから僕は、ここに残るわけにはいかないんだ。……どうか……わかってほしい、陽和……」
言っていて、自分でも辛かった。
でも、仕方がないんだ……。
陽和は、うつむいて震えていた。
泣いているのかな?
陽和を泣かすなんて、僕は最低だ。
そう思ったのだけど……。
陽和は泣いてなんかいなかった。
「わからないわよ、バカ! なに自分で勝手に結論づけちゃってるのよ! しかも、自分も辛いんだ、みたいな顔してさ!」
陽和は僕につかみかかったまま、目を背けることなく、正面から怒鳴り散らした。
「もっとちゃんと周りを見てよ! もっとちゃんと私のことを見てよ!」
「だけど僕は、ここには残れないんだ……」
陽和に正面から怒鳴られて、すでに揺らぎそうになっている自分を情けないと思いながらも、どうにか意思を貫き通そうと声をしぼり出した。
そんな僕を、陽和は一点の曇りもない澄んだ瞳でまっすぐに見据え、
「だから! 私がミサキと一緒に行くって言ってるの!」
はっきりと強い決意の言葉を示してくれた。
「いや、言ってなかったけどね」
明灯さんが茶々を入れる。
えっ? でも……あれ?
僕は混乱していた。
陽和が、一緒に来る?
「で……でも、陽和はこの惑星の住人で……」
「そうよ。ミサキはファイブナインズの住人。離れたくないなら、どちらかがどちらかに合わせるしかないわ。だから私がそっちに行く。それだけのことよ!」
迷うことなく言い放つ陽和。
「だけど、ファイブナインズからこの惑星に住み着くのと、その逆とじゃ、全然違うんだよ? キミがファイブナインズで数ヶ月生活しただけでも、この惑星の人は寿命まで生きたとしてもすでにいなくなっているんだよ? だから、すべてを捨てることに……」
僕の言葉を、陽和はピシャリと遮る。
「私はすべてを捨てて、ミサキとともに行きます!」
「ヒューヒュー! よく言った! それでこそ、我が妹!」
再び明灯さんが茶々を入れる。
……あなたは、面白半分でついて来ただけなのでは……?
その横には、「おいおい、やめろよ」と苦笑を浮かべながら明灯さんの頭を小突いている優陽さんの姿もあった。
相変わらず仲のいいことで。
と、そんなことはどうでもいい。
僕も、陽和の想いに応えなければ。
「本当に、いいの?」
「うん。迷いはないわ」
続けて陽和は、僕の瞳をじっと見据えながらこう訊いてきた。
「これが私の意志。でもミサキが望まないのなら、私はこの身勝手な想いを断ち切るつもり。だから答えて。あなたの本心を」
「僕は……」
そうだ、もう迷うことなんてない。
こんなにもまっすぐに僕のことを見つめ、すべてを捨ててまで飛び込んできてくれる、陽和という存在がこうして目の前にあるのだから。
「わかった。陽和、一緒に行こう!」
「はい!」
僕は陽和を力いっぱい受け止めた。
こうして、僕たちの宇宙船に船員が一名増えたのだった――。